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<参院選後の憲法改悪の動き> 決して安心できる状況ではない』 吉川勇一(市民の意見30の会/市民意見広告運動)

 参議院選挙の結果は与党の大敗北に終った。しかしそれは、主として「敵失」(相手側の失敗)によるものであって、市民の力や反改憲勢力側の運動が功を制したというわけではなかった。もちろん、安倍首相が年頭に声高に叫んでいたような、改憲への大進軍の機会とならなかったのはよかったと言うべきものの、しかし私は、この選挙の結果から、改憲への動きが押しとどめられた、あるいは後退したとして、これまで事態を憂えていた人びとが一安心する、あるいは抱いていた危機感がやわらいで、反改憲の運動への取り組みがにぶることを恐れている。
圧勝した民主党は改憲を標榜しているのであり、その議員のなかには自民党も顔負けするような九条改定に意欲を示し、その意志を明確にしている人もいる。九条改憲反対を公約に選挙に臨んだ共産党・社民党は、二大政党による政権交代劇をあおり立てたマスコミ報道に埋もれ、議席や得票率を減らした。
 今後の改憲への動きは、これまでよりもいっそう巧妙になることだろう。抵抗を弱めるように世論を誘導するため、大幅な譲歩をしたように見せて民主党の主張をとりいれながら、改憲への道筋を進むことも十分に予想される。参院選挙での民主党のマニフェストには「 "憲法提言"をもとに国民の皆さんと自由闊達な憲法論議を各地で行い、国民の皆さんが改正を求め、しかも国会内の広範かつ円満な合意形成ができる事項があるかどうか、慎重かつ積極的に検討していく」とあった。この秋、対テロ特措法延長の帰趨がどうなるかは、今の時点ではまだ明瞭でないが、自衛隊の海外派兵、米軍とのいっそうの一体化、そして集団的自衛権承認への動きは、決して止まらないだろう。
参議院選挙の結果が報じられた日、私たちの長い間の仲間だった小田実さんが死去した。残念極まりない。その小田さんが、死の直前、遺言のように語った言葉を引用しておきたい。
……戦争を知らない人は、戦争に向かっていくときは街に軍歌が鳴り響き、みんなが日本の勝利をひたすら祈っているような異常な状況になると思っているらしい。でも私の経験では、ありふれた日常の中で進行し、戦争へと突入していった。
ヒトラーだって、議会制民主主義のルールの中で平和的に政権交代したんですよ。私が今一番憂えているのはね、民主主義の理想を説いたワイマール憲法をつぶしてナチ独裁政権ができたときと同じことが、日本で起きるんじゃないかということです。ヒトラーは憲法改正すらしなかった。ただ「国民と国家の困窮を救う」ために憲法を一時的に「棚上げ」すると議会で決め、再軍備に乗り出した。攻撃用の兵器をつくる意図はない、もっぱら防衛用の兵器に限定し、平和の維持に資するつもりだと言ってね。反ナチの人まで「立派だ」と褒めたんだよ。……(『朝日新聞』07年7月14日)
 全く同感だ。所得格差が広がり続け、社会不安がさらに増大すれば、今回の参議院選で自民から離れた有権者が、次は、生活の根本的改善を求め、戦争が社会をリセットするかもしれないという「戦争期待論」に流れるということだって、可能性としては少なくないだろう。
 参議院選挙前のマスコミの姿勢はひどいものだった。すべての予想記事は、二大政党制を大前提とし、有権者の選択肢を極端にまで狭めるような報道を続けた。その姿勢は、選挙後もまったくかわっていないどころか、ますます世論誘導は露骨になってきている。つい先日、NHKが長時間にわたって放映した憲法九条をめぐる討論番組では、集団的自衛権の問題を取り上げる際に、「個別自衛権については、全く問題はないのだが、集団的自衛権となると、九条との関係で、問題が生じてくる」ということを大前提として、出演者の討論を始めさせていた。反改憲派の中にも、いろいろな主張はある。しかし、その中で、私たちをはじめ、かなり大きな部分は、個別的であれ、集団的であれ、武力による自衛権の発動自体を認めておらず、憲法前文と第九条は、この国の完全非武装を定めているのだと主張しているのだ。
 私たちは、毎年五月三日の憲法記念日に、商業全国紙とローカル新聞に反改憲、自衛隊の即時海外からの撤退、日本の非武装を求める意見広告を出す運動を続けてきた。来年のそれを目指すアピールも間もなく発表する。「関西共同行動」など、関西の運動体も、独自に来春の意見広告運動を準備しているという。大いに歓迎し成功を期待する。お互いの運動が有機的につながるように努力してゆきたいと願っている。出来ることなら、全国のできるだけ多くの地域で、それぞれのローカル紙、ブロック紙に一斉に反改憲の意見広告を出そうという動きが広がることも望みたい。
 デモや集会に出られる条件のある人は限られている。憲法九条を変えるべきでないという意見を持っている人びとは、まだその意見を十分に顕在化させているとはいえない。しかし、表現されない意見は世論とならない。意見広告運動は、そうした人びとの意見を表面化させ、大きな世論の潮流を形成してゆくための有力なチャンネルの一つとなるものだ。参議選の結果に安心することなく、運動の手を緩めず続けて行く姿勢を堅持したい。

関西共同行動ニュース No45