事件の終わり――明原聖人

 とりあえず犯人は捕まった。
 俺が捕まえた奴が、犯人だった。



 今思うと、あれはかなり危険な賭けだった。一応、記憶の中にはいくつか情報があったが、100%そうではないにしろ、かなりの割合が直感を占めていたのだ。すれ違いかけた時に思った、『コイツは今逃がすとヤバイ』という種類の。

 捕まえて、ボコって、流血までさせて。そうやって押さえているうちに、サイレンが聞こえてきた。最初はピーポーピーポー、救急車。それはそのまま通り過ぎて、マンションのほうに向かっていった。続いてウォーンって感じの音の後からパトカーがやってきて、そっちは俺の姿を目に留めたのか、道路の脇に止まって。中の警官が俺のほうに駆け寄ってきた。

 その時点では俺が補導され、相手は被害者という扱いになったが、どっちに対しても警官は「署で話を聞こう」みたいなことを言った。



 そして警察署に連れて行かれて、俺はたっぷりと絞られた。とは言っても、予想では恐ろしい剣幕で長々と説教されるんだろうかと思っていたがそんなことはなく、どうしてあんなことをしたのかという質問から始まり、俺もそれに答えていくなど、ちゃんとした対話形式になっていた。

 そうして俺が話を聞かれるのと並行して、相手のほうも同じく話を聞かれていたらしいが、不審な点が見え始めたという。男の持ち物から免許証が出てきて、それを元に身元を訊ねたら、口を濁して具体的には答えなかったというのだ。他にも、どうしてあの時間にあんな場所をうろついていたのか、どうしてそんな格好なのかという質問にも、相手は答えなかった。

 結局その日の取調べの結果、俺も相手も拘留所に放り込まれることになった。俺は構わなかったが、相手はひどく納得のいかなさそうな顔をしていた。



 次の日になって、別の人間――多分旗村のことだろう――の証言が入り、相手の男への追及が強まった。さらに俺やそいつの証言の中にあった黒ワゴンの中を調べた結果や、免許証から出た男の住所に家宅捜索に入ったところ、不審さを強調するものが次々と押収されたという。
 そしてそれらを男に突きつけた結果、観念したように男は犯行の自供を始めたそうだ――そして警察は、男を殺人未遂・暴行・強制わいせつ罪の容疑で逮捕した。



 俺は最終的に警察から犯人逮捕にあたっての協力を感謝するみたいなことを言われたが、一方でやり方は良くなかったとも言われた。そして連絡を受けた学校は俺に批判的な態度を示し、停学一ヶ月を言い渡してきた。本当なら退学扱いだったが、犯人逮捕に貢献したことは考慮してやると、妙に高圧的な温情がこもった言葉もついてきた。



 そして、今。






 自分の家から一歩も出られず、俺は退屈にまみれた一日を過ごしている。事件を放っておくのが気分悪くて、首突っ込んで、なんとか解決の方向に持っていって――そうして得たものが、こんなつまらないもんだとは。むしろ事件にかかわった、その代償だとでも言うんだろうか。そしてこんな退屈が、一ヶ月も続くんだろうか。



 暇を潰す手段をあれやこれやと考えながら、今日も俺は家の中に閉じ込められている。

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