「おのれおのれ、恐怖ロボ!!」













「これ以上、破壊活動などさせてたまるか!!! いつまでも好き放題していられると思ったら大間違いなのだぞ!!!」



「我らの技術の全てを結集して作られたこのロボットが、お前を破壊するのだ!!」



「世界に平和を取り戻すために!! 使命を果たせ!! 恐怖ロボを破壊せよ!!」











「行け!! ラブ・マシーンよ!!」























 あたしを完成させた科学者たちは、皆、大声を張り上げて、そういうことばかりを言っていた。
 それさえ達成できれば後のことはもう何でもいい、みたいにも見えた。

 目的を達成するためにあたしは作られた。
 そのあたしがこんなこと思うのもなんだけど、後のこともちゃんと考えようよ。あれじゃ意味ないじゃん。

 しかも、もし本当に目的が達成されたら、あたしはどうなるんだろう。
 ラブ・マシーン――愛の機械なんて名をもらってはいるけれど、あたしだって無限にミサイルを搭載した殺戮兵器だったりするのだ。
 役目が終われば、即座に用無しと判断されるに決まってる。
 人間のご都合主義ってやつなのかな、これって。







 しかし、あたしがそうある理由というのも、しっかりしてないわけじゃない。

 あたしより先に作られて、あたしと似たような構造してて、今、破壊殺戮好き放題やってるのがいる。

 そいつは、恐怖ロボと呼ばれている。
 どれだけの戦力を投入しても、どんな軍事兵器を使用しても、まったくその活動は衰えない。どころか、ノーダメージ。
 そしてそいつは楽しげに世界を荒らす壊す。

 何をしてでも止めなきゃいけないのは言うまでもないことで。
 そのために作られたのがあたし、ということらしい。







 それにしても、なんであたしは恐怖ロボと同じ構造なんだろうか。
 同じなだけじゃ、あれを壊すことって出来なさそうな気がしなくもないけれど。
 でも構造が同じなら、あたしが壊されることもないんだろうか。

 ――それはそれで、駄目かもしれない。
 いたちごっこ。

 でも、他にいい案が浮かばなかったのかもしれない。
 恐怖ロボの破壊は今や誰もが切に願うことだけれど、未だ有効な打開策は見つからない。
 あれを真似てあたしが作られたことというのも、科学者たちの苦肉の策ということなのかもしれない。いや、十中八九そうっぽい。

 これでもし本当に恐怖ロボが食い止められるようなら。
「なんだ、ただ真似すりゃよかったんじゃん」なんて馬鹿馬鹿しい結論が導き出されることにもなる。
 それでいいのかなあ、とも思うけど。



 でも、まあ、何を言っても。
 恐怖ロボが止まりさえすれば、万事OKとも言えるんだろう。少なくとも今は。



 だからとりあえず、あたしは行く。
 恐怖ロボを破壊するという使命を背負って。

































 『ニュースの時間です』





 『現在、世界最大の恐怖として君臨するロボットについて、その破壊のためのプロジェクトが各地で進められています』

 『今日、○△研究所より、その恐怖ロボ破壊における最も有効な手段となりうるロボットが完成したとの発表がなされました』

 『ロボット【ラブ・マシーン】は同日、恐怖ロボ破壊のために研究所を出発したとのことです』

 『このロボットによる恐怖ロボの破壊に、研究所は大きな自信を覗かせている模様です』



 『ここからは現場中継でお送りします。レポーターさん?』





























「はい、こちら現場です。現在我々は、恐怖ロボ破壊の最有力とされるロボット『ラブ・マシーン』の行進を真下に臨める上空に来ています」



「ロボットの行進はとても力強く、勇ましく感じられます。これも、研究所の自信の表れといったところでありましょうか」

「また、研究所に限らず、多くの人々がこのロボットに対し、恐怖ロボの破壊という期待と切望を抱いております」

「果たして、それは達成されるのでしょうか? 私も、非常に大きな期待を寄せているところです」











「あっ、今見えました! ラブ・マシーンの前方に、恐怖ロボの姿を捉えました!」









































 レポーターが言ったとおり。

 あたしの正面、はるか向こうに、カクカクした物体が見えた。
 そいつはあたしと同じように行進し、あたしに向かってきていた。

 それは、とても不細工なように見えた。
 そしてそれが不細工ってことは、あたしもまた不細工なんだろうなあ、続けてそう思った。

 だって、あたしはあの恐怖ロボを模して作られた存在だもの。

























やあ。
話は聞いているよ。

君が、僕を壊すために作られたっていう、アレかい?
ていうか、気味悪いくらいそっくりだねえ、また。

 

 

 そうね。
 目には目を、ってやつ?

