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『まなじりを決して《美しい国づくり=改憲》と闘おう!』 中北龍太郎(関西共同行動)
 
 安倍は、改憲の実現を政権の課題として掲げた初めての首相です。総裁選の立候補に際し「戦後レジーム(体制)から新たな船出をすべきだ、新憲法制定のためリーダーシップを発揮していく」と表明し、総裁候補討論会では「憲法改正は五年近くのスパンがいる、前倒しも考える」と語り、首相就任後の国会答弁では「憲法は、占領軍の深い関与の下で制定されたもの、私たち自身の手で日本の未来の姿、理想を憲法にして書き上げていくことが必要」と力説しています。
安倍の憲法突破への信念は、'昭和の妖怪'と呼ばれた祖父岸信介元首相の「改憲DNA」を純粋培養したものです。岸は、戦前満州国を経営、東条内閣の商工大臣として開戦の詔勅にサイン、国家総動員体制を指揮、そのため戦後A級戦犯容疑者として巣鴨プリズンに三年間収監されていましたが、釈放後政界に復帰し改憲論を振りかざして保守政党の要職に上りつめていきました。
岸の改憲案は押しつけ憲法論を前提にした、再軍備ための九条改憲と戦前の天皇制国家をモデルとした復古的な国家主義を主柱にしていました。岸は、より強力な改憲勢力をつくるために保守合同を策し、五五年に改憲をメインテーマとする自民党(岸が初代幹事長)を立ち上げ、五七年には首相に就任します。
首相となった岸は、九条改憲の趣旨を「日本は全太平洋地域を共産圏の脅威から守るための戦いのために米国とあらゆる方法で協力する用意がある。海外派兵を禁止されているので憲法の改正が必要である」と語っています。
こうした野心を秘めて改憲を企てた岸政権でしたが、改憲の実行が困難と見るや、改憲の布石・迂回戦術として、安保条約を改定し、アメリカとの軍事協力を通じて日本を軍事大国化する方向をめざしました。岸は六十年安保改定の強行採決に踏み切りましたが、安保反対闘争の高揚と独裁的な政治運営に対する広範な市民の怒りの前に退陣せざるをえなくなりました。岸の改憲の試みは座礁してしまいました。
安倍は岸を最も尊敬する政治家と自ら語っていますが、祖父が実現できなかった悲願=改憲と日米安保の完全な双務化を自分に課せられた大きな宿題と位置づけています。安倍が著書「美しい国へ」で訴えている政策のポイントも、改憲と安保強化です。つまり「美しい国」は改憲によって実現できるというのが安倍の確信であり、安倍政権の核心です。

■アメリカと共に戦うための安倍改憲

安倍改憲構想の主要なターゲットは九条、集団的自衛権の行使に道を開くことにあります。この点では、自民・民主両党の改憲論とさほど代わり映えはしませんが、彼の特異性は、集団的自衛権の行使合憲論にあります。「権利があっても行使できない―それは、財産に権利はあるが、自分の自由にはならない、というかっての"禁治産者"の規定に似ている。集団的自衛権行使違憲論は、日本が禁治産者であるということを宣言するような極めて恥ずかしい政府見解だ。私は、九条いかんにかかわらず、集団的自衛権は行使できると思います」(00年五月衆院憲法調査会での発言)というのです。
しかし、九条がある限り、政府見解でも、自衛権の行使は日本に対する急迫不正の侵害に対する必要最小限度の実力行使に限定されているのであって、他国の防衛のための集団的自衛権の行使が許されるわけがありません。また、権利の行使が憲法や法律で制約されることがあるのは極めて常識的なことで、集団的自衛権の行使禁止原則を禁治産に例えるのは余りにも乱暴な議論です。
安倍はこうした集団的自衛権の行使全面合憲論が通用しないとみるや、部分的合憲論を主張するようになります。安倍は「日米関係をより効果的に機能させるため、いかなる場合が憲法で禁止される集団的自衛権の行使に該当するか個別具体的な例に即して研究する」(首相答弁)と、虎視眈々と集団的自衛権の行使の部分的解禁に踏み切ろうとしています。従来の政府見解にすら反する幼稚な憲法解釈ですが、予断は許されません。
小泉政権の下米軍再編の名で米日同盟の双務化、つまりアメリカの戦争を日本が担う実態が着々と進んでいます。この変容に合わせて、安倍政権の下で強引に集団的自衛権の行使の部分的合憲化が強行される危険があります。戦後史の中で米日同盟の強化と憲法問題はいつも連動しており、米日同盟の強化が解釈改憲や明文改憲を促し、解釈改憲が米日同盟強化の担保になってきました。この歴史がより拡大再生産されようとしています。
安倍は著書や対談で,改憲とセットで米日同盟の強化を唱えています。「日米同盟はベストの選択である。」(「美しい国へ」)、「私の祖父は不平等な条約を平等なものに変えるため、安保改定に全力を尽くしたが、残念ながら当時の政治状況では完全な双務性の実現には至らなかった。これはわれわれの世代の政治家に課せられた宿題」(「対論集」)、「軍事同盟というのは"血の同盟"です。双務性を高めるということは、具体的には集団的自衛権の行使だと思います」(「この国を守る決意」)。
安倍は、岸のやり残した安保の"血の同盟"化を、集団的自衛権の行使の部分的合憲化→明文改憲の強行突破→アメリカとの共同戦争 の三段階でやり遂げようとしているのです。

