集会・行動案内 TOP
 
『日本の将来は憲法九条を守れるかどうかにかかっている』 天木直人(元駐レバノン日本国特命全権大使)

●恥ずべき小泉首相の憲法観
 昨年11月30日、小泉首相は自民党本部で行われた結党50年記念で講演した。新聞紙上に書かれたつぎの講演要旨を読んで、私はめまいを覚えるほどの失望とこみ上げてくる怒りを抑え切れなかった。
 「・・・敗戦直後から日本に軍事力がなかった時代は一度もない・・・軍事力がなかったら、侵略しようとする国や組織に侮られ、その国の国民は抵抗しないと思われたら何をされるかわからない。それを未然に防ぐために軍事力は必要だ・・・(自衛隊は)憲法違反でないという解釈に政府も自民党も立っているが、これをわかりやすい表現にしたほうがいいと長年思ってきた・・・」
 なんという粗雑で不正確な安全保障観、憲法観であろうか。一般市民が茶飲み話の中で口走るのならまだ許されよう。しかし卑しくも一国の総理が公の場で話した言葉である。しかも結党50年記念を祝う講演の場である。こんな首相の手によって、今まさに憲法が変えられようとしている。到底許すことは出来ない。

●戦争の悲惨さ、平和の尊さを実感しよう
 戦後生まれの私は戦争というものを知らない。みずから戦地に足を踏み入れたこともなければ、目の前で人が犠牲になる光景を体験したことはない。
 そんな私は、レバノンと言う中東紛争の中心地に勤務し、連日のように米国、イスラエルのパレスチナ弾圧政策を身近に見てしまった。絶対的暴力の下で自爆抵抗するしかすべのないパレスチナ人の悲しみと絶望を共有した。不条理な戦争の犠牲になって悲鳴を上げるパレスチナ人を誰も救おうとしない国際政治の非情さに怒りを覚えた。
 そんな中であの米国の戦争が起こった。世界平和の守護神を自認する米国が、イスラエルを助けるために、そして自らに向けられるアラブの反米抵抗を壊滅するために、嘘をついてまでイラクを攻撃し、占領した。おびただしい無辜のイラク人の命が犠牲になることがわかっていたにもかかわらず、圧倒的な軍事力にまかせて何千年の歴史を持つバクダッドを瓦礫の廃墟にした。
 その結果どうなったか。イラクを武力で押さえつけようとすればするほど抵抗は激しくなる。殺戮が残虐になればなるほど抵抗は悲惨になる。若い女の子が自爆し、赤子を残した母親が体に爆弾を巻いて死んでいく。家路に急ぐ親子の車が米軍の誤射によって銃撃され泣き叫ぶ赤ん坊だけが残される。お使いに家を出た少年の頭を米軍の機関銃が吹き飛ばす。射殺され、死んでしまった少女の体に更に十数発の弾丸を撃ち込んで平然とする兵士が現れる。戦争は人を狂わせる。武力で平和は決して実現できない。私はそう確信する。

●私は誰にも負けない護憲論者となった
 イラク戦争が起きるまでは、そしてそのイラク戦争を支持した小泉首相を非難して外務省を辞めさせられるまでは、私は憲法9条の本当の尊さに気づかなかった。憲法9条への関心すら希薄であった。
 その私が、外務省という組織を離れ自由になり、イラク戦争に反対する講演を各地で行うようになってから憲法9条に向かい合うことになった。様々な人たちとの交流を深め、議論を重ね、そして自分なりに書物を読み、歴史を学び、考えた末に、私はついに一つの結論にたどり着いた。それはあの憲法9条こそ人類が最後に到達しなければならない理想の憲法であるという事だ。これは私が最後にたどり着いた結論でありそれは確信となった。誰がなんと言おうと憲法9条を変えてはならない。
 日本は米国に負け、占領された故に、あれだけの理想的な憲法を与えられた。その憲法を、未曾有の戦争体験をした国民が、二度と戦争の被害者、加害者になるまいと決意して守ってきた。米国も日本の指導者も、あの憲法を変えようと常に圧力をかけてきた。それでも国民の多くがその圧力を跳ね返してきた。あの憲法は権力者によってボロボロにされてきたがそれでも平和憲法の精神を失うことはなかった。憲法9条の一字一句が平和を願う国民の抵抗の歴史を刻み込んでいるのだ。
 平和憲法を押し付けた米国は、今やむき出しの戦争国家となって平和憲法は邪魔者だと最後の圧力をかけている。その米国に従属する小泉首相が憲法を変えようとしている。そんな状況においては憲法9条の一字一句たりとも変えさせてはいけないのだ。

●米軍再編への日米合意を認めてはならない
 小泉首相は昨年の10月末、米軍再編に対する中間報告を、国民に説明することなく、そして地元の住民さえも無視する形で、認めてしまった。
 その内容は、日本の防衛とは何の関係もない、戦争国家米国の全世界規模における「テロとの戦い」への軍事加担に他ならない。これは明らかな憲法否定である。それどころか「極東における脅威から日本を守る」という日米安保条約さえも逸脱する、まったく新しい日米軍事協力である。
 我々はこのことに気づかなければならない。気づいたならば強く反対しなければならない。憲法9条を守るためには、なんとしてでもこの新たな日米軍事協力を拒否しなければならない。

●憲法9条を守ることの本当の意味
 憲法を守ることは決して後ろ向きなことではない。消極的、否定的なことではない。それは日本を変える積極的な行動なのだ。
 もし我々が憲法9条を守り、日米政府の軍事同盟強化の動きを拒否することが出来れば、日本は全く違った国に生まれ変わることが出来る。平和で豊かな国を取り戻せる。それどころか国際政治の枠組みを変えることさえできる。
 その時こそが日本が世界に貢献できる国になる時だ。アジア諸国との友好関係を取り戻し、世界の国々から認められ尊敬されるようになる時だ。そう確信している。

関西共同行動ニュース No39