事件の終わり――宮月草那

 たまらないほどの痛みを全身に感じながら、病院に運ばれて。

 担架に乗せられて以降、ずっと同じ体勢で寝かされて、そのままどこかの病室に運ばれて。鎮痛剤やら点滴やらを、いろいろと打たれて。ていうか正直、なにがなんだかわからなくて。

 何の音もしない、本当に静けさだけしかないと言わんばかりの空間に、いつの間にかという感じで放り出されている気がした。そうなるまでにはちゃんと、医療行為という行程があったはずなのに。あたしもそれを覚えてるはずなのに。



 防音が完璧なんだろうか、扉の向こうからは何も聞こえてこない。あたしがいるのは個室らしい――今、自分で体を動かせないから、部屋の中をちゃんと確認したわけじゃないけれど。他に誰かがいる気配が感じられないほど、部屋の中は静かな感じだった。

 誰かが来ない限り、何も起こらない――ナースコールでもしようかな、寂しいからって言って――そんな考えが頭の中をよぎったりもしたけれど、両腕をろくに動かせない状態だとそれも一苦労なので、実際には行動に出ないまま終わる。



 医師さんからは、腕の骨が両方ともぱっきりと折れてるって言われた。折れ方としてはわりと綺麗なものだったらしいから、治す分には特に問題ないという話をまず聞いて。ただ、他にも腰とか肩とかに打撲がたくさんあるらしいので、それと合わせると全治は二ヶ月ほどかかる、という風に言われた。



 その時、あたしには実感がなかった。薬が効いていて、痛みなんてなかったからかもしれない。今まででこういうことがなかったせいかもしれない。そこまでの大怪我を自分が負っているなんて。信じられないとまでは言わないものの、実感がわかないのも本当だった。
 これもまた、なんでなんだろう。病院に運ばれる時は、確かにあたしはあまりにもな全身の痛みに身悶えていたはずなのに、そのことが嘘だったみたいに、今は痛みなんてなくて。それなのに全治二ヶ月ということは、二ヶ月もこの静かな病室でじっとしてなきゃいけないってことなんだろうか――
 その時のあたしは単純な頭でそんなことを考えて、気が滅入りそうになった。薬のおかげだということも忘れて、痛くないんだからもっと早く退院したいとひっそり思ったりまでして――






 急に、強い焦りを感じた。






 とりあえず、あたしは無事なんだ。ちゃんと入院とかすれば、また元の生活に戻れる。死んじゃったりはしない。それはいい――けれど、入院したのはあたしだけじゃないはず。

 通り魔に襲われた後に、あたしの目の前で意識を失って崩れ落ちた彼は、どうなのか。



 あたしは担架に乗せられて救急車で運ばれている時も、病院で治療を受けている際も、ずっと意識があった、生きているって実感を握り締めていた。

 けれど、彼は――漂くんはどうなのか。もしかしたら、あたしよりもひどい状態なのかもしれない。



 わからない。動けない。誰もいない。誰にも訊けない。彼は、漂くんは無事なのかどうか。確認することができない。あたしはここから動けない。急に、焦りがあたしの中を駆け巡った。

 彼は、どこにいるのか。どういう状態なのか。大丈夫なのか。

 誰かの言葉だけでもよかった。少しでも、彼のことについて知りたかった。
 無性に、本当に無性に知りたかった。



 でも、今のあたしは知ることができず、ベッドの上で動けないまま、時間が過ぎるのをただ待っているしかなかった。

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