笑う門には福来る。
誰かがそんなことを言っていた。
だから僕は、いつでも、どんなときでも、笑っていた。
僕が笑っていると、人々は気持ちよさそうに僕を見ていた。
嬉しかった。
だから僕は、その人たちのために、ずっと笑っていた。
僕が笑っていると、草木が茂り、花が咲いた。
その草木たちは、とても元気そうだった。
だから僕は、その草木たちが元気でいることを祈りながら、ずっと笑っていた。
僕が笑っていると、時々子供たちが僕を見上げながら、野原に寝転んでいた。
とても、気持ちよさそうだった。
だから僕は、その子供たちがより気持ちよく眠っていられることを祈りながら、ずっと笑っていた。
僕が笑っているだけで、人々は喜び、草木は踊ってくれた。
それはとても嬉しい事だった。
嬉しいから、僕はさらに笑った。
そうして、ずっと笑っていた。
でも、時々邪魔をされた。
いくら笑っても、人々の顔が見えないことがあった。
僕と人々の間に現れる壁のせいで。
壁というのは普通は黒い。けれど、時々白かったりする。
邪魔をされた時、僕は思った。
意味が無いのだから、笑うことなどやめてしまおうか、と。
けど、出来なかった。
もし、僕が笑っていなければ。
人々は悲しい顔をするだろうから。
草木は落ち込んで、しおれてしまうから。
「それは違います」
突然、声がした。
「あなたは、誰?」
僕は問うた。
「私は、あなたに邪魔だと思われているものです」
相手は答えた。
「何が違うの? 僕が笑っていることは間違いなのかい?」
僕は問うた。
「いいえ、間違ってはいないのです。しかし、それだけではないのです」
相手は答えた。
「あなたが笑っていることだけが、全てではないのだ」
別の方から声がした。
「あなたは、誰?」
僕は問うた。
「私もまた、あなたに邪魔だと思われているものだ」
相手は答えた。
「全てではないって、どういうこと?」
僕は問うた。
「時にあなたは隠されねばならない。私によって、そして時には彼女によって」
相手は答えた。彼女とは、最初に聞こえた声の主。
「どうして?」
僕は問うた。相手が言っている事の意味がわからなかったから。
「そうすることで、全ては上手くいっているのですから」
最初の声が、答えた。
「全て? 人々も、草木も、あなたたちが時々僕を彼らから隔てることで、上手く言っているっていうのか?」
僕は問うた。
「「そうです」」
2つの声は、そろって答えた。
「……あなた達は、何者なの?」
僕は問うた。
「私は、雲。人々に、雨となって恵みをもたらすもの」
最初の声が答えた。
「私は、夜。私在る時、人々は安らかに眠るだろう」
後の声が答えた。
「「そして、あなたは太陽」」
2つの声は、再び、そろって答えた。
「あなたの光によって、露を浴びて光りし草木は成長し、踊る」
「あなたの光によって、人々は夜の眠りから目覚め、活動を始める」
「「やはりあなたは人々の笑顔、草木の舞踊のために欠けてはならぬ存在」」
「「我々もまた、あなたがいなければ存在し得ない」」
2人は、励ますように僕に言ってくれた。
「「我らはあなたを支えましょう。あなたは我々や、人々、草木、その他にも多くの生命を支えているのだから」」
2人の言葉は、とても力強かった。
もう僕は、彼らの事を邪魔だとは思わないだろう。
人々のために。草木のために。多くの命のために。そして彼らのために。
これからも笑っていよう。全てが幸せでありつづけるように。
「今日はいい天気だねえ」
「ほんによう晴れとる。して、昨日は雨じゃったかな?」
「そうだねえ。これならば、作物もよう育つと言うものじゃて」
「そうじゃなあ。それに、陽気が気持ちいいわい」
「おや、さつき。どこへ行くのかね?」
「あ、おじいちゃん! んーとね、今日はいい天気だから、たけと遊んでこようと思って」
「おお、そうかそうか。良い事じゃ。あまり遠くには行かんようにするんじゃぞ」
「うん! 行ってきまーす!」
「ほんに、元気じゃのう」
「良い事ではないですか、おじいさん。日の光に感謝しようではないですか」
「そうじゃな。あの子が元気でいることも、日の光のご加護じゃろうしな」