朝起きて、学校でやるべきことをやってから家に帰る。
 それをごく普通の学生が送る生活というのならば、僕は間違いなくごく普通の学生だった。

















 卓球部所属で、完全下校時間ギリギリまで練習に明け暮れる。どこの運動部でも同じことだけど。



 帰るころには日も沈みかけていて、空一面は紅く、そして瞬く間に夜へと向かって暗くなってゆく。



 僕の通る帰り道に、それをずっと眺めてる女の子がいた。









 僕は高校に上がって半年ほどになるのだが、家から高校までの道のりにおいて、太陽が見える夕暮れ時に、彼女は必ず姿を見せていた。



 理由は知らない。僕の中の普通の学生生活において、それだけが異質なものとなっていた。









 彼女は夕日を眺めている。僕はそれを見かけるが、彼女がいつの時間からそれを眺め、いつの時間にその場所を立ち去るのかは知らない。
 もっと言えば、彼女がいつの日からそこで夕日を眺めているのか、僕は知らない。







 夕暮れ時とは言っても直に見るにはつらい太陽を、彼女は人形のように静止したまま、ただじっと見つめている、ように僕には見えた。
 僕にしてみれば、通りがかりの数秒、しかも遠巻きに後ろ姿を見るだけの、ほんのわずかな出来事。



 だけど、僕は気になった。




























 自分で自分のことを説明しろと言われても、僕はおそらくちゃんとした答えを返すことはできないだろう。

 何をやるにしたって、周りに合わせる。他の人に合わせる。『普通』に合わせる。



 僕自身、周りの流れから外れるのが怖くて嫌だし、周りも『普通』であれと言ってくる。
 僕が卓球部にいるのは、別に卓球が好きなわけではなく、高校のほうが生徒にどこかの部活に入るように義務付けているからだ。
 (文化部じゃないのは、親がしつこく運動部に入れと迫ってきたから)



 個性を育めと学校は言うが、そんなものは建前にしかならなかった。みんな、『普通』と違おうとすることを恐れた。僕も。



 僕は『普通』の人間として生きている。『普通』だから、今のところ何の問題もなく僕は生きている。



 けれど、満たされない何かが僕の中にあった、ようにいつからか思っていた。
 『普通』だから、日常が淡白でつまらないもののように見えるのかな、と思うことが多くなった。

 でも、『普通』だから、誰にも嫌われずに生きていけてるんだ、とも思っていた。
 『普通』の安全さに安心して、日常がつまらないことも仕方ないものと思った。















 僕は『普通』の人間だ。少なくとも僕はそう信じている。彼女のことが気になったのは、だからかもしれない。





 彼女は明らかに『普通』じゃなかった。





















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