今日も今日とて人殺し。







 今日も今日とて破壊活動。



























 僕の目の前で。あるいは僕の知らないどこか遠くで。







 ドリルを突っ込まれて死ぬ人がいたり、ミサイル着弾で吹っ飛ぶ建物があったりする。



























 それは僕にとって使命であり、一番楽しいことなのだ。







 前からさんざん言ってる通り、僕はそうプログラムされていて、破壊すること、殺すことを、使命として、楽しく感じるようになっているのだから。



























 けれど、楽しいだけかといえばそうでもなく。







 不快だってある。それはいつからか始まり、やがて僕にとって耳障りなものとなっていた。







































 『えー、こちら現場です。今、私はヘリコプターに乗り、真正面に恐怖ロボを望める位置に来ています』





 『恐怖ロボは起動してから現在に至るまで、世界中の軍の総攻撃を受けても傷一つ負うことなく、そのほとんどを返り討ちとしています』





 『そして恐怖ロボは軍だけに飽き足らず、昨日も今日もありとあらゆるものを破壊し、また人々を間近に捉えてはドリルをうならせて虐殺にかかっています』















 ――――うるさい。





 僕は真正面にミサイルを放つ。











 狙い通り、そのミサイルは僕の真正面のヘリを吹き飛ばし、レポーターを爆砕する。



















 しかし。























 『あア、何と言うこトでしょうカ!!! たっタ今、恐怖ロボかラミさいルが発射されマシた!! 私ノ乗るヘリを爆砕していキマした!!!!』





 『残骸ガなス術モなク落下しテユきまス!!! 私ノ肉片も同時にナす術もナく落下シていっテイます!!!』















 声は止まない。





 うるさいから爆砕したのに、止まない。













 同じ方向にもう一発、ミサイルを撃つ。





 何かに着弾。爆発音。どかーんと。



















 『あアあ!!! 恐怖ロボが再ビみサイるヲ発射しました!! 今度ハ私の頭ニ命中、脳みそモ残ラず木ッ端微塵とナってシまイましタ!!!!』





 『まサに恐怖ロボといウ名を冠すルにふさワしク、所構わズみさイルを乱射すル様相ハ恐怖ノ無差別殺戮機械そノモのでス!!!!』















 ―――うるさい。すごいうるさい。





 脳みそ吹っ飛んだって自分で言ってるのに、それでも声は止まない。













 しつこい。





 なんであのレポーターは喋るのをやめないんだろう。





 僕にはうざったいだけのもの。不快なもの。



















 消し去りたい。



















 僕は最後の手段に出ることにした。

























 光れ。































 『大変デす!! 大変でス!!! 恐怖ロボがタッた今、かツテ軍用ヘリこぷター数十機ヲ一瞬ニして葬り去っタ、あのビームを放チマした!!!』





 『私ノ身体モ、とウトう落下しユク肉片スら残ラず消し飛ンデしまッタのデありマす!!!!!!』















 『えー、すタジおサん、聞コエマすカ? 私、先程ミサいるノ直撃ヲ受ケましテかラ、上手ク舌が回ラなイヨうナのでアります。少シ、眩暈モ感ジていマす』



















 ――肉片すら残らないって言ってるのに、舌が回らないとか、眩暈がするとか、無茶苦茶だ。





 まあ、無茶苦茶さと言えば、僕も人のことなんか言えやしないんだけれど。





















 結局、声は止まないでいる。





 僕がそれを耳障りだと思うことは変わらないまま。



























「あの声はあなたが何をしても、止まないのよ」











 ああ、この声は不快じゃない。彼女の声だ。

















 やっぱり、止まないんだね。僕は彼女にそう返す。





 無意識ではあるけれど、僕は心のどこかで予見していたらしい。

















 耳障りなあのレポーターの声が、止まないことを。

























 でも、耳障りなだけなんだ。僕にとっては、あの声は。





 喋り方はせわしないし、いくら肉体を潰しても、変わらないハイテンションで聞こえ続ける。























「いいじゃない。パレードに中継はつきものなのよ」

























 ――――ああ、そういえば。











 忘れていた。今、行われているのは僕による、可能な限りの虐殺、破壊。











 それを君はこう呼んでいたんだったっけか。

























 ――――『Electronic Parade』と。























「だった、じゃないわ。今もそう思ってる」













 ――――、失敬。そうだね。





















「私は好きよ、あのレポーターさん。あなたを映し、伝える人だもの。あのくらい、しつこい方がちょうどいいと思うの」









 へえ、そうなのか。君はそう考えているのか。



























 確かにそうだ。彼女の言うことは通るだろう。





























 僕は何もかもを破壊する存在。何もかもを殺す存在。













 そんな存在を中継するとなれば、何が起こっても、ただただ喋り続けるだけのものでないと、到底務まりっこないのだろう。

























「そう。そういうことなのよ」









 彼女は僕を納得させるようにそう言った後、笑った。つつましやかそうに笑う声が聞こえたから、笑ったとわかる。















 ――なぜか、彼女の言葉は心強く、信憑性も高く。





 彼女の言葉に僕は、心の隅々まで納得した。

































 けれど、変わらないのは。前と全く変わっちゃいないのは。

























 やっぱり、あのレポーターのせわしない喋りは、僕には耳障りなものだということだった。



































 でも、それがパレードを盛り上げる要素の1つだと言うなら、それはそれで構わない。











 そして、そのパレードはもうしばらく続くのだ。僕はもうすぐ止まるけれど。止まるまでは、続くのだ。



































 『えー、何ヤら恐怖ロボは沈黙状態ニアるヨうですガ、あレは何ヲヤっていルノでしョうカ?』





 『シかしこチラにトッて好機とイうわケでモナいようデス。世界中の軍ノ軍事力を持っテシても、恐怖ロボにハソの攻撃ハ一切通用しテいナイのがソの証明デす』





















 『残念ナガら、恐怖ロボの恐怖の侵攻ハ今しバラく続ク模様でス』
















       

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