あいつは汚いヤツだ。
あいつは暗いヤツだ。
言われつづけた。指摘されつづけた。
嫌だった。たまらなく嫌だった。
僕は汚くない。僕は暗くない。
僕はせいいっぱい、反発した。
でも、言われた。
あいつは汚いヤツだ。
あいつは暗いヤツだ。
言われつづけるのは嫌だった。
たまらなく嫌だった。
嫌だから、汚くて暗いと言われない存在になりたかった。
僕の事を汚くて暗いヤツと言うヤツらを、見返せる存在になりなかった。
汚くて暗い存在の反対は、綺麗で明るい存在。
それってなんだろう。
考えた。考えた。
考えつづけてる間も言われた。
あいつは汚いヤツだ。
あいつは暗いヤツだ。
考えるのに集中できなかった。汚い言うな、暗い言うな。
それでも考えた。
とても、とても長い時間、考えた。
綺麗で明るい存在って、なんだろう。
――見つけた。
見つけるまでにどれだけこう言われただろう。
あいつは汚いヤツだ。
あいつは暗いヤツだ。
綺麗で明るい存在。
それは、光。
光になりたい。
光になれば、汚いとか暗いとか言われなくなる。
僕を汚いと言うヤツらを見返せる。
僕を暗いと言うヤツらを見返せる。
光になりたい。
僕は光の前に立った。
すると、僕の後ろに影が現れた。
それは暗かったので、僕は自分の影というものを捨てた。
しかし、まだ光にはなれなかった。
僕は光に照らされた自分の身体を見回した。
自分の身体の汚さが、いつもよりはっきりと表れていた。
それは汚かったので、僕は自分の身体というものをを捨てた。
しかし、まだ光にはなれなかった。
僕は自分の心を光に照らした。
光になりたいという思い以外に、いろいろなものがごちゃごちゃと入り乱れていた。
それは汚かったので、僕は光になりたいという思い以外のいろいろなものを捨てた。
そして、僕はようやく光になれた。
光になった僕は、僕を汚いとか暗いとか言ったヤツの前に姿を現した。
どうしても、ヤツらを見返したかった。
しかし、見返すどころか、ヤツらは気付かなかった。
目の前の光に。目の前の僕に。
どうして気付いてくれなかったのだろう。
僕はあたりを見回した。
僕以外にも、あたりにはたくさんの光があった。
存在を主張するために、僕は手当たり次第に他の光を飲み込んだ。
存在を認めてもらい、そしてヤツらを見返すために。
そのために、なってやろうと思った。
最強の光に。
他の光を飲み込み、僕という光は瞬く間に膨れ上がっていった。
他の光を飲み込むこと自体が、楽しく思えた。
本来の目的も忘れてはいない。僕を汚い暗いと言ってたヤツらを見返すために、僕は最強の光になる。
やがて、世界に僕以外の光がなくなった。
僕は僕自身以外の全ての光を飲み込んだ。僕は最強の光となった。
僕は再び、ヤツらの前に姿を現した。
そして言った。僕はもう汚くなんかないぞ、僕はもう暗くなんかないぞ。
ヤツらは言った。
汚いヤツめ。
暗いヤツめ。
光を独占するなんて、なんて汚いヤツ。
俺たちに復讐しようだなんて、なんて暗いヤツ。
そんな。
どうして僕が汚いんだ。どうして僕が暗いんだ。
僕は最強の光なのに。
僕こそが最強の光なのに。
この世でもっとも綺麗で明るい存在のはずなのに。
激しく腹が立った。
そして僕はヤツらまでも飲み込んでしまった。
悲鳴が聞こえた。
怯えが見えた。
そして、世界には僕以外に誰もいなくなった。
もう誰も、僕を悪く言わない。
しかし、もう誰も僕を誉めてくれないのだった。
それは、寂しかった。
とても、寂しかった。