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『「米軍再編」が問う歴史的選択』 田巻一彦(脱軍備ネットワーク・キャッチピース)

■「基地再編」の挫折
 在日米軍再編の「3月末最終合意」を政府は断念した。報道によれば、海兵隊グアム移転のための費用負担(総額100億ドル!)に関する日米交渉の不調が最大の原因とされているが、原因がそれだけではないことは明白だ。
普天間代替基地の辺野古沖移転の足踏み、3月12日の岩国市民投票で示された空母艦載機移転に反対する強い民意に加えて、鹿屋、新田原、小松・・・嘉手納及び普天間からの航空機訓練移転予定地のほとんどすべてから「受け入れ拒否」の声が噴出している。陸軍第一軍団司令部の移転先に名指しされた神奈川県座間、相模原の両市長も「拒否」の姿勢を堅持している。
 昨年10月29日の「中間報告」に盛り込まれた内容は、正常な民主主義国家であれば、とうてい実行不可能であることは最初からわかっていた。米軍の海外基地再編を開始するにあたって、ラムスフェルド国防長官は、「歓迎されないところに配備しない」という原則を明らかにしたが、日本国民は「日米安保」を一般的には支持していても、その弊害を地域で受け入れることには強い抵抗があることは容易に予測できた。10月の中間報告は「安全保障同盟に対する日本及び米国における国民一般の支持は、日本の施設及び区域における米軍の持続的プレゼンスに寄与するものであり」と誇らしげに言った。
しかし、これが大きな誤算であることに彼らは気がつかなかった。というよりは、「何とかなる」とタカを括っていたのではないか。この政治判断ミスは、とりわけ日本政府の大失点というべきものである。国会における野党の弱体化が、例の「偽メール事件」でますます深まったおかげで、この政治責任を追及する声は国内ではほとんどあがっていない。
だが、今からでも遅くない。地域からあがる「基地拒否」の声響きあう全国的な世論形成によって、再編そのものを阻止する、あるいは骨抜きにできるチャンスは決して小さくない。

■「同盟再編」の前進
 注意しなければならないのは、前出の「中間報告」(05年10月29日)が、基地の再配置を重要な柱としながらも、それ以上に「日米安保同盟の拡大的再定義」という側面を強く持っていたことである。それは、中間報告書の公式名称が「日米同盟・未来のための変革と再編」であることに示されている。「報告書」は、「T概観」、「U役割・任務・能力」そして「V兵力態勢の再編」の三章からなるが、地域社会やメディアなどが取り上げているのは専らVの部分であるが、日米同盟総体の再編の観点からはむしろ「U役割・任務・能力」が重大な意味を持つ。
 ここでキーとなるの、は97年の新ガイドラインで登場し、99年に国内法が成立した「周辺事態」という概念である。「報告書」は次の様に言う。
▼日本は、新たな脅威に対処し、自国を防衛するとともに、「周辺事態に対処するために」米軍施設・区域を提供することなどを通して、米軍を「切れ目なく支援する」。
▼米国は、日本の防衛と「周辺事態」の抑止のために前方展開兵力を維持・増強するとともに、日本に引き続き核抑止力を提供する。
▼「周辺事態」が日本に波及する可能性がある場合、または(日本有事と)同時に生起する場合には、「日米の活動を整合させる」。その際には、他国との協力強化や第三国を含む定期的な演習による能力の向上が必要である。
 「周辺事態」とは何か? 97年新ガイドラインによれば、それは「日本の平和と安全に重要な影響を与える事態である。周辺事態の概念は地理的なものではなく、事態の性質に着目したものである」。
 周知のように、現行日米安全保障条約は第5条において日本が攻撃された場合の共同対処を、第6条において極東地域の平和及び安全のための在日米軍基地の使用をそれぞれ定めている。上記の「役割・任務・能力」は、このような地理的制約をとりはずし、在日米軍はどこの有事に対しても出動でき、それが、日本有事に繋がる可能性のある「周辺事態」であるならば、基地を提供するだけでなく日本は「後方支援」の名の下にその米軍と行動をともにすることができることを改めて外交文書として確認したのである。
 このような日米共同行動を可能とするためには、平和憲法の下で日本がとってきた武力行使の抑制政策=「専守防衛」や「集団的自衛権行使の禁止」は、「邪魔者」として後景に退けられ、最後には「防衛白書」などの公式文書から排除されていくであろう。これは通商産業分野における「市場開放・規制緩和」とよく似ている。日米の指導者は、「平和憲法」の規制を緩和して日本を「戦争市場」へと統合しようとしているのである。昨年11月に発表された自民党新憲法草案は第9条を改正して「自衛軍」を明記するとした。この「自衛」が「個別的自衛権」を意味することは明らかであるが、自民党が目指すのはむしろ「集団的自衛権」の解釈合憲化の準備であろう。

■突きつけられた選択
 「米軍再編」が描く安全保障構想とは、端的にいえば「核抑止力」、すなわち他国に報復の恐怖をあたえることによって確保される安全保障である。それを将来にわたって受け入れるのか、それとも、「一国の安全保障は、地域の他国の安全保障と不可分である」という認識に立った「共通の安全保障」へと舵を切るのか。私たちは、鋭い歴史的な選択を前にしている。


関西共同行動ニュース No40