もしもあなたが罪を犯したならば。
どんな理由で犯した罪であれ、あなたはその重さに耐えることが出来ますか?
いつまでも、罪を犯した事を、後悔したりはしない、そう思えますか?
馬鹿な事をした。
今は、そう思わずにいられないでいた。
長い間、1人でいた。
そしてそれは、未だに続く。
私は罪を犯した。
ゆえに、裁判にかけられ、無期懲役の判決を言い渡された。
そして今、私は刑務所の中にいる。
その中で1人で時を過ごす事がどれほど孤独で苦痛であるか。
始め、私は全く認識していなかった。
その時の私は、復讐心に駆られ、後の事など全く考えていなかったのだから。
復讐。
私は復讐相手を殺して捕まった。
私の中に復讐心が芽生えたのが、全ての始まりであった。
私の息子を殺した男がいた。
息子を殺されたという事実だけでも、私と妻――祥子にとっては精神的に凄まじい傷であった。
だがもし、男が息子を殺すのに、復讐などのような正当な理由があったならば。
――殺人に正当な理由などというものがあるのかどうかはわからないが――
私は殺してやりたいと思い実行するほどあの男を憎みはしなかっただろう。
だが、あの男の殺人理由は、理由などと言えるものでは到底なかった。
『顔を見たら苛立った』から、あの男は私のたった1人の息子を、佳彦を殺したと、そう言った。
しかも、あの男自身には、まるでそんなことをした自覚などないかのようだった。
あまりにもふざけていた。
あの男の些細な苛立ちのせいで、佳彦はあの子自身が持っていた未来の夢や可能性を、すべて断たれてしまったのだ。
私はその事件を担当した刑事に、あの男の死刑を願った。
しかしそれは叶わなかった。刑事は、法の壁には勝てないと、苦渋に満ちた顔で言った。
刑事の言った通り、あの男は大した罪にはならなかった。10年足らずの期間を少年院で過ごすだけに終わった。
警察、法があの男を死刑にする事を阻んだ。それも許せなかった。
だが、刑事の顔は覚えていた。彼もまた、内心ではあの男には死刑が相応しいと考えていたかもしれない。
だから私は法を恨んだが、警察を恨む事はしなかった。
そもそも、そんなことは些細なものでしかない。
私は、あの男が佳彦を殺したこと、それが最も憎かったのだ。
法があの男を裁けないなら、私が裁く。
あの男に、死を。
私はその願いを叶えた。
そして私は捕まった。
捕まってもよかった。佳彦の敵を討ったのだから、悔いはない。
―――そのはずだった。
刑務所に投獄されてから、3年。
未だ、私は服役中である。
この生活に、疲れ果てている。
何故、私はこんな所にいるのだろう。
――疑問に思うまでもない。私が人殺しだからだ。
いつまでここにいなければならないのだろう。
――私の刑は無期懲役。10年近く前のことだが、調べたところでは、おそらくあと7年。……出獄は、果てしなく遠い日のように思える。
私が殺した男は、私が人生を棒に振ってまで復讐する、その価値のある男だっただろうか。
ある日、ふとそう思った。
その途端。
自分はひどく馬鹿な事をしたのではないかという、激しい後悔の念にとらわれた。
佳彦は果たして、こんなことを望んだだろうか。私のした事は、無意味だったのではないだろうか。
復讐を犯した結果、私は刑務所で孤独に苛まれている。
それでも構わないと思ったのに、味わってみると、つらくて、つらすぎて、途中で逃げ出したくなりそうな。
そして果てに、復讐を後悔し始めている。
私のした事は、一体なんだったのだろうか。頭の中にそんな疑問を抱えつづけながら。
そうして、自らの愚かさを悔いる一方、やはり殺した今ですらあの男に対する憎悪を抱きながら。
そして、孤独に蝕まれながら。
今も私は服役中である。