集会・行動案内 TOP
 
映画「靖国」上映をめぐって 松村 厚(第七藝術劇場・支配人) インタビュアー・中北

中北―映画「靖国」について右翼の圧力で全国的に上映中止の動きが広がる中で、第七芸術劇場は果敢に上映された。その思いを聞かせてください。
松村―「果敢に」とかぜひとも表現の自由を守らなければといった思いつめた気持ちで上映したわけではなく、調査の結果、「2、3街宣車が来て、抗議の電話も何本か入ったが、そんなに大きな実害があったというわけでもない」ということだったので、実害も無いのに止める理由も無いので、「それじゃ、やりましょう」といった当たり前のようにしただけのことです。
中北―他の館は、当たり前のことができなかったわけですが、なぜでしょうか。
松村―映画館は、地域の中でまわりの商業施設・テナントの一部としてやっていて、他の中止された所はバックに大きな企業が付いているわけですよね。だから現場サイドとしては「やりたいなぁ」ということがあっても、なかなかそれだけでは上映するのは難しいという要素があります。
中北―上映を中止したのは東京が多かったのですが、この点はどうですか。
松村―靖国神社があるのは東京ですし、東京は中央都市で地方への影響が大きいので、頑張って欲しかったですね。
中北―実際、上映開始になってから圧力はかかりましたか。
松村―特に目立った動きはなかったですね。抗議電話は何本か入りました。それって右翼が何か圧力をかけてきているわけではなくて、嫌がらせ程度の電話だけでした。しかし数えるほどです。
中北―右翼の圧力が、それほどの事では無かったのはどうしてでしょうか。
松村―上映を圧迫するのは良くないという世論の動きが幸いしました。また、東京のロフトで右翼主催の上映会があり、ネットで報告されていますが、一水会が「内容は反日っぽいけど、逆にこうしたことで盛り上がると見に行く人が増えるのでまずいから、無視しよう」と言ったそうですが、右翼が圧力をかけると世論がワーと盛り上がって社会問題化する。それで逆にお客さんが見に来るのでは困るといった判断もあって、こうした事態で収まったのかもしれません。
中北―実際、上映してから来られている観客の数、層とか上映後の反応はどうですか。
松村―騒動のお陰で見よかなというお客さんが増えました。なんかあったらあかんということもあって、映画館は6階にありますが、入れ替えの時は1階にいて、来ているお客さんとかを見ていますが、その層は幅広いですね。上映して良かったなという気がしています。これだけ話題になっているから、若いカップルとか本来なら来ないような客層が来ている訳です。「こんな映画で騒いでいるんや」ということで、靖国問題に関心を持つきっかけになっているなという印象を受けています。観客全体の中ではおじいちゃんやお婆ちゃんといった靖国世代の年配の方が多いですね。一緒に息子さんや娘さんなどが付き添いで来られている場合も結構多いですね。そして見た後、世代を越えて「靖国とはなんぞや」とロビーで話をしているわけです。1階で「ありがとうございました」とお見送りしていますけれど、皆さん結構いい顔しています。「見せてくれてありがとう」という声も多いですね。
中北―七芸が上映に踏み切ってから他の館での上映も広がりましたね。
松村―それは、従来の映画館があるべき健全化に近づいたということではないでしょうか。やるべき仕事として上映をする、映画館というものはいろんな映画をお客さんにお届けするというのが仕事で、それがまっとうできない社会というのは、おかしいと思うわけです。それが出来ないような社会というのは怖い。
中北―当たり前の事であるにも関わらず、それが勇気を必要とする社会というのは怖いということですね。
松村―そうです。今は、多少落ち着いてきているからホッとしていますが、つい最近までは神経を張り詰めていました。なんかあったら・・・ということが、やっぱりありますから。そういう社会は怖いですね。
中北―「靖国」を問題にした稲田国会議員や週刊新潮の「あれは反日映画だ」というキャンペーンなど、右翼の動きをどう見ていましたか。
松村―彼らの行動が問題というより、彼らの動きが、「上映中止」というあらぬ方向に社会の雰囲気を追いやってしまった。そうした空気が怖い。
中北―当たり前の事を当たり前のようにできないような、そうした空気になっている怖い社会の中で上映を中止されなかった事は、貴重な一石を投じられたと思うのですが。
松村―最終的に表現や言論を弾圧をするのは国家なんです。今や、盗聴法や国民総背番号制などの法案が通っていますけれど、若いもんに言うんやけれど、「あと何年後かが怖いよ。このままでは自由に物が言えんような世の中に、知らんうちになっているという事に、気付いた方がええよ」と。今回の「靖国」上映中止うんぬんよりも、そんな恐ろしい法律がぼんぼん通る時代が来るのではないか。
中北―そうした中で、「改憲」という憲法をかえてしまう動きが出てきています。
松村―なんでそんなに戦争がしたいんですかね。不思議でしょうがない。もう私も46歳ですから、若いスタッフに言うのだけれど、「何年かたって戦争をする時代になったら、実際に戦争に行かんならんのはあんたらやで。法律通している国会議員のおじいちゃんなんかでないで」と。結局、太平洋戦争でもそうですが、死んでいるのは若い人たちですからね。
中北―当たり前のように「靖国」を上映されたのは、第七藝術劇場のこれまでの蓄積があったからでしょう。これまでの歩みを紹介ください。
松村―キッチリいろんなドキュメンタリーを紹介してきたという自負はあります。2年前に上映して話題になった「蟻の兵隊」だってうちがやって大ヒットしたし、「ヒロシマ・ナガサキ」だってヒットしたし、今年もまたやりますが「ひめゆり」も「特攻」もやります。そうした実績を培ってきたといことがあり、その中の1本が「靖国」です。こうした実績があったから、当たり前のように上映する事ができたと思っています。
中北―そうだと思います。今日はありがとうございました。

●経緯▼07年12月、『週刊新潮』12月20日号が「反日映画靖国は『日本の助成金』750万円で作られた」と題する記事を掲載。▼08年2月12日、稲田朋美衆院議員が映画の内容と助成金支出を問題視し、検証したいと文化庁に事前の試写を求める。「議員として見るのは一つの国政調査権」とした。▼3月12日、全国会議員を対象にした試写会が開かれる。▼20日、22日、26日、右翼団体が街宣車で銀座の上映予定館に行き、上映中止を訴える。映画館には脅迫めいた抗議電話も。▼27日、有村治子参院議員が内閣委員会で助成金支出の妥当性についてとりあげる。このなかで映画の中心的な登場人物である刀匠の刈谷直治氏に2日前に確認をとったとして「作品から刈谷さんの映像を一切外してほしいと希望をされています」と発言。▼31日、「右翼団体の街宣車が来る恐れがある、客や周辺住民に迷惑がかかる」として、この日までに上映を決めていた映画館5館が上映自粛



関西共同行動ニュース No47