新潟県内企業と新会社法C
株式会社における役員(取締役・会計参与等)の責任と決算手続・内部統制
 
新潟大学・風間事務所弁護士 山田剛志
 
 はじめに
 先月は、風間事務所の顧問先企業が、株主提案による季節外れの株主総会を開催し、その対応に忙殺されていたため、1ヶ月お休みを頂き、お詫び致します。その概要は、もちろん詳細を記すことは不可能でですが、現在マスコミを賑わせている村上ファンドによる阪神鉄道の買収と株主提案の事例と基本的に同じである。私も商法の知識(4月中の総会)を使わせて頂いて、十分楽しませて頂いた(口が滑ったが、『十分勉強させて頂いた』)が、株式を公開するということの怖さが身にしみた体験でした。5月1日から会社法が施行され、取締役の選任だけでなく、解任も普通決議で足りることとなったため(会社法339条1項)、仮に村上ファンドが過半数をとれば、役員全て総入れ替えということになります。村上ファンドは投資ファンドであり、株の引き取りが狙いだとすれば、阪急が提示した公開買付による買い取り価格と村上ファンド側の提示額には、大幅な開きがあるが、今後どのような展開になるでしょうか。
 新潟県内企業について検討すると、株主総会については3月決算で5月若しくは6月に予定の企業の多いと思われるため、一般的な機関変更に伴う定款変更(取締役会や監査役の有無、営業年度ではなく事業年度となるなどの文言変更)や、特に公開会社である大企業(資本金が5億円以上でかつ株式に譲渡制限が付いていない会社)の場合買収防衛策(現在一般的なものは事前警告型と呼ばれる方法である。詳しくは次号で解説する)等の決議をとっておく必要があると思います。具体的な制度設計の選択を巡るアドバイスは、専門家の役割と思われるので、これからが先生方の腕の見せ所と思います。特に複雑で興味深い案件がありましたら、是非ご一報頂ければ幸甚である(笑)。
 本号は、会社法における役員の責任と決算について説明しますが、近年重要な判決が目白押しであり(上述の村上ファンドが保有する株の引き取りについても、本文で検討したい)、実務ではその内容もふまえて、対応策をとる必要がある。会社法では取締役の責任は過失責任化されて、責任が緩和されたとされているが、実際どうなのでしょうか。またコンプライアンス(法令遵守)や内部統制等、近時重要になってきた事柄に関しても、併せて検討し、同時に監査役や、最近不祥事が続いた監査法人の責任についても、検討したいと思います。
(本稿に関する問い合わせは、風間士郎法律事務所、もしくは yamada@jura.niigata-u.ac.jpまでご連絡頂けると幸いです)。
 
  (目次)
1、新しい会社制度と設立時規制の緩和
2、中小企業における機関設計と登記事項
3、中小企業における株式制度の変更と社債(前号)
4、株式会社における役員(取締役・会計参与)の責任と決算手続・内部統制(本号)
5、企業再編と買収(次号)
 
4、株式会社における役員(取締役・会計参与等)の責任と決算手続・内部統制
(1)役員の選任及び任期は変更されたか
 @取締役
 本連載第2回でも説明したとおり、会社法では当該企業の実態に合わせ、不必要な機関の置く必要がなく、取締役会や代表取締役又は監査役等は、強制設置する必要はありません。取締役及び株主総会のみ設置されている株式会社も多くなると思います(機関設計については、第2回を参照のこと)。なお平成18年5月10日に法務省による職権登記で、今までの機関がそのまま生きていますので、何もしなければ株券発行会社で、取締役会及び監査役設置会社として登記されています。もし58年以前の会社で譲渡制限が付いていないと、公開会社となりますので、注意が必要です。私もある会社から相談を受けたのですが、新発田の中小企業が公開会社でかつ取締役会・監査役設置会社となっており、驚きました。その後会社法対応として、事業譲渡対策とともに、株主総会指導を行いました。
 代表取締役及び取締役会を設置しない場合、取締役は各自業務執行を行い、会社を代表します。もし複数の取締役が設置されている場合には、業務執行の意思決定は取締役の過半数をもって決定されます(同2項)。取締役会を置かない場合でも、取締役の互選又は株主総会の決議により、代表取締役を設置することができます。代表取締役をおかない場合には、肩書として、取締役社長というのが正式名称となります。
 役員の資格について、大きな変更がありました。家族経営のような中小企業の場合、取締役の資格を定款の規定により、株主に限定したり、いったん事業に失敗して破産しても取締役の欠格事由から「破産して復権を得ないもの」が外されたので、もう一度事業を興して取締役に就任することも可能となりました。しかしライブドア事件のように証券取引法(現在国会で改正法として金融商品取引法が議論されている)や倒産法制に関連して罪を犯したものは、罰金刑であっても、執行猶予中及び刑の執行がおわり2年を経過しないと取締役となることはできないとされました。
 これまで取締役の任期は、個人商店であっても株式会社形態を選択すると、取締役に関しては2年おき、監査役に関しては4年おきに選任及び登記をしなければならず、その登記費用が嵩むという指摘があったため、実質有限会社のような株式譲渡制限会社では、取締役及び監査役の任期を最大10年とすることができます。序文で村上ファンドの例に関連して述べたましたが、取締役及び監査役等の選任・解任については、定足数は定款をもっても議決権の総数の3分の1未満とすることができず、決議の要件は選任・解任ともに原則普通決議とされました(会社法341条)。しかし累積投票により選任された取締役や監査役は、少数派株主の保護及び監査役の独立性の確保の観点から、解任の要件は特別決議とされています。
 また従来の商法に規定されていた重要財産委員会制度が廃止され、代わりに特別取締役制度が導入されました。取締役会設置会社が一定の要件を満たしている場合、重要財産の処分・多額の借財について、大企業の常務会のように、予め選任した3名以上の特別取締役だけで決議することができるという制度です。
 