■醜悪な安倍改憲構想

押しつけ憲法論と国柄憲法論が、安倍改憲構想のもう一つの主柱です。
安倍は衆議院憲法調査会で、持論である押しつけ憲法論についても、「公布されたのが昭和二一年、まさに全く占領下にある。これは誰が考えたって、大きな強制の中で憲法の制定が行われたというのは本当に常識なんだろう、強制の下でできた憲法を私たちが最高法として抱いているということが、日本人にとって、心理に大きな、精神に悪い影響を及ぼしている」と赤裸々に主張しています。また、「憲法は、敗戦国としての連合国に対する侘び証文でしかない」「憲法を全面的に見直すことなくしては、占領軍による付与のものである戦後体制を自ら変えることはできません。戦後の固定観念を破壊することが、二一世紀の日本を新しい国にするために大切なんです」とも語っています(「対論集」)。
ここであけすけに語られているのは、押しつけ憲法だとの断定、連合国による日本に対する一方的断罪によってつくられた憲法は諸悪の根源という憲法観です。安倍の憲法観には、戦争への反省、日本政府の戦争責任がすべて削ぎ落とされている一方、戦後平和・民主主義に対する敵視・憎しみだけが充満しています。
「美しい国へ」は、ナショナリズムの権化のような書物です。拉致問題はもとより、東京オリンピック、フランスのW杯サッカー優勝、映画「ミリオンダラー・ベイビー」、遠藤周作の小説「沈黙」などなどすべての話題を強引にナショナリズムに回収しています。そして、愛郷心とナショナリズムを結びつけ、「自分の帰属する場所とは、自らの国をおいてほかにはない」と論じ、愛国心が何よりも大事だと強調したうえで、国のために命を投げ捨てた特攻隊をほめたたえ、「いのちをなげうっても守るべき価値が存在するのだ」と訴えています。国家を美化するための精神的支柱として、「日本の歴史は、天皇を縦糸にして織られてきたタペストリー(つづれ織り)だ。日本の国柄をあらわす根幹が天皇制である。」と天皇制をもちだしています。
「憲法が日本人の精神をだめにした」という安倍の持論は、こんな国家至上主義にその根っこがあります。安倍にとって、「自由を担保するのは国家」であり、国家との闘いによって獲得された自由と権利、市民が国家の権力乱用を防ぐためにつくったのが憲法という普遍的原則=立憲主義は彼の辞書には全く見当たりません。立憲主義を破棄し、国柄憲法をめざす安倍改憲論は、国のために命を投げ捨てるための憲法づくりにほかなりません。

■安倍改憲との対決にまなじりを決しよう!

安倍の改憲構想は、第一、戦後レジーム(体制)からの脱却=戦後平和・民主主義の全否定。第二、集団的自衛権の行使に道を開き、アメリカといっしょに国際法違反の予防戦争を戦う国づくり。第三、国のために命を投げ出すことを最高の価値とする天皇制国家の再構築。
「醜い国へ←改憲」は絶対に許されません。
戦犯・独裁の岸を倒した六十年安保、その岸を背後霊にした安倍改憲を、戦後平和・民主主義の底力にかけて葬り去ろう!

関西共同行動ニュース No42