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『共謀罪反対運動の現段階』 永嶋靖久(労働者弁護団・弁護士)

●共謀罪法案をめぐる状況はどうなっているか
先の国会で、共謀罪新設法案は、継続審議となった。最初の上程以来、足かけ4年、9度目の国会でも、与党は成立させることができなかった。今年4月末以降、繰り返し強行採決が試みられたが、反対運動の盛り上がりが、これを阻止した。国会終盤には、与党は民主党案丸飲みまで提案したが、民主党が応じず、「野党修正案の政府与党による単独強行採決」という前代未聞の事態が生じるかと思われたが、これも阻止された。最終的には、与党が、民主党案丸飲みを撤回の上、新たな修正案を提案して、継続審議となった。

●共謀罪とは何か
現在、犯罪が成立する(処罰される)のは、既遂(犯罪の実行に着手して目的を遂げた場合)に限るのが、原則である。一部の重大な犯罪に限っては、未遂(実行に着手して目的を遂げない場合)でも処罰され、内乱、外患(外国と通謀して日本国に対して武力を行使させること)、私戦(外国に対して私的に戦闘行為をすること)、放火、通貨偽造、殺人、身代金誘拐、強盗などの、特に重大な犯罪に限っては、予備(準備行為)も犯罪とされる。さらに、現行法でも2人以上の者が謀議(陰謀)をするだけで、何の行為に出なくても処罰される場合もあるが、それは、内乱・外患誘致等・私戦や破防法や自衛隊法など、ごく一部の重大な犯罪だけであり、例外中の例外である。
ところが、共謀罪では、既遂はおろか、未遂も予備も飛び越して、長期4年以上の刑が定められた犯罪については、団体の活動として共謀した者は(自首しない限り)すべて処罰される。
ここにいう団体は、2人以上が共同の目的を持ち、内部的な任務分担があれば成立し得るとされ、その目的自体が必ずしも違法・不当なものであることを要しない。例えば、会社が対外的な営利活動により利益を得ることなども「共同の目的」に当たり得る(法務省担当者の解説)。法務省は、「特定の犯罪を実行しようという具体的・現実的な合意」がなければ共謀にはならないというが、具体的・現実的な合意とそうでない合意の間に、截然と線が引けるものではない。国会では、目くばせでも,共謀が成立すると答弁されている。長期4年以上の刑が定められた犯罪が増えれば、共謀罪の対象も自動的に増えるという規定の仕方のため、対象犯罪の数は、03年の上程時は557だったが、05年1月には614、同年10月には619と法務省は答弁しており、現時点では620を超えて増えて続けている。

●なぜ、共謀罪が必要なのか。
法務省は、国会上程に先立つ法制審議会では、国内的には共謀罪を必要とする状況はない,条約締結のために必要である、と説明していた。ここにいう条約とは、2000年11月、国連総会で採択された、越境的組織犯罪条約である(政府は、国際組織犯罪条約と翻訳しているが、意図的な誤訳である)。日本は、翌月、同条約に署名し、03年5月には、国会は同条約を承認した。条約批准のためというのが、共謀罪新設の唯一の理由であった。
しかし、この条約審議途中まで、政府見解は「すべての重大犯罪の共謀と準備の行為を犯罪化することは我々の法原則と両立しない。さらに、我々の法制度は具体的な犯罪への関与と無関係に、一定の犯罪集団への参加そのものを犯罪化するいかなる規定も持っていない」というものだった。交渉経過が情報公開請求されたが、政府の開示はスミヌリだった。政府が、その見解を変えた理由は、今も明らかにされていない。
さらに、条約では、金銭その他物質的利益を得る目的が「組織的な犯罪集団」の要件とされている。これは、この条約が、麻薬やマネーロンダリングに関わるマフィアの取締りを目的としており、ハイジャック関連諸条約から99年12月に締結されたテロ資金供与防止条約に至るいわゆる反テロ条約とは異なるからである(「テロリスト」は物質的利益を目的にしない)。ところが、法案では、金銭その他物質的利益を得る目的は要件とされていない。そもそも、法務省も政府与党も、この条約がテロ対策目的であると宣伝しているのだ。
また、条約の適用範囲は「性質上越境的なものであり、かつ組織的な犯罪集団が関与するもの」とされているのに、法案では、越境性も、組織的な犯罪集団の関与も要件でない。
さらに、条約に批准した国々では、共謀罪に関する立法はどうなっているのかという国会での質問に対する外務省の答弁は、「調べたけれどわかりません。」というものだった。
このように、先の国会では、政府のいう共謀罪新設の理由は虚偽に満ちていることが明らかとなった。

●共謀罪を大衆運動の力で廃案へ
今までは、「悪いこと」をすると処罰される社会であった。しかし、共謀罪が新設されると、「悪いこと」を相談すると(聞いてしまうと)自首しなければ処罰される(共謀が禁止され、密告が奨励される)。しかも、あまりに処罰対象が多すぎて何が「悪いこと」かもわからない。共謀罪は、「自由な言論」と「民主主義」そのものを死滅させてしまう。
先の国会閉会以降、マスコミでは、共謀罪が必要だというキャンペーンが張られ始めている。政府・与党は、次の臨時国会での成立をめざしており、共謀罪をめぐる状況は極めて危険である。様々な労働組合・市民団体などで、決議を上げ、署名を集中し、さらに、地方議会の決議をめざすなどして、大衆運動の力で共謀罪を廃案に追い込もう。


関西共同行動ニュース No41