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『困窮する母子家庭』 中野冬実(NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ・関西)

 母子家庭の平均総収入は年間212万円で一般家庭の3分の1程度しかありません。では母子家庭は働いていないのかというと、実は日本の母子家庭は世界でも有数の働き者で、その85%は就労し、中には二つ、三つの仕事を掛け持ちしている人もいます。それなのに就労収入は162万円しかありません。なぜそんなに低収入なのでしょうか。日本はまだまだ女性差別社会で、女性は結婚や出産で仕事を辞めざるを得ないことが多く、いざ母子家庭になったときには、長期のブランクや年齢制限、あるいは子どもがいること自体を問題にされて正規の職には就けず、結局パートやアルバイトなどの低賃金で不安定な職に就くことになってしまうのです。それが母子家庭の低収入の一番の原因です。その少ない収入を補っているのが児童扶養手当です。
 児童扶養手当は、子ども一人だと年収130万円未満で全額(41720円)支給され(二人目は5000円、三人目は3000円です)、少しでも収入が増えると10円刻みに減額されていきます。この手当は母子家庭の7割強が受給していて、まさに母子家庭の命綱です。しかしこの命綱は少しずつ細くなり、03年の改悪で、受給後5年(原則)を経過すると半額に満たない額を減額するということが決まっていて、その第一陣が08年に迫っているのです。減額の対象は受給者の7割に達するという試算も出ています。
 非正規労働が主である母子家庭にとって、5年で就労収入が増える可能性はほとんどありません。また、国は、児童扶養手当を減額する代わりに就労支援すると言っているのですが、すでに4年が経過しているのに全く功を奏していません。例えば、高等技能訓練促進費という制度があります。これは安定した収入が期待できる専門資格(原則5業種)が取れる教育機関に2年以上通えば、最後の3分の1の期間だけ、月103000円の生活費を支給するというものです。10万なにがしで生活はできないし、最後の3分の1ということは、最初の3分の2の期間生活していけるだけの蓄えがないと無理ということです。しかし、前述のような低収入では貯金などできるはずがありません。また、5業種とは、看護士、保育士、理学療法士、介護福祉士、作業療法士なのですが、すべていわゆるお世話業で、ジェンダーバイアスがかかっていることも気になります。それ以上に気になるのは、たとえこれらの資格を取ったところで、例えば保育士や介護福祉士などは昨今正規職員の募集はほとんどなく、多くは非常勤嘱託という不安定雇用だということです。そのため、利用者も少なく、そのほとんどは、働きながら学校へ行ける看護士資格取得希望者です。ハローワークでも母子家庭向けの就労支援として医療事務の資格が取れる講座などを行っていますが、医療事務はレセプト請求事務で一時期に仕事が集中し、その時には長時間の残業を強いられます。小さな子どもをもつ母子家庭向けとはとても言えません。現に、せっかく一生懸命資格を取ったにもかかわらず、残業時の保育の手だてがつかず、結局最低賃金ぎりぎりの重労働に回されてしまった人もいます。学校へ行っている間の生活費、子どもの保育への手だてなどが講じていなければ、いくら制度があっても母子家庭には絵に描いた餅にすぎません。
 しかも、就労収入は5年で増えないけれど、子どもが大きくなるに従って支出は確実に増加します。被服費しかり、食費しかり、そして最大のものは教育費です。収入が増えず支出は増加し、そして児童扶養手当が最悪半額になる・・。08年以降、母子家庭の困窮は目に見えています。そしてもう一つ、大きな不安があります。日本はまだまだ学歴社会です。お金がなくて進学できなかった子どもたちが安定した収入を得る可能性は非常に低く、世代を超えた貧困の連鎖が懸念されるのです。おまけに将来の貧困はその子どもだけではありません。母子家庭の多くは社会保険に入れず国民年金ですが、月13860円が払えず、3分の1近くが免除申請をしています。ご存じの通り免除申請をすると保険料は払わなくて良いのですが、いざ老齢になったときに受給額は3分の1になってしまいます。母子家庭の現在の困窮は、その母の老後の困窮にも直結しているのです。
 憲法では、「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とうたわれています。そのために生活保護があるのですが、この生活保護も、母子家庭がそれ以下の収入で暮らしているからという理由で、母子加算を廃止し、基準額さえ引き下げようとされています。母子家庭が困窮しながらも保護を受けないのは、一つには保護のハードルが高すぎるからですが、もう一つは保護受給者への差別と偏見をおそれるからです。母子家庭は母子家庭というだけで偏見の目にさらされています。これ以上の差別を子どもには受けさせたくないという気持ちが、憲法でうたわれた「最低限度以下」の収入で暮らすことを母子家庭に選ばせるのです。
 憲法改悪の危機が迫っています。すでに実態として、憲法は改悪されていると私は感じています。現在の生活はとことん苦しく、のみならず将来にも全く希望を持てない母と子が増え続ける社会のどこに「健康で文化的な生活」があるのでしょうか。「憲法の実質」を取り戻したい、そのためにも憲法改悪は絶対に許してはならないと強く思っています。


関西共同行動ニュース No44