「っぐ……うぅ……うあぅぅ……」




 嗚咽が止まらなかった。


 涙も止まらなかった。


 立っていられなかった。


 顔も上げられなかった。


 地面に手をついた。











 あまりにも惨めな格好で、僕は泣いていた。


 頭の中は真っ白で、ただ、泣いていた。





 由が今どうしているのか、全く見えやしない。


 目の前のアスファルトすら、涙で歪んで見えやしない。















 『怖かったのは、あなた』

 その言葉が、あまりにも痛かった。白くなった頭の中に、不意に浮かんでは消える。
 泣き止めなかった。















「あなたはあたしに同じことをした。それがつらくて、怖かったの」

 不意に言葉が降ってきた。それでも僕は、顔も上げずに泣き続けていた。




「あたしは裕基にとって、よっぽど汚い存在なのかって思った」

 言葉は続く。泣いている僕を意に介さないかのように。







「少しの埃も近づけないかのように、裕基はあたしを遠ざけた」


「そう気づいたときにはもう、あたしは泣いていた」


「怖れ、悲しみ、そういう感情に捉われた――」



 その言葉のすべてがつらかった。いや、もはや由の声を聞くこと自体がつらかった。
 気づくはずもなく、由は話し続けていた。















 後悔の念が渦巻く。
 昨日、何を言えばよかったのだろう。何を思い、何をしてあげればよかったのだろう。
 そう思ったとき。





「所詮、あたしはあの夕日みたいに、綺麗な存在にはなれないってことなのかな」





 夕日。
 それは彼女がいつも見ていたもの。確かに、とても綺麗なもの。



















「今、見つめている夕日、それはとても綺麗なもの」


「あたしの記憶の中にある夕日、それもとても綺麗なもの」


「だけど再現しようとしたとき、それはとても汚いものに変わり果ててしまう」


「それは、あたしが汚いせいだからかもしれない」























 涙を拭い、顔を上げた。
 見えたのは、由の背中。夕日をとても愛おしそうに見つめる背中が1つだけだった。









 止まらないと思った涙は、いつの間にか止まっていて。
 立ち上がれないまま、僕はじっと見つめていた。由の背中の向こう側にたたずむ綺麗な夕日を、じっと見つめていた。











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