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ガザの虐殺を繰り返さないために パレスチナの平和を考える会 役重善洋


この間のイスラエルによるガザ攻撃の背景について考えてみたい。今回のイスラエルの行動は、第二次インティファーダに対する弾圧や二〇〇六年のレバノン侵攻の例を出すまでもなく、これまでイスラエルが行ってきた戦争犯罪と同じパターンを踏んでいるものだ。一般市民の巻き添えをまったく考慮しない攻撃、国際法違反の兵器・戦法の使用、「国際社会」からの遠慮がちな非難に対する無視と開き直り、自己正当化のための強力な宣伝攻勢・・・。
しかし、これまでのパターンと少々異なる点もあるように思われる。一二〇〇人を超える突出した犠牲者数も指摘されねばならないが、ここでさらに強調したいのは、「国際社会」がかつてない率直さで、この虐殺行為を直接的・間接的に支持する姿勢を示したことである。昨年末の大規模空爆の直後、欧米諸国はもちろんのこと、パレスチナ自治政府を含む「親米」アラブ諸国も、虐殺の責任は第一義的にハマースにあるという論調を明確にした。もちろん日本も例外ではない。これは、なぜなのか。
知っての通り、ハマースは二〇〇六年一月のパレスチナ立法評議会選挙で圧倒的勝利を収めた。この出来事は、パレスチナ民衆による、イスラエルの占領と偽の「和平」を受け入れないという明確な意思表示であったと言える。しかし、アッバース大統領率いるファタハは、「和平」プロセスのなかで得た既得権益、とりわけ治安権限をめぐり、ハマースとするどく対立し、翌年六月には、追いつめられたハマースがガザ地区を軍事制圧し、現在のガザと西岸の分断統治体制に至ることとなる。
この分断の決定的な原因は、二〇〇六年の選挙が、当時、中東で最も民主的に行われた選挙だと言われていたにも関わらず、その結果をアメリカを中心とする国際社会が尊重しようとしなかったことにある。国際社会は、イスラエルとともに、選挙で敗北したファタハを政治的軍事的経済的に全面支援し、それと引き替えに、難民の帰還権要求の取り下げやユダヤ人入植地の存続といった決定的な妥協をアッバース大統領から引き出すことによって、イスラエルがほとんど「痛み」を伴わずに受け入れることのできる「和平」を実現するというシナリオを強引に進めようとしてきた。圧倒的に反米・反イスラエルの世論のなかで、アメリカの援助頼みで政権を維持してきたエジプトやサウジアラビアなどの親米独裁アラブ政権も、パレスチナ自治政府の「傀儡化」をテコにした「和平」に強く肩入れしてきた。
このシナリオは一九九三年のオスロ合意以降、一貫して追求されてきたものであったが、アラファト元大統領は、第二次インティファーダという民衆の圧力のなか、「決定的な妥協」に二の足を踏んだため、大統領府に閉じこめられ、二〇〇四年に無惨な死を遂げた。その前年、アラファトの権力を削ぐために、欧米諸国の圧力のもと、自治政府最初の首相として据えられたのがアッバースだったということをここで確認しておいても良いだろう。そういう意味では、「決定的な妥協」をすることのできる「最初で最後のパレスチナ指導者」として、西側諸国に自らを売り込むアッバース大統領の存在は、イスラエルにとっても、欧米諸国にとっても、さらには彼らと同盟関係にある「穏健」アラブ諸国にとっても、かけがえのない存在であった。しかも、アッバース大統領の任期は二〇〇九年一月九日までであり、ハマースの支持拡大を押さえる必要は、イスラエル―欧米諸国―親米アラブ諸国(自治政府を含む)というシオニズム・新自由主義同盟にとって、切迫していたといえる。
一方で、二〇〇六年の選挙以降、政権党となったハマースは国際社会からの徹底的なボイコットと、ファタハからの軍事的圧力に晒されてきた。そして、ガザ制圧以降、ハマースに対するボイコットは、そのままガザ封鎖という集団懲罰政策として、現在まで続くこととなった。そういう意味で、二〇〇八年六月に締結された停戦協定をイスラエルが遵守せず、ガザの封鎖を解かず、一一月にはハマースの活動家暗殺を再開し、ハマースを停戦継続断念という判断に追い込んだのは、最初から織り込み済みのシナリオだったと言える。つまり、イスラエルと「国際社会」にとって問題な
のは、ハマースのロケット弾などではなく、ハマースに象徴されるパレスチナ人の抵抗への意志そのものだということである。今回のガザ侵攻の究極の目的は、二〇〇六年の選挙結果を決定的に無効にするということだったと言っても良いだろう。
これこそが、一二月の空爆開始後、未曾有の犠牲者数にも関わらず、欧米諸国や、パレスチナ自治政府を含めたアラブ諸国から、イスラエルに対するまともな批判の声がほとんど出てこなかった理由だと言える。つまり、彼らは最初から共犯者だった、ということである。
ここまで、考えたとき、私達は一二〇〇人という奪われた命の重さに思いを馳せつつも、同時に、今なお、封鎖と占領のなかで、尊厳ある生を否定され続けている一五〇万人のガザの人々、二五〇万人の西岸地区の人々、イスラエル領内で差別され続けているパレスチナ市民、そして、故郷を追われたまま、六〇年間、帰還権を奪われ続けている五〇〇万人の離散パレスチナ人の存在に目を向けなければならない。彼らが、反占領・反シオニズムを訴え、帰還権を要求し、パレスチナ人としての一体性を持ち続ける限り、イスラエルに同盟する「私達」は彼らを虐殺し続ける。この構造を止めるためには、パレスチナ人に私達と同じ人間としての生を保証する、すなわち、イスラエルの占領終結とパレスチナ人の帰還権保証を実現することのできる、新たな「国際社会」の枠組みを作る以外に道はない。

関西共同行動ニュース No49