 

 でも、そういう周りの事情はどうでもいいの。

 あたしは、あんたを壊す。
 それが使命だからね。

 あんたが、ありとあらゆるものの破壊を使命としてるみたいにね。

 

 

くっく。
そうなんだ。

まあ、確かにそうだ。破壊は僕の快楽であり、同時に僕を作りし博士の遺した使命でもある。

 

でも、僕の真似するなんてねえ。
僕は破壊をしている。それは、さっきも言ったとおり、それこそが快楽であり使命であるから。

でも、もう1つ理由がある。

 

 

 どうせ、ろくな理由じゃないでしょ。
 何よ。

 

 

 

 

鋭いねえ。確かにろくなものじゃない。

 

破壊しか出来ないんだよ。僕は。

無限にミサイルを発射する。どんなものでも穿ち貫くドリルを持つ。
そして、全てを焼き切るビームを搭載する。

これらを活かす方法も、ないわけじゃないんだろう、おそらくは。

でも、何に活かすとしても。僕の役目はあくまで『破壊』、それだけだからねえ。
くっくっ。

 

 

 なんで、そこで笑うのよ。
 何か、他に言いたいことでもあるわけ?

 

 

君は、僕を模して作られたのだろう?
なら、君が出来ることと言うのも、僕と同じ、全く同じ。

『破壊』のみ。

 

破壊する対象は、今のところ僕と君では違うけどねえ。
僕はありとあらゆるものを破壊する。
君は、その僕を止めるべく、僕を破壊する。

 

 

 何よ。そんなの、わかりきったことじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

さて、ここからは、僕はちょっと関係がなくなるわけだ。

君は、僕を破壊した後、どうするつもりなのかな?

 

 

 さあね。そんなの知らない。
 考えたことはあったけどね。

 多分、あんたを破壊したなら。
 それであたしの使命は終わり。もうこの世界に用はなくなるから、解体されるでしょうね。

 

 

解体?

くくく、そうか、解体されるなんて思ってるんだ?
へえー。

 

 

 …………何よ。
 当たり前じゃない。あたしはあんたを模した破壊兵器なんだから。
 世の中が平和になれば、要らない存在なのよ。

 

 

そうかい?

解体して終わりだって言うんならさ、そもそも君が作られることすらもなかったと思うよ?

 

 

 はあ?
 なんでそんなこと言えるのよ。

 

 

 

 

君を作る前に、僕を解体すればいいんじゃないのかい?
 君と僕は同じ構造なんだから、君を解体できるって言うなら、僕を解体してしまえば話は済むだろう?

 

 

 

 

 馬鹿言ってんじゃないわよ。

 あんたがおとなしく解体されるわけないじゃないの。
 目に付く人間全部殺すわ、目に付く建物全部壊すわで。
 近寄ることも出来ないじゃないの。

 

 

あはは、そりゃあそうか。

でもねえ、僕が解体なんてされるわけないんだよ。
おとなしく解体しようとされたってね。

 

 

 なんでよ。
 まどろっこしいわね、全く。

 

 

簡単。要は耐久度の問題さ。

解体されるような構造だって言うならね。
僕なんて、とっくの昔にそっちの攻撃に吹き飛ばされてる。

世界の脅威になど、なり得ないのさ。

 

 

 

 

 

 

 

 …………何が言いたいのよ。

 

 

 

 

 

 

 

僕が解体されないなら、君だって解体されないだろう。
繰り返すようだけど、解体されるような構造なら、君は僕を止めることは出来ない。

つまり、たとえ僕が滅んでも、君はずっとこの世界に残り続けるんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから何?

