6月。梅雨。雨の降る月。うっとうしい月。
 そんな中、いつも通りに大学に向かう。
 今日は昼の1時限だけだ。

 いつも通り、大学の最寄りの駅に着く。
 そこから大学まで歩く。かかる時間、約20分。

 元々その日は雨が降っていた。
 だが、俺が空の下に出た途端、その勢いは強くなりやがった。
 たいして気に留めることでもないが。
 何があろうとこの日、俺は大学行って授業に出て、そんで帰るだけだ。

 ・・・歩いている間、自分の感覚が不思議だったような気がした。
 自分自身に対して、何の感情も感じられなかった。
 自分が何を考えていたのか、全くわからなかった。
 歩いている時はそのことに微塵も気付かなかったが。
 雨は、降る。
 勢い、強く。



 最近、世の中がどうかしていると思う。

 尋常じゃないような事件が、最近はテレビ画面を覆い尽くそうとせんばかりに次々と起こる。
 見た直後は、どうしようもないくらいの怒りを覚える。
 そして考え、考え、考えるうちに心は空虚になってく。
 心が少しずつ、削られているような気分になる。
 憂鬱、苛立ち、虚無感。そんなものに心を支配されたような気分になる。

 見続けるうち、心が何も感じなくなってゆく。見てはいけないものを見慣れてしまう。

 最近、自分自身がどうかしていると思う。



 雨は止まなかった。
 それどころか、その勢いはますます強まっているような気がした。
 だが、だからなんだというんだ。動じる事なんか無い。
 この程度の雨じゃ、この世の陰湿なすべてのものは洗い流されなどしてくれない。
 足りないんだ。
 足りなさすぎんだ。
 だけど。
 こんな思いを抱く事自体、
 俺が雨にすがっているという、俺自身の弱さの証明なのか。
 けど、すがりたいと思ってんだろう。
 俺は弱いから。
 弱いがゆえに、この世を陰湿と思うんだろう。













 帰る時。
 雨は弱まってた。
 行きの時に存在した勢いの強さは、どこにもなかった。
 だが、弱まっていようと、雨は降っている。
 つまり、雲が出てる。
 つまり、太陽は雲に隠され、見えない。

 どうせ降るなら、勢いよく降れよ。
 半端に降るんじゃねぇ。
 太陽を隠す。
 その行為だけしてんじゃねえ。
 雨が降らないから、流されるものは何も無い。
 太陽の光が届かないから、どんな奴もどんな物も、光を浴びる事が出来ない。
 ただ、気分だけが陰鬱になる。
 そんなのは半端だ。
 だから雨よ、降るなら激しく降れ。その気が無いなら、雲ごと失せろ。

 心の中でそうぼやいても、そいつらは俺の言う事など聞くわけが無い。
 そいつらは自然と言うものの一部であり、俺なんぞよりもはるかに崇高な奴らだから。



 何を思う。
 何を忘れる。

 何を好む。
 何を嫌う。

 何故、歩く。
 何故、立ち止まる。

 何故、進む。
 何故、引き下がる。



 瞬間。
 頭の中が訳のわからない事になった。
 俺は何を望んで生きる。
 俺に為すべき事があるとしたら、それは何だ。
 考えても考えても、考えれば考えるほど、訳のわからない事だった。
 訳がわからなくなるだけなら、考えても無駄だろう。
 『混沌』は隅に追いやっちまえ。
 でないと、狂っちまうかもしれない。
 事件を起こすヤツラのように。

 事件を起こすヤツラのように。









 ひょっとしたら、狂った姿が俺の本当の姿かもしれない。









 …………。









 ……怖い、かな。












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