「え、みっちゃんさらわれたの!?」
「やり方汚ねえな……しかもホントの狙いは咲良だよな、それって」
「咲良も来てねえし……結局ひとりで直行したのかよ、あのバカ」
 放課後、いつもの部活の時間。だが今日は大人しく部活動やってる場合じゃない。昼間のことを話した途端に全員が会議モードに入った。議長は俺こと白共大士、他のメンバーはゲンとユウとエリ、加えて昼間の話を一緒に聞いてた沙衣子ちゃんとヤッツン、合計六人だ。
「とりあえずまず、これからどうするかだ。一応二択なわけだが。助けにいくか、大人しく練習に専念するか」
「助けにいくべきだと思う。咲良ひとりにまかせてボコボコにでもされて帰ってきたら文化祭の時絶対困るし、あとどうせ練習なんか集中できんし」
 第一の議題については即でユウが答え、俺を含めた周囲もそれに頷いた。『助けにいく』で満場一致で可決、というところか。
「にしても余計なお世話だっつーの。自分から一番危険な状況に飛び込んでって、人様に対して何が手の指大事にしろだ……で、ダイシ、次、実際誰が行くんだ」
 ゲンが毒づきついでに第二の議題を持ってきた。誰が行くか――これも方針は決まっている。
「ゲン、ユウ、お前らは来い。反論は却下」
「却下かよ、一応聞けよコラ、ったく」
「んなこと言ってー。反論する気ないだろゲンー。オレらはオッケーな、ダイシ」
 態度の差に苦笑しつつも、予想通りに賛成をもらう。俺としてもハナからOK前提で聞いたので、それはいいとして。
「ヤッツン、お前はどーする?」
 咲良から直に喧嘩慣れしてないと言われていたので、こっちにはちょっと二択を振ってみる――が、
「行くに決まってんだろ! こればっかりは黙ってらんねー!」
 まだ面識の浅い俺らから見ても珍しく興奮した様子で、即答が返ってきた。要らん心配だったらしい。
「ねえちょっと、あたしとエリちゃんには聞かないの?」
「なんだよ、お前らは来んなよ? さすがに女は巻き込めねーし」
「うん、まあ普通はそうよね、そうなるよね。でも私だってバンドの一員だしサイちゃんだってみっちゃんのこと心配だよねー?」
 ねー、と向き合って揃って頷く女二人を見て、俺は思いきり溜息をついてしまった。
「わかってんよ、それはよ。でも悪いけど今回は我慢してくれ。はっきり言って危ねーし」
「わーかってますよー。冗談だからそんな難しそうな顔しないで、リーダー?」
 くすくすと笑いつつそんなことを言ったのはエリだ。ちくしょうからかわれたと苦笑しつつ、こっちも受け入れてもらえたってことでほっとしたりもした。
「方針は決まり、だな。男全員で助けにいく、だろ?」
 ユウの要点をまとめた言葉に、全員が頷く。正直、会議するまでもなかったとは思うが、改めて意思確認をしたということで。
 ただ、まだ問題はある。
「場所、どこだ? 咲良にしかわかんねー書き方してたんだよな」
「うん、さっくんもみっちゃんも今までそういう話ってしたことなかったから、あたしも聞いてない」
 手紙見るまでさっくんは忘れてたみたいだしね、と沙衣子ちゃん。結局、詳しい場所はこの場の人間は全員即では思い描けない、が――
「河川敷、って書いてたんだよな。一応思い当たるトコあるけど」
 そう言ったユウに視線が集まる――なにげに要所要所で上手いこと喋るよなコイツ、と思いながら俺は言葉の続きを待った。
「ただなぁ、学校からだと結構遠いぞ、あそこ。近い電車も無いし、難しいな」
 言葉の通り、ユウが難しそうな顔をする。代わるように手を挙げたのはエリだ。
「自転車使えばいいんじゃない? 私、自転車通学だから持ってるよー」
「やっぱそれかなぁ……けど、一台じゃ駄目だろ。他に今すぐいけるヤツいる?」
 そう訊ねると、俺もいいぜと言って手を挙げたのはゲンだった。エリと合わせてこれで二台分。
「うーん……一台ずつ二人乗りかぁ。ギリギリだな」
「待て、でも俺はいいけどエリ、お前今日、帰りどーすんだ。お前んち行ったことねーけど、自転車通学ってことは遠いんじゃねえのか」
「今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょー」
 たまには歩いて帰ることにするわと笑顔で言ったエリに反論できなくなったのか、ゲンはむっつりと黙り込んだ。最近、実は咲良に次ぐ心配性なんじゃねえかって思えてきたのがちょっと面白くて、笑いを噛み殺すのにちょっと必死になりながら――パンッと一回だけ、俺は大きく手を叩いた。
「さて、もう話はだいたい決まってきたけど、最後にひとつ確認な」
 ちょっとだけ議長っぽく振る舞いつつ、そう言って全員の視線が集まったのを確認してから、俺は続けた。
「方向性は決まったけど、喧嘩とか二人乗りとか、結構危ないトコも出てきてるからな。特にゲン、ユウ、ヤッツン。話降りるなら今のうちだぞ?」
「お前は含まねえのかよダイシ。つーか今更言うんじゃねえよ、俺は構わん」
「ゲン、お前もいちいち噛み付かなくていいじゃんかよー。オレもいいぜー」
「オレも……ここでやっぱやめるって、すげーカッコわりーじゃん」
 決まりだな、と俺は笑った。とりあえず、ここにいるのはバカばっかりだと思った。この場合は褒め言葉として。
「じゃ、あんまり時間かけられないから早く行こうぜ。まず自転車だ」
「あ、道はオレが先導するから。ゲン、ちゃんとついてこいよー」
「なめんな。それよりユウ、実は場所間違ってましたとか後で言うなよ?」
「げ、しまった、そういう可能性もあるか? うわ急に不安なってきた俺!」
「はは、たぶん大丈夫だよー。あー、ダイシがゲンの後ろ、矢島がオレの後ろでいい? つーか二人とも……特に矢島、乗れんの?」
「乗るよ! てかいくらなんでもそこまでヘタレじゃねぇよ!」
「それ、ある程度はヘタレだって自分で言ってるよねぇ?」
「エリちゃん……言わないであげて、それは。ああもう、素直にさっくんとくっつけてやればよかったかしら」
「おいヤッツン、ひでー言われようだぞー。ちょっとマジ男見せろ、ここは」
「言われなくてもわかってんよチクショー!!」
 これからある意味修羅場に向かおうとしてるってのに妙に軽いなぁ、と思った。多分、緊張してんのはヤッツンくらいのものだ。それもこれから喧嘩しに行くということに対してじゃなく、今はヘタレの汚名返上のほうに意識が行っているようで。
 とにもかくにも面白いことになりそうだと、なんとなくそんな期待をしながら俺は集団を率いていた。