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巻頭言

敵基地攻撃論 ―先制攻撃準備を許すな! 【関西共同行動】 中北龍太郎



■強まる敵基地攻撃論
 敵基地攻撃論は、北朝鮮脅威論が高まるたびに、タカ派政治家からかまびすしく唱えられてきました。敵基地攻撃論とは、例えば、弾道ミサイルなどで日本に攻撃を仕掛ける他国の基地を、巡航ミサイルや飛行機による空爆などで攻撃することです。このタカ派の軍事強硬論がこの数カ月のうちに急速に勢いを増し、今や軍事政策の基本にすえられようとさえしています。まず、こうした動きを整理しておきます。
 〇二年一〇月から始まった北朝鮮第二次核危機の際には、石破防衛庁長官は、「敵基地攻撃は法理上は可能、敵基地への打撃力の保有は検討に値する」と答弁し、前原誠司、安倍晋三、額賀nu郎が敵基地攻撃論を打ち上げました。〇六年七月北朝鮮の弾道ミサイル発射実験に際し、額賀防衛庁長官が「敵基地を攻撃できる能力を保有するための議論をする必要がある」と口火を切り、続いて安倍官房長官や自民党武部勤幹事長が同じ発言を繰り返しました。これらの発言に対して、アジア諸国から重大な懸念が表明され、例えば韓国政府の場合、「日本の侵略主義的な性格を表すもので、深く警戒せざるを得ない。朝鮮半島と北東アジアの平和を阻害する重大な威嚇的発言だ」と批判しました。
 〇九年四月の北朝鮮による人工衛星打ち上げ以降、敵基地攻撃論は、タカ派議員による持論の開陳から、政府・自民党レベルでの本格的な政策論議へとエスカレートしました。五月二六日麻生首相は、「敵基地攻撃は法理上はできる」と、敵基地攻撃論の検討に前向きの姿勢を示しました。六月三日自民党国防部会・防衛政策検討小委員会がまとめた「提言・新防衛計画の大綱について」は、「座して死を待たない防衛政策としての策源地(敵基地)攻撃能力が必要だ」と強調しています。
 政府の「安全保障と防衛力に関する懇談会」も八月四日、新防衛計画大綱に向けた報告書を発表し、敵基地攻撃能力の保有を検討する必要があると明記しました。
 このように自民党・政府では、敵基地攻撃能力を持つという方針が次第に固まってきているのです。もちろん、政権が変われば、年末予定の新防衛計画大綱の策定自体が先送りされ、報告書も宙に浮く可能性があります。しかしながら、民主党政権の下で、敵基地攻撃論が消滅するかといえば、そうとは言い切れません。民主党内にも、敵基地攻撃論者が少なからず存在しているからです。例えば、タカ派の代表格の前原は筋金入りの敵基地攻撃論者ですし、民主党「次の内閣」の防衛大臣だった浅尾慶一郎は「二〇一二年までに北朝鮮が核を放棄しないなら日本が敵基地攻撃能力を持つことを国際社会に理解してもらうべきだ」と主張していました。民主党はタカ派を抱えていますし、安保・軍事政策の指針が揺れ動いていますので、衆院選後、敵基地攻撃論の行方は予断を許しません。

■解釈改憲としての敵基地攻撃論
 北朝鮮脅威論とともに台頭してきた敵基地攻撃論のルーツは古く、一九五六年にすでに国会で論議になっています。鳩山一郎首相は、「急迫不正の侵害の手段として誘導弾などによる攻撃が行われた場合、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とするところだというふうには、どうしても考えられない。攻撃を防御するのにほかに手段がないと認められる限り、誘導弾などの基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ可能である」と答弁しています。五六年はまさに軍拡・改憲熱がヒートアップした一年で、その最中に飛び出した敵基地攻撃合憲論は、軍拡・改憲への強烈な意志の産物だったといえます。
 個別的自衛権合憲論、専守防衛論は、集団的自衛権行使の禁止、武力行使を目的とした海外派兵の禁止などの根拠とされ戦争への歯止めとなってきましたが、同時に、自衛の名による軍拡、自衛権を行使できる範囲を拡大解釈することによる軍事行動の海外展開の合法化の名分にもなってきました。後者の側面はまさに解釈改憲による戦争準備にほかなりません。敵基地攻撃論はその最たるものだったと評価できます。
 この法理論はその後も永らえてきましたが、その具体化が図られるようになったのは、北朝鮮脅威論が叫ばれるようになってからのことでした。
 法理論面では、〇三年一月石破防衛庁長官が、相手国が攻撃の意図を明確にし、ミサイルへの燃料注入を開始すれば、日本攻撃の着手とみなし、敵基地を攻撃することも自衛権の範囲内であるとしました。自衛隊の運用・政策としての具体化は今、防衛計画大綱の見直しによって実現されようとしているのです。

■あまりに危険な先制攻撃
 敵基地攻撃論は、防衛目的の先制攻撃論だといえます。それは、攻撃こそ最大の防衛というに等しく、決して専守ではありません。その意味では、敵基地攻撃論の方針化は専守防衛論の大転換だといえます。
 しかも、攻撃の発生・着手があったかどうかの判断は極めて難しいため、そのおそれがあるというだけで、あるいは本当はそのおそれもないのに敵基地を攻撃することになりかねません。それらは予防的先制攻撃にほかなりません。敵基地攻撃論には、本質的にそこへ行きつく危険性を持っています。そのことは、米国のイラクへの予防的先制攻撃が、ありもしない大量破壊兵器やテロリストとのつながりを理由に実行されたことを見てもすぐに分ることです。
 北朝鮮への先制基地攻撃は、対立状態を終わらせるのではなく、全面戦争の火ぶたを切ることになります。だから、北朝鮮を軍事占領して勝利するまで戦う決意と準備なしでは、基地攻撃に打って出ることはできないはずです。もしそんな全面戦争への一歩に踏み切れば、戦争の被害はとてつもなく大きいものになるでしょう。真珠湾攻撃がどれほどはかりしれない戦争の惨禍を引き起こしたかを振り返るだけで、敵基地攻撃論の愚劣さは明白です。
 敵基地攻撃には軍事的に実効性があるのかも大いに疑問です。車に積んだ移動式ミサイルを破壊することは軍事技術上極めて困難であり、そのことはイラク戦争で米英軍がスカッドミサイルハンティングに失敗したことでも証明されています。しかも、一回ですべてのミサイルを破壊し尽くさなければ、ミサイル攻撃を防ぐことはできません。これも不可能でしょう。
 しかも、日本が敵基地攻撃能力を保有すれば、それだけで、北朝鮮との軍事対立を深め、さらに、アジア全体に軍事緊張を強めることになります。日本はいわゆる安全保障のジレンマに陥り、危険な国として不信の眼差しにさらされ、様々な不利益をこうむることになるでしょう。
 このように、敵基地攻撃論は百害あって一利なしです。敵基地攻撃論をきっぱりと捨て、六者協議の場で北朝鮮の非核化と朝鮮半島の平和実現をめざして最大限の努力を尽くすこと、つまり外交による和解が、日本の平和を達成するためにも最も確実な方法なのです。



          
          PAC3
関西共同行動ニュース No51