「……漂、くん? 漂くん……?」
「…………ん…………」
「っ、……、ご、ごめんなさい……」
「……いや……なに……、何、いきなり謝ってんの……」
「だ、だって……眠ってたし……」
「……、起こしちゃったから、ってこと?」
「え、う、はい……」
「……いや、それはいいけど……君、誰……?」


「あ、ええと……結宮、咲良って、言います……」


「え、っ…………」
「……や、やっぱり驚き、ます、よね……」
「いや、でも……待って、ごめん、ちゃんと起きるから待って!」
「え、は、はいっ」
「……えっと、その……さくらって、どういう漢字の?」
「……あの、ですね……漂くんの咲良と、同じ字なんです……」
「え、うっそっ……!!」
「……きっかけは、それだったんです……文化祭で、歌うって聞いて……気になって気になって仕方なくて……」
「…………そっ、か……いや、ちょっとさすがに、びっくりした……うん、目、覚めた」
「ご、ごめんなさい、そんなつもりは……!」
「いや、謝らなくていいってば……ふ、ふふふ」
「え、え、なんで笑うんですか……?」
「いやあ……面白いっていうか、なんていうか……笑えてきたっていうか……あ、でも嫌だったらゴメン」
「そ、そんなことはっ……あ、あのっ」
「なに?」
「文化祭のとき、かっこよかったですっ……あの、私、直接は聴けなかったですけどっ」
「……直接は、ってことは、DVD見たの?」
「は、はいっ……」
「……そっか。……じゃあ、やっぱりいいの出来てたんだ……よかった」
「え……やっぱりって」
「こっちの話。……ああ、あと、褒めてくれてありがと」
「そ、そんな……こっちこそ、ありがとう、です。……好き、です……好きに、なりました、漂くんのこと」
「あ、う……もしかして、そういう話……?」
「や、やっぱり迷惑ですかっ? 漂くんのこと言ってる女子の人、最近すごい多いしっ……」
「……いや……君は、違うかな」
「え?」
「そこまで必死なひと、今までの中じゃいないし……」
「……必死っていうか、その……」
「……や、無理しないでいいよ。……てか、よく見たら誰もいないけど、どっかで見てんのかな……」
「あ、そ、それは……」
「ああ、君が言わなくていいから。……ちょっと落ち着こ?」




「……あー、なんか見ててイライラすんなァ」
「まーまー、ゲン。とりあえずいいムードにはなってきてんじゃん?」
「そうねぇ。咲良くんも、今までの女の子とは違う態度みたいだし、いい感じじゃんねー」
「いーの、ミズイちゃん? あなただって咲良くんに熱上げてたじゃない」
「あたしはダメだわ、DVDでおなか一杯よー。みっちゃんに撮り貯めてもらった分で堪能するわー」
「それどこの危ない人よ。まあ、だったらあたしに感謝してもらわないとねー」
「もちろんよう。なんならこれからのアレも撮ってもらいたいわー」
「いや、それはちょっとマズイだろ。アレは見てるだけにしとけ、ホント」
「……口出しは多少することになるんじゃねーか?」
「まあ、そうでしょうね。あたしたちは影で支えてあげなくちゃ」
「そうだな。まだ面白いもん見せてもらえそうだしな」
「面白いっていうか、気持ちよくなりそうっていうか?」
「そんなトコかな。どうなることやら、見守ってやろうじゃん」




 ――なんだかそんな風に、数人の野次馬の視線を浴びながら。
 終わりのはずが、どうやら話は続くらしい。




 とりあえずここで一区切り。
 ここから先は、また別のお話。








 まだ僕は、のんびりさせてもらえそうにないようだ。