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兄弟の島としての琉球とグアム 【龍谷大学経済学部教授】 松島泰勝

 琉球から海兵隊8千人がグアムに移設されることになった。この措置は琉球にとっての負担軽減になると喧伝されている。本当にそうだろうか。グアムでは00年から基地機能が増強されてきた。艦船修理施設の返還が中止になり、新たにミサイル搭載原子力潜水艦基地が設置され、地上戦闘隊や航空遠征隊が配備された。同年、米海兵隊のジ
ェームス・ジョーンズ総司令官は「在沖米海兵隊の訓練をグアムでもっと行うべき。グアムは移動性、戦略的にも米軍にとって重要な位置にある」と指摘した。つまり、米政府は少なくとも9年前からグアムの戦略的重要性を認識し、在沖海兵隊の移設を受け入れる体制にあった。今回の琉球からの海兵隊移設は機能強化過程の総仕上げの意味がある。

 ではなぜ今回、グアムへの移設となったのか。日本政府が移設費用を支払うからである。米国は米軍再編として日本国内における米軍基地の構成を変更する過程で、グアムへの海兵隊移設を「負担軽減」として日本政府に恩を着せて、移設費用を支払わせることに成功した。米国単独でやろうとすると膨大な費用がかかる。米国は少なくとも9年間この機会を待っていたのかもしれない。琉球から海兵隊8千人がいなくなっても、琉球には新しい基地が建設され、自衛隊と米軍との共同訓練が実施される等、基地機能は低減しない。むしろ、グアムに海兵隊の司令部機能を移し、琉球に実践部隊を残したということ、そして自衛隊との戦闘協力体制を強化したことから考えると、琉球を戦場として使える状態にして、中国、北朝鮮への睨みを効かしたいという意図も見えてくる。グアムでも「海兵隊移設特需」として喜ぶ人もいると聞く。私は97年から99年までグアムで生活していた。島全体の3分の1が基地である。島の北部のアンダーセン空軍基地と南部のアプラ海軍基地を結ぶ道路が島の生活、観光等にとっても基幹道路となる。軍人はホテル、レストラン、ゴルフ場等を利用している。つまり軍の戦術上の目的に沿って島のインフラが整備され、観光市場の顧客としても軍人が重要な意味をもっている。今回の「海兵隊移設特需」により、基地経済への依存度も一段と深くなり、米軍の支配体制がさらに続くことになるだろう。




 基地機能が強化されたということは、有事の際には敵国から攻撃されることを意味する。海兵隊の司令部がグアム、実戦部隊が琉球に分かれたことで、グアムと琉球とはセットで攻撃対象になるであろう。海兵隊の数が削減されたから負担軽減とみなすのではなく、実際に戦争になった場合、住民が戦闘に巻き込まれる可能性の高さをも考えると、とても負担の軽減とはいえないであろう。なぜグアムが海兵隊の移設先になったのか。グアムが米国の自治的未編入地域という、民主主義が制限された地域だからである。たとえグアムの人々が反対しても、米政府・議会の意向を一方的にグアムに適用できる。基本的人権の尊重、国民主権、市民平等を唄う日本国憲法の中にある沖縄もグアムと同じく、住民がどんなに反対しても、日本政府は自らの意図を押し付けてきた。グアムへの海兵隊の移設は、チャモロ人の米国への従属をさらに深めよう。日本政府は膨大な資金によってそれに加担しようとしている。グアムは歴史的に、また現状も沖縄と似たような状況下におかれた島である。

 現在、グアムにあるチャモロ・ネーションという団体を中心とする「グアムの平和と正義のための連合」はオンライン上において、同島で強化されている基地機能に反対する主張に対する国際的な支援を求めている。特に琉球からの海兵隊移設の決定過程においてグアムの人間が排除されてきたことに異議を唱えている。またこの基地機能の強化は、グアムの環境、社会、文化、政治経済からみて島に深刻な影響を与えるとしている。グアムにはチャモロ民族という先住民族が住んでいる。チャモロ民族の先住権を基にして基地反対運動を展開しているのがチャモロ・ネーションである。私がグアムに住んでいたころ、同組織の代表であったエンジェル・サントス氏と話したことがあるが、文字通り体を張って米軍基地に抵抗していた。グアムにはこのような基地移設に反対する人間がいることを琉球側は明確に認識する必要がある。グアムが米国だから海兵隊移設を当然と考えたのでは、世界の人から琉球の反基地運動は共感をえられないだろう。

 日米両政府は、琉球の新基地を建設するための取引材料として、グアムの「基地特需」を琉球の経済界に提示している。一部の人々はそれに非常に関心を持って行動している。仮に琉球の企業や労働者がグアムに進出することで琉球の経済が好況を呈しても、かえって失うものの方が大きいのではないか。「競争力」をもつ琉球の企業や労働者
が、中小のグアム企業を尻目に「基地特需」による成長を享受し、利益がグアムから琉球に還流することになる。その結果、グアムのチャモロ人は琉球人、琉球企業を支配者側、搾取する側としてみなすようになろう。そうではなく、琉球とグアムは互いに協力し合って日米の従属体制から脱却し、島の自立、自治を実現する「兄弟の島」になるべきであると考える。




参考文献
松島泰勝『琉球の「自治」』藤原書店、2006 年松島泰勝『ミクロネシア―小さな島の自立への挑戦』早稲田大学出版部、2007 年

関西共同行動ニュース No51