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●対イスラエルBDSキャンペーンの課題 【パレスチナの平和を考える会】 役重善洋


今回のガザ虐殺に対し、世界中でこれまでにない規模の抗議行動が行われた。大阪で私たちが取り組んだ集会やデモにおいても予想を超える市民の結集を見た。とりわけ、これらの抗議行動において目立ったのがボイコットの呼びかけである。
パレスチナ人たちは、2005年7月、イスラエルに対するボイコットと資本引き揚げ、経済制裁を求める声明を170以上の団体の連名で発表している。B D S ( Boycott, Divestment,Sanctions)キャンペーンの名で知られるこの呼びかけは、ボイコットの目標を次の3点に明確化している。すなわち、@占領の終結、Aイスラエル国内におけるパレスチナ人に対する平等、B難民の帰還権、の実現である。
このキャンペーンは、南アフリカにおける反アパルトヘイト闘争の経験をもとにしたものであり、非暴力かつ草の根の運動によって国際政治を動かすという戦略をもつ。つまり、政府主体の国際社会がイスラエルの国際法違反を容認し続けるのであれば、市民レベルによる消費者ボイコットによって、草の根の圧力を形成し、さらにその大衆的な世論の広まりによって、企業によるイスラエルからの投資引き揚げ、政府レベルでの経済制裁の実現をめざす、という戦略である。
ガザで起きた悲劇は、この呼びかけに応えようとする動きを加速した。すでに、欧米ではいくつかの目立った成果が現れつつある。まず、BDSの「B」、特に消費者ボイコットについて。イスラエルの輸出品は、ダイヤモンドやICチップ、
工業用の工具や化学薬品など、消費者ボイコットに向かない物が多い。そうしたなかで、グレープフルーツ等の農作物は、とりわけ、主要輸出先であるヨーロッパにおいて、格好のボイコットのターゲットとなってきた。一般の消費者の目に触れやすいことに加え、農作物の一部が入植地で生産されていることもボイコット対象となっていることの大きな理由だ。店頭でのビラ撒きやデモに加え、直接、輸入会社の倉庫をブロックするなどの直接行動が取り組まれている。また、歴史的に強力なパレスチナ連帯運動を有する南アフリカでは、2月9日に港湾労組がイスラエル製品の陸揚げを拒否する決定を行った。
こうした運動の結果、今月行われたイスラエル製造業者協会の調査によると、イスラエルの輸出業者の21%がボイコット運動によって何らかの困難に直面していると答えている。
さらに、占領政策に直結するボイコットの成功例も出始めている。最近の例を挙げれば、エルサレムにおける路面電車設置に関わるフランス企業であるヴェオリア社とアルストム社に対するボイコット運動がある。両社とも世界中で運輸関連をはじめとした公共事業に進出している多国籍企業である。この路面電車の設置工事は、エルサレム市街と違法入植地ピスガット・ゼエヴの間を運行する予定となっており、ジュネーヴ第4条約に明白に違反している。また、イスラエルの平和団体による最近の調査では、ヴェオリア社は、エルサレムと入植地を結ぶバスの運行も請け負っており、さらに、ヨルダン渓谷地域にある入植地の廃棄物処理場の管理運営も行っていることが明らかになっている。
この両社に対し、ヨーロッパ各地では強力なボイコット・キャンペーンが取り組まれており、この間、立て続けに成果を上げている。例えば、スウェーデンのストックホルム市はヴェオリアとの地下鉄運行の契約打ち切りを1月20日に決定、3月にはイギリスのサンドウィル市議会で廃棄物処理と再処理事業の選抜名簿からヴェオリアを外す決定がなされ、さらに、今月に入ってお膝元のフランスはボルドーで路面電車の管理契約を打ち切られている。この3件に関する損失額は75億ドルに上るという。また、これまでにオランダの銀行とスウェーデンの年金信託が、違法占領への加担を理由に、それぞれ、アルストムとヴェオリアを顧客名簿から外す決定をしている。これは、BDSの「D」、すなわち投資引き揚げにあたる成果といえる。
BDSの「S」の部分にあたる経済制裁については、現実の政治課題となるのはまだ大分先だと思われるが、それでもヨーロッパでは認識の変化の兆しが見え始めている。4月初旬、オランダの連立与党の第二党である労働党が、イスラエルにハマースを対話の相手として認識させるために、EUはイスラエルに対する「具体的行動」を起こすべきだとし、経済制裁の発動を求める主張を行った。これは、ヨーロッパの主要政党が対イスラエル経済制裁について言及した初めてのケースである。まだまだ楽観視は許されないが、徐々に地殻変動が始まっていることは間違いない。
最後に、日本での運動の展開に関して触れておきたい。まず、イスラエル産の農作物については、スウィーティーという緑色のグレープフルーツが比較的知られているが、輸入額でいえば、かんきつ類の濃縮果汁が大きなシェアを占めている。グレープフルーツ、オレンジ、レモンの濃縮果汁がそれぞれ、年間10億円以上輸入されており、それだけで対イスラエル輸入額の4%を占める。ただし、果実と異なり、加工品だと生産国表示がないので、ボイコットのためにはさらに調査が必要である。ヴェオリアとアルストムについては両社とも日本支社をもっている。ヴェオリアの日本支社は水道事業に特化したかたちで全国展開を進めており、すでにいくつかの自治体で契約をしている。
また、アルストムは、ODA事業での発電所建設等に関して、JICAと大口の契約をいくつもしている。このあたりを突破口として、日本におけるBDSキャンペーンの突破口にできないかと考えている。




関西共同行動ニュース No50