アルル (生) は生まるるなり, 無より有の生ずるなり. 是より語幹のアラ出でて新の義と爲る. アラヤ (新家), アラテ (新手), アラミ (新刄) のアラの如し. アラにタの添はりて, 形容形のアラタ (新) と爲り, アラタシキ, アラタナルと云ふ語生じ來る. アラタシキは古言にして, ラタを顛倒したるアタラシキと同義なり. アラタムル (改) はアラタにムルの添はりたる動詞にして, 基本義は新たにすることなり. 更に遣り返す, 調べ直す義と爲りて, 糺すといふ義に移る.
(大島『國語の語根と其の分類』150頁)
アル [有] は存在を表はし, 在の儘の義を示す. アルより出でたる語幹のアラは形容形と爲りて [...] アラタマ (粗玉), アラガネ (粗金) などの如く存在其儘にして人工を加へざる義と爲る. /次にアラは粗製にして人工を加ふることの精巧ならざる義に用ゐらる. アラカベ (粗壁), アラゴモ (粗薦), アラト (粗砥) の如し. 日常使用の雜品をアラモノと唱ふるは, 精巧なる美術品に對して言ふことなるべし. /アラは又單に細に對する粗の義に用ゐらる. アラガウシ (粗格子), アラグシ (粗櫛) の如し. アラレ (霰) は粒の大なる者にして, 雨や雪に對しては, 粗の義を表はすことなるべし. アラは更に粗略の義に轉ず. アラマシ (大略), アラヅモリ (概算) の如し. アラカジメは豫定の義なり. 文の末にアラアラカシコ (粗粗畏) などと記するアラは大略の義なり. /アラは更に粗惡の義と爲る. 人のアラは人の缺點, 魚のアラは魚の骨にて, 何れも良き部分を取り除きたる廢物に對して用ゐらる.
(大島『國語の語根と其の分類』147–148頁)
[...]「赤 (アか)」と「明 (アか) るい」等は,「ア」という共通の語根をもつ. その意味は,「黒 (クろ)」や「暗 (クら) い」という語根と対立していると言えば, 一目瞭然であろう. 明るくはっきり見える色が,「赤」であった.「アか」はすみずみまで明るくよく見える状態のことだから,「明らかになる (また道理や事情に明らかになって「諦める」)」という意味にもなる. さらにものが目に見える状態にあることなので, ものが「在る」ということ, つまり明るみの中にものが現出してくること, という意味にもなると考えられる (現象はドイツ語では, Erscheinungと言うが, Scheinは光の意味で, 日本語との共通性を探れる).「在る」は,「生 (なる)」から転じたとか, また「新 (あら)」に通じるとの諸説があるが, 一貫性のある思考に関連づけて説明できるので,「明」と共通するという説をとりたい.
(岡田勝明「言語の哲学と語源をめぐって」, 吉田金彦編『日本語の語源を学ぶ人のために』(世界思想社, 2006年) 247–248頁)