集会・行動案内 TOP
 
●海賊新法から派兵恒久法へ―改憲へ 改憲潮流を奔流にさせるな!

【関西共同行動】 中北龍太郎

いま展開されているソマリア沖での海上警備活動や国会で審議中の海賊対処法案(海賊新法)の問題点を考えるうえで、@海賊対策が米国のアフリカ支配戦略の一環であること、A海賊出現の背景には大国によるソマリア介入と分断が深くかかわっていること、B諸国の海上保安協力によって東南地域から海賊被害がほぼ一掃されたように、軍隊ではなく海上保安協力こそが海賊対策の本命であること、などの視点が欠かせません。ここでは論点を絞って、海賊対策の名による派兵が、自衛隊による武力行使の道への決定的な一里塚であり、派兵恒久法から改憲に至る改憲潮流を加速し、改憲奔流をつくりだす危険に満ちた動きであることを明らかにします。

■先行する海上警備活動
麻生内閣は、三月一三日の閣議で、アフリカ東部・ソマリア沖アデン湾での海賊対策のために、現行の自衛隊法に基づく海上警備活動の発令を決めるとともに、海賊対処法案を閣議決定しました。翌一四日、海上自衛隊の護衛艦「さざなみ」「さみだれ」の二隻が広島県呉基地を出航しました。その出航風景は悲壮感漂うものだった、と伝えられています。それは、海上警備活動によって危険な目に遭ったり、「戦後初の一発」がソマリア沖で撃たれる可能性が高いからです。
それを裏付けるかのように、麻生首相は「法律として、いろいろな不備があるため、派遣される自衛官とか海保の人たちが危険な目にあう」と語っています。また、派遣艦に死体安置所が初めて設置されました。
海上警備活動は、自衛隊法八二条に規定された海上自衛隊の任務で、陸の治安出動(七八条)、空の領空侵犯に対する措置(八四条)と並ぶ規定です。これまでその発動には、あくまで領海侵犯など国土主権の侵害を防止するという地理的限界があるとされ、九九年の能登沖不審船と〇四年の沖縄近海・中国原潜領海侵犯の二回しか発動されませんでした。一万キロ以上も離れたソマリア沖での活動に八二条を適用するのは、明らかに国土防衛を目的とする自衛隊法の脱法にほかなりません。これが合法だというなら、海外への治安出動も同じように問題がないというとんでもないことになってしまいます。
海上警備活動では、退去の警告に従わない海賊船に対し海面へ向けて警告射撃し、それでも従わなければ船体を狙った射撃を行えるようになっています。これは、海上警備活動に、逃走の防止・他人に対する防護・公務執行に対する抵抗の抑止などのための武器使用を認める警察官職務執行法七条が適用されている(自衛隊法九三条)からです。「海上警備活動が発令され、自衛隊は『海のお巡りさん』になった。お巡りさんなら市民を守るために拳銃を使う。つまり、日本船舶関係を守るために武器を使うことになる」というわけです(防衛省幹部)。かくして、海外で活動する自衛隊の武器使用が、自分の身を守る正当防衛や緊急避難以外の場合にも拡大することになったのです。
海上警備活動の保護対象は、「日本船籍、日本貨物を運ぶ外国船など日本関係船」に限定されていますが、現場ではこの政府方針を無視して、日本関係船以外の船に対する救助活動を行っています。これに関連して防衛省幹部から、「外国船を見殺しにすれば批判を免れない。自ら攻撃を受ける形を作り出し、正当防衛を適用するしかない」といった発言がなされています。
このように、決して「さざなみ」とはいえない武力行使を拡大する動きが、「さみだれ」的に実行されているのです。また、イラクから撤退した自衛隊にとって、ソマリア沖での海上警備活動は、米軍とともに戦うプレゼンスを示すために重要な意味を持っています。それは、米軍とともに戦う国づくりの一環でもあるのです。




■海賊新法は超危険
海賊新法は、海賊罪を新設し、自衛隊の新たな海外活動として「海外対処行動」を定めています。その行動は、他国の領海を除く世界のすべての海域で、すべての船を対象に行われることになっています。特に重大なのは、武器使用の範囲を一気に拡大した点です。
不審船などが停船に応じずに逃走した場合には船体射撃ができるとし、不審船が他の船舶に著しく接近し、付きまとい、その進行を妨げる行為を続けようとしている場合には、攻撃されなくても危害射撃をできるようにしています。自衛艦の武器を使用すれば、船を沈没させ人命を奪うことにもなります。
このような任務遂行のための武器使用の容認は自衛隊の海外活動として初めてのことです。これまでのPKO法、テロ対策特別措置法、イラク特別措置法などの海外派兵法は、武器使用を生命・身体の防衛のための正当防衛や緊急避難に抑制していました。政府見解でも任務遂行の武器使用は憲法が禁じる武力行使につながりかねないため、政府も一線を引いてきたのです。海賊新法はこの抑制を取り払っており、それが制定されると、自衛隊の海外での武器使用の範囲は飛躍的に拡大されることになります。その結果、自衛隊が海外で人を殺傷する危険が著しく高まります。
すでに自民党や自衛隊内で、海賊新法の制定を機に、海外派兵の際の武器使用基準を一般的に広げたい、派兵恒久法の突破口にしたいという声があがっています。派兵恒久法の案文が固まっているわけではありませんが、自民党が〇六年八月に発表した「国際平和協力法」案は、@国連決議がなくても、政府の判断でいつでもどこへでも海外派兵できる、A安全確保活動・警護活動・船舶検査活動など活動範囲を大幅に拡大、B任務遂行に対する妨害の防止・抵抗の抑圧のための武器使用を認める、といった内容を盛り込んでいます。
海賊新法と「国際平和協力法」案とを比べると、政府の判断でいつでもどこへでも海外派兵できる点、活動の類似性、任務遂行のための武器使用の容認といった点で類似性があり、海賊新法はいわば派兵恒久法の海賊対策版といえます。
海賊対策版派兵恒久法ができると、その一般法である派兵恒久法制定の環境は整うということになります。
だから、海賊新法の制定は派兵恒久法制定の突破口だといわざるをえません。派兵恒久法は海外での武力行使、集団的自衛権の行使に踏みこむ法制ですから、それが制定されると、その延長線上で、いよいよ改憲の動きも本格化することになるでしょう。
このように、海賊新法の制定は立法改憲の一種にほかならず、それはまた、いつでもどこへでも自衛隊の武力行使ができるようにするための派兵恒久法制定の布石であり、改憲への迂回戦術にほかなりません。
海賊新法の制定は、まさに改憲への決定的な一里塚にほかなりません。
声を大にして、海上警備活動や海賊新法の危険性を訴え、改憲潮流を改憲奔流にさせないアクションを広げましょう!


ソマリア沖の海賊


中北さんの本が出ます
「今こそ平和憲法を守れ―改憲がゆがめるこの国のかたち」
出版社/明石出版・四六版 280ページ/2200円
中北龍太郎 著
※耳より・・・中北事務所に申し込んでいただければ割引あり
関西共同行動ニュース No50