いつもやっていることに、ある日突然『異変』が起きたりしたら、あんたはどうする?
こんなこと訊いてる俺だって、つい最近まではちっとも気にしなかった話だ。
つっても別に、ある日突然目の前に宇宙人が現れたとか別世界に来ちまったとか、そんなんじゃない。
そんなのは漫画とか小説の中だけで十分だし、実際そういったことが俺の身に起こったわけじゃない。
つーか、ありえるわけがない。実際問題、宇宙人やら異世界やらは、『ありえない』と割り切れるほどにありえない。
実際の『突然の異変』ってやつは、後で冷静に考えりゃ説明が出来る(最悪でも理屈は作れる)事例が多い、と俺は思う。
で、だらだら長くなっちまったが、俺に起こった異変つーのも、説明っつーか、思い当たる節がいっぱいあったわけで。
けど異変の瞬間は、俺は確かに、信じられないものを見た気になった、ってのは間違いない。
まあ、簡単に言うと。
トイレ行って小便やったら、出てきたもんが紅かった。
実際の血に比べりゃまだ透けてんだけど、普段黄色いはずのもんが、その日に限って紅かった。
うん、マジで焦ったね。『ヤべェェェェェェェェェェェェ!!!』って。多分、そん時の俺は血の気が引いた状態だったんだろう。
実は自覚症状はあったんだけど、昨日までは『ほっときゃそのうち治るだろ』みたいなスタンスで、わりと我慢もしてたんだが。
まさか紅いもんが出るなんて夢にも思わなかったけど、後で考えたら確かに予兆はあったってことで。
なっ、最初に言ったことと合ってるだろ? 異変は異変だけど、冷静に考えたら説明はつくだろってやつ。
まあ事例が1つ限りで説得力無いかもしれないが。
で、その日はもう全然我慢が利かない。数十分に1度トイレに駆け込む有様。でもってしょぼしょぼと用を足す。
出るのは相変わらず紅色混じり。時々本当に血と同じ真っ紅なかたまりみてーなのが混じってたりすんだよな。
ああもう、気味悪いったらありゃしない。今は落ち着いたもんだけど、出来れば2度とあんなもん見たくないね。いや、当たり前だってツッコミはなしで。
そりゃ血尿なんてハナっからなりたくねェだろ誰だって。どころかそもそも血尿だけじゃなくて病気そのものが嫌われもんなんだから。
でも見る前と見た後だと、嫌悪の度合いが全然違う。コレ切実。
――ああもう、身体震えてきたし。寒い寒い。コレで風邪引いちまったら真性バカじゃん俺。
で、もちろん血尿ってことで、異常ってことで。その日は日曜日だったから、少なくとも近所の医者は休みだったわけで。
仕方なく親に薬を出してもらってそれを飲んだ。
――薬飲んだ後で小便行ったとき、痛みは引かなかったけど、出たもんはちゃんと黄色に戻ってた。
それまで薬なんて怪しいとさえ思ってたのに、これ見て普通に『あぁ、薬ってスゲーーーーーーーー』と思った。ちゃんと効いてるんだなーと。
で、なんとかその日の夜は薬も効いて無事に寝れた。――飲んでなかったら寝るのは無理だったろう。
そして翌日。時間が余ったので速攻で医者に行った――ある意味、最初から予定に組んでたみたいなもんだったから、余ったとは言わないか?
泌尿器科。最初はもう、自分が持ってる病気をなんとかしたいって一心で、深く考えてなかった。
――むしろここは深く考えるべきところだったのか? 尿を採ってそれ検査した結果聞いて終わりだと思ってたのが、そもそもの間違いだった。
ここじゃ言えないが、実際の検査はメチャメチャ恥ずいもんだった。
これも冷静に考えたら、患部が患部だけに当たり前のことではあるんだが。実際やられるとすんげーショックなんだな、これが。
で、さらに最初の結果は、事前に薬飲んでるせいで正確な検査が出来ないから後日来てくれ、だと。
待ってくれ、またあんな恥ずいことやるんですかいせんせー。
でも逆らえない。知識に関しては俺よりあっちのが断然上で、逆らえるわけがないし、来ないわけにもいかない。
嫌なのは嫌なんだが、病気持ったのは自業自得ってことで、結局最終的には自分自身に嫌悪が向く。ああ鬱だチクショウ。
で、薬もらって家に帰る。しばらくは医者から渡された薬を、指示通りの時間に飲む――これがまたクソ不味いのなんのって。
医者行く前に飲んだものとは比べ物になんねーほどの不味さ。飲み込み慣れない最初のうちなんて、直前に食った飯ごと吐いたこともあったなぁ。
まあこれも、薬ってのが効き目優先で味なんてどーでもいいっていうスタンスだからしょうがないんだが。
逆に言やあ、いくら味が良くても効き目のない薬なんて、果てしなく意味が無いわけで。
でもってまたも、そもそも病気患わなきゃこんな薬飲まずに済んだのにって、果てしなく自己嫌悪。ああ馬鹿だ俺。
でも多分摂生はしない。多分メンドクサイ。
こんな異変が起きても、それまでの生活パターン、いつもやっていることを変えてみる、なんてのは楽なことじゃない。
楽なのが好きな俺は、楽じゃないことはしたくない――こんなことを考えては、ああ俺って自堕落、って感じに自己嫌悪。エンドレス。でもやらない。真性バカ。
ちなみに不味い薬でも医者の指示ってことで辛抱強く飲み続けてる。
おかげさまで小便で紅いもんは今ではちっとも出なくなったし、痛みも無い。このままなくなっちまえばいいと思う。
摂生する気がないのに、こんな体験は出来ればもう2度としたくねェ、なんて考えてる。でも、考えること自体は当たり前だろう。
普段から病気が嫌だなんて言ってるけど、実際に体験してみると、言ってたとき以上に嫌だ。体験として気分の悪いことの連続だから。
しかし何が嫌かって、やっぱり初めて紅いもんが出たとき以上の衝撃ったらない。
その時こそ、それまでの『いつもやっていることの繰り返し』というごく普通の生活サイクルの中から、『異変』を感じ取った瞬間だから。
そういった意味で衝撃がでかかった。たぶん。
まあ俺の体験談はこんなもんだ。下品極まりないが、リアリティのある異変ってやつを語りたかっただけという話。
こんな下品な例じゃなくても構わないが、あんたにも何か無いか? いつもの生活の中で突然起きた異変ってやつ。
あったら訊きたいかもしれないと言っておいて、話を締めくくってみる。――俺としては、こんな話は2度とごめんだけどな(苦笑)。
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