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『「白バラの祈り」映画評 斎藤郁夫(大阪教育合同労組) 

この映画は、ヒトラー政権下の43年2月、ナチ政権打倒を呼びかけるビラを撒いて逮捕された「白バラ」のメンバーの逮捕から処刑までの5日間を、ゾフィーという22歳の女学生に焦点を当てて描いた映画である。「白バラ」は、ヒトラー政権がスターリングラード攻防戦で30万人の兵士を犬死にさせながら、この事実を国民には知らせず、全面戦争に向かって突き進んでいった頃に活動した少数の大学生や知識人のグループであった。90年代に東ドイツでゲシュタポの尋問記録が公開され、この新証拠をもとにして映画は制作された。
 ビラをいつもは郵送していたが、6号目のビラを印刷したときビラが余ったので、ハンスとゾフィーの兄妹がミュンヘン大学で撒くことになった。翌日、無事撒いて帰ろうとしたとき、トランクを忘れたことに気づいて引き返したら、トランクにまだビラが残っていた。それでまた撒きに上階にあがる。帰ろうとすると講義の終りのベルが鳴った。ゾフィーが帰り際にバルコニーの上のビラを手で押したため、ビラは教室から出てきた学生の頭上に落ちていった。騒然とする群衆の中を2人は逃げようとするが、ゲシュタポに逮捕される。
 ゲシュタポ尋問官モーアとゾフィーの息詰まる駆け引きのシーンは圧巻だった。モーアは、「君のような恵まれた、有望な若者がどうしてこんな事をしたのか」と言い、仲間の情報提供と引き換えに、ゾフィーを釈放すると言うが、彼女はその申し出を拒否する。
人民法廷の場面では、傍聴席はナチの軍人たちで固められ、検事も弁護人も何も発言せず、裁判長は、被告が敗北主義者の思想を増殖させ、総統を侮辱し敵を支持しわれわれの防御力を錯乱させたとして、判決を下した。判決はギロチンによる斬首刑だった。
 「白バラは散らず」(ショル兄妹の姉のインゲ・ショル著)の影響もあって、ドイツではあらためてナチ協力者の問題が論議され、85年連邦議会は白バラ裁判を不当なものとして、当時のナチ人民裁判所をナチ政権のテロ装置であったと決議し、白バラの名誉回復がなされた。映画「ヒトラー最期の12日間」の最後で、ミュンヘン出身でヒトラーの秘書であったユンゲが告白する場面がある。「自分より1歳年下のミュンヘンの女学生ゾフィーがナチ体制に抵抗し、43年に処刑されたことを60年代になって初めて知り、体制の犯罪を認識するには若すぎたという自分の言い訳は通用しないことを思い知った」と。
映画が終わってから、「白バラ」の行動のよりどころとなったもののことをもう一度考えてみた。今の時代に活かすべき教訓に満ちた映画だという強い印象を持った。

関西共同行動ニュース No40