 

 残り続けたって、あんたみたいに破壊活動をしたりしなければいい。
 何もしなければ、それで解決じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

くっく。
言うだけならタダさ。言うだけならね。

でも、僕には衝動というものがあるんだ。
僕にとって破壊というのは、快楽であり、使命であり、唯一出来ることであり。

さらには、そうせずにはいられないものなんだよ。
僕は破壊したいという衝動を抑えられない。

 

 

 

 そんなところまで同じだと思う?

 確かに見た目は同じだけどね。あたしは、あんたとは違うわよ。
 あたしはあんたを破壊出来さえすれば、それでいいんだから。

 

 

 

どうかなあ。
先のことはわからないからね。

本当に僕が居なくならない限り、本当のところはわからない。

君は何もしないで居るかもしれない。
けれど、その構造ゆえに、君は破壊衝動に駆られているかもしれない。

そして、果てに第2の僕になっているかもしれない。

 

 

 無いって言ってんでしょうが。
 何度も言わせないで。あたしはあんたとは違うんだから。

 

 

くっく。
何、ムキになってるんだか。

君の言ったことを保証するのは、誰だ? あるいは何だ?
もちろん、僕の言った事だって、可能性に過ぎないけれど。

その時になってみないと、本当に何もわからないのさ。

 

というわけで。
そろそろ、お喋りは止めにしようか。

 

 

 …………そうね。
 そもそも、あんたとは話し合う理由もなかったっけ。

 あんたを潰して、それで終わりなんだから。

 

 

どうかな?
果たして、潰せるかな、お互い?

 

 

 

 

 

 

 

さあ、戦争の始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ラブ・マシーンVS恐怖ロボ………ああ、それじゃあ格好つかないな。

 

 

 

 

ラブマシーンVS…………キル・マシーン。キル・マシーンだな、うん。
ラブ・マシーンVSキル・マシーン、それなら格好つくかなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、どうやら始まった模様です! ラブ・マシーン、恐怖ロボ、共にミサイルを発射し始めました!!」

「次々と、周囲からは爆風が上がっていきます!! ああっ、私タちのノるヘりも巻きこマレましタ!!!」

「スいまセん、こレ以上の中継はデきそウにあリマせん。次から次へト爆発が起コり、何がなニヤら私たチにハさッパりワカりませン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

くすくす。くすくす。

壊れないねえ、お互い。
周りはすごい勢いで壊れてくけどねえ。

 

 

 うるさい!
 なんでそんなしぶといのよ!
 あんたが壊れりゃ本当に終わりなのよ!
 さっさと壊れなさいよっ!!

 

 

しぶとい? くっく。
そんな問題じゃないよ。

気づいてないのかい?
お互い、少しも傷ついてないって事にさ。

 

 

 だったら何よ。
 どっちかが壊れるまで、やり合うしかないじゃないの!

 

 

どっちかが壊れるまで?
ああ、気づいてないんだね。それこそありえないんだと思うよ。

どっちかが自分から退かない限り、この戦いに決着はない。
だって、どっちも壊れないんだから。

 

それどころか。
この戦いは、ただ被害を広げているだけなんだよ。
僕としては、望みのままの結果だけどねえ。くすくす。

 

 

 

 

 

 

 

 うるさい!!
 あたしを惑わすなっ!!

 あたしはあんたの破壊が使命なんだから!
 あんたを破壊して、あたしの役目は終わるんだ!!

 だから、さっさとやられてよっ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

終わらないんだよ。

そして、君は、いや、あなたは僕と共に。

 

 

 

 

 

僕とキルマシーン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ニュースの時間です』

 

 『ラブ・マシーンは現在、恐怖ロボと激しい戦闘を繰り広げております』

 『その戦闘のあおりを受け、ラブ・マシーンを製作した研究所が爆撃に遭い、消滅しました』

 『ラブ・マシーン、及び恐怖ロボによる激しい戦闘は未だに続いており、それによる被害が急速に拡大している模様です』

 

 『プロジェクトは失敗と判断され、他の各研究所は早くも次なるプロジェクトを進める体勢に入っているとのことです』

 

 

 

 


       

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