「いたいよう、いたいよう」



 どうしました、くまのぬいぐるみさん。









「あしがもげちゃったよう。いたいよう、いたいよう」



 ああ、なんてこと。どうしてそうなったのですか?









「ごしゅじんさまのおとうさまがね、ごしゅじんさまをよろこばせようとおもって、ボクをプレゼントしたの」

「ごしゅじんさまはよろこんだけどね、らんぼうにふりまわされたから、ボクのあしはもげちゃったの」



 ああ、なんてことを。どうしてあなたがらんぼうにふりまわされなければならないの?













「だって、ボクは『くまのぬいぐるみ』だから」

















































「いやだ、ごしゅじんさま、すてないで、すてないで」



 どうしました、くまのぬいぐるみさん。









「ひどいよごしゅじんさま、あしがもげたからってボクをすてないで」



 ああ、なんてこと。どうしてそうなったのですか?









「ごしゅじんさまがね、あしがもげたボクのことを『きもちわるい』っていって、おこったかおでボクをごみばこにすてようとしてるの」

「ボクがきもちわるいのってそんなにいけないことなの? いやだ、すてないでごしゅじんさま。おねがいだからすてないで」



 ああ、なんてことを。どうしてあなたがきもちわるがられてすてられなければならないの?













「だって、ボクは『あしのもげたくまのぬいぐるみ』だから」













































「いやだ、やめてよ、いれないで、いれないで」



 どうしました、くまのぬいぐるみさん。









「ごしゅじんさまのおかあさま、ボクをそのあおくてとうめいなふくろのなかにいれないで」



 ああ、なんてこと。どうしてそうなったのですか?









「ボクがうったえてもごしゅじんさまはきいてくれなかった。ボクはごみばこにすてられたんだ」

「あおいふくろのなかはごみばこいじょうにごみだらけ。ボクはしってる、ボクはごみといっしょにそとにほうりだされるんだ、いやだ、いやだ」



 ああ、なんてことを。どうしてあなたがそとにほうりだされなければならないの?













「だって、ボクは『あしがもげてごみにまみれた、きたないくまのぬいぐるみ』だから」













































「いやだ、こわいよ、つぶさないで、つぶさないで」



 どうしました、くまのぬいぐるみさん。









「てつのいたがせまってくるよう。にげたいのににげられないよう」



 ああ、なんてこと。どうしてそうなったのですか?









「ボクはけっきょくごみとしてすてられたんだ。しらないひとがボクをくるまのうしろにほうりこんだんだ」

「くるまのなかにほうりこまれたとたん、てつのいたがせまってきてるよう。こわいよう、ぺちゃんこになっちゃうよう」



 ああ、なんてことを。どうしてあなたがぺちゃんこにならなければならないの?













「だって、ボクは『あしがもげてごみとしてすてられた、きたないくまのぬいぐるみ』だから」













































「あついよう、あついよう」



 どうしました、くまのぬいぐるみさん。









「からだにひがついてるよう。あついよう」



 ああ、なんてこと。どうしてそうなったのですか?









「はこばれたさきのばしょで、いろんなごみといっしょになったの」

「ほかのごみといっしょにほうりこまれたところは、ひがものすごくげんきだった。あついよう、もえちゃうよう」





 ああ、なんてことを。どうしてあなたがもやされなければならないの?











































「だって、ボクは『ごみ』だから」















































 もしもし? くまのぬいぐるみさん?





 きこえているなら、へんじをしてください。





 くまのぬいぐるみさん?











































 ……ああ、もうダメですか。







 灰になられてしまわれましたか。







































 彼は、人間にとって『物』にすぎなかったから。











 必要が無くなれば、あっけなく捨てられる存在だったらしいから。











































 彼の叫びは、結局誰にも届かない。









 そして、彼はもう2度と叫ぶ事が出来ない。











































 ――虚しいね。







 だって、ありふれたことだから。







 こんなことは、ありふれたことだから。










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