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改憲問題-参院選後の状況と私たちの課題  (関西共同行動 中北龍太郎)

■安倍改憲路線の終焉
 安倍政権はまさに改憲政権でした。安倍政権のメインスローガン「美しい国」を実現するための主題である「戦後レジーム(体制)からの脱却」の核心に改憲がすえられていることが、改憲政権である所以を如実に示していました。しかも、安倍首相は任期中に改憲を実現すると公言し、参院選の公約でも第一番目に改憲を掲げ、通常国会で改憲手続法を強行採決し、明文改憲の布石として私的懇談会を設置して解釈改憲による集団的自衛権行使の部分的解禁を企てるなど改憲政策を遮二無二押し進め、改憲政権としての本領を遺憾なく発揮してきました。
 ところが、安倍自民党は参院選で歴史的大敗北を喫しました。これが命取りとなり、九月十二日安倍は突如として政権を投げ出してしまいました。安倍政権の瓦解により、安倍改憲路線は終焉しました。なぜそうなってしまったのか、その影響はどうか、とりあえず三点を挙げておきます。
 第一は、歴史的大敗北の原因として、国民が安倍改憲路線を拒絶したことも無視できません。そのため、後継政権も改憲政策を進めることが難しくなりました。
 第二に、後継政権は衆院選までの選挙管理内閣であり、力業を要する改憲政策を押し進める余裕はないでしょう。
 第三に、改憲発議に必要な国会議員総数の三分の二を確保するため、改憲問題は自公民三党の協調の下で進めるという従前の既定方針は、改憲手続法の強行採決で崩れました。また、小沢民主党が衆院選をにらんで自民党に対決姿勢をとり憲法改正について協議しない方針を採っていることから、協調路線は袋小路に迷いこまれ行き詰まっています。
 そのため、改憲手続法に基づいて発足した憲法審査会は、当面凍結されるでしょう。また、集団的自衛権の部分的合憲化の結論を出すだろうと予測されていた私的懇談会の命脈も、安倍政権の崩壊により尽きてしまいました。
 
■しかし改憲の危機は去らず
 このように安倍改憲路線は参院選の敗北により破綻しました。しかしながら、決して改憲の危機は去ったわけではなく、激しく流動化する政治の動向・政局次第で改憲プロセスがいつ急作動するか予断を許さず、改憲情況は基本的に変わっていないといえます。これには次のような事情があります。
 民主党も「憲法提言」に見られるように九条改憲の立場に立っています。党内には安倍に劣らない熱心な改憲論者が少なからず存在しています。また、参院選後の今も衆参両院とも改憲派議員数は三分の二を超えています。このように国会は改憲派に占拠されています。
こうした国会事情とともに改憲の推進力として作用しているのは、日本の政治が九十年代から右傾化の一途を辿り、保守二党制→安保翼賛体制へと推移し、自公民を通じてこの国のかたちの基軸として米日同盟が一層偏重されるようになったことです。来年の大統領選で共和・民主党のどちらが政権をとったとしても、米政権の覇権戦略―同盟国活用指針に変更はありえず、そうである以上米国からの改憲圧力は高まりこそすれ弱まることはありえず、この圧力を米日同盟偏重の日本の権力者たちが受け容れ、いつ改憲プロセスが再始動しても不思議ではない情況にあるからです。
 したがって、安倍後継政権の下では改憲政策にさほどの進展は見られないとしても、衆院選後に憲法審査会が改憲論議を開始し、そこを舞台に三党による改憲発議へのすり合わせが進んでいくおそれがあります。悪くすれば、チラチラ新聞に出てくる大連立政権が成立し、その下で一気に改憲の動きが進む危険も無視できません。また、米日戦争協力のステップアップが進行している限り、集団的自衛権行使の部分的合憲化という究極の解釈改憲が具体化されることも憂慮されます。

■改憲に立ち向かう
 はっきりしていることは、権力者たちが九条改憲を追及しているのに対し、市民の大多数は九条改憲に反対していることです。したがって、改憲をめぐる対立は権力VS市民という構図になります。いうまでもなく、憲法は市民による権力者たちの権力行使に対するしばりです。この憲法観は、立憲主義と呼ばれ、市民革命の中から社会契約論を理論的基礎として立ち上げられました。改憲は権力に対するしばりを外そうとする権力者たちの試みであり、これに対する市民の抵抗は、憲法十二条の「国民の不断の努力によって、この憲法が国民に保障する自由及び権利を保持しなければならない」との定めの実践そのものです。このように、市民の反改憲の取り組みは、憲法の根幹にある立憲主義に由来し、憲法に内在する普遍的な正統性を有しています。
 同時に、この取り組みは平和のための闘争であり、それは憲法前文で確認されている世界の市民の平和的生存権を守り発展させるための市民の権利であり責務です。 
 日本国憲法の最大の特徴は、立憲主義と絶対平和主義を結合したところにあります。この特徴は、憲法前文は、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないようにすることを決意し」て平和憲法を確定したとの叙述に明確に現れています。戦争をしてはならないという権力に対する平和憲法のしばりを外そうとする権力者たちの試みが改憲であり、市民にとって反改憲のムーブメントは、戦争の最大の被害者となる自分達が権力者たちによる戦争の陰謀を撃ち砕く平和のための闘いにほかなりません。
 このように、権力者たちが憲法を破り平和を壊そうとする時、これに立ち向かっていくのは市民自身です。国会が改憲反対の市民の意思を反映できない民主主義の空洞化が現在している今、改憲を止めるのは憲法をつくった主権者でありまた改憲国民投票の主体である市民の力です。この力を発揮して憲法を実践すること、これが時代の要請です。
 安倍政権の崩壊は、改憲をストップするための好材料です。参院での与野党逆転情況によって、テロ対策特措法に基づく自衛隊艦船のインド洋上での米軍などへの給油活動をやめさせるチャンスも到来しています。
 折角の好機を大いに生かして、対米戦争協力に歯止めをかけ、改憲の動きを封じ込める私たちの運動を大いに盛り上げていきましょう。
関西共同行動ニュース No45