 A監査役・会計参与・会計監査人
 前述のように、監査役は任意設置となったので、今後中小株式会社では定款変更により監査役を廃止することが多いでしょう。あえて監査役を設置する場合、会社法ではこれまで以上に責任が重くなっており、監査役の業務は原則、会計監査だけでなく、小会社でも監査役の権限は業務監査にも及ぶとされました。もちろん株式譲渡制限会社では、定款の定めにより、監査役の権限を会計監査に限ることも可能です。先生方で監査役を兼務されている方は、会社法施行以後は業務監査権があるので、取締役の業務まで監査する必要があり、その責任は格段に重くなるため、定款変更が必要でしょう(笑)。
 一方監査役を置かなくとも、中小企業では会計参与を置いてもかまいません。会計参与とは、取締役と共同して計算書類等を作成するものとされています。会計参与には公認会計士又は税理士若しくは監査法人等でなければ、就任できません。もちろん従業員が1−10名程度の企業でも、顧問税理士はいますが、外部の機関であり、その基本は税務会計であるので、会社の実態を正しく反映しているとはいえないとされてきました。そのような場合、会社の内部機関として税理士等が計算書類の作成に関与することにより、より信頼性のある計算書類が作られる、というのが税理士会の主張です(笑)。なお中小企業の会計に関し、日本税理士会、公認会計士協会などが「中小企業の会計に関する指針」を公表して、会計基準の統一化が図られています。
 2006年5月15日付『日本経済新聞』によると、三菱東京UFJ銀行や中央三井信託銀行が会計参与を導入した中小企業を対象に、経営者の個人保証を免除したり、金利を優遇したりする措置をとるという。これなどは、まさに会計参与制度の立法趣旨に合致するものといえよう。このように会計参与制度は、中小企業の計算書類の適正性の確保に役立つでしょう。会計参与を選任するには、定款変更の上、株主総会の決議が必要です。顧問税理士を会計参与に選任することも可能ですが、後述するように会計参与の経営責任も大きいので、職務の独立性に注意が必要です。
 現在は中小企業であるが、数年後に株式公開を目指すなど、必要がある場合には中小企業でも会計監査人を設置することも可能です。会計監査人は公認会計士や監査法人でなければならず、会計監査人を設置するということは、会計の専門家である監査法人により計算書類の監査が行われるため、信頼性が飛躍的に高まるとされています。その場合会計参与の選任も可能だが、兼任はできません。
 カネボウの粉飾決算に加担したとして中央青山監査法人が業務停止命令を受け、監査業務については欠格事由にあたるため、別の監査法人を選任する必要があります。会計監査人は、株主総会で選任される必要があり、その際監査役の同意が必要です。
 
(2)役員の責任と代表訴訟
 みてきたように、株式会社には取締役や監査役等の役員がいましたが、不祥事等がおきた場合役員の責任は会社法ではどのようなものとなったでしょうか。役員等が会社や第三者に損害を与えた場合、任務懈怠責任として会社に対し賠償責任を負います。また役員等が悪意又は重過失により第三者に損害を与えたときは、第三者に対して賠償責任を負います。本条は会社倒産の場合取締役の個人責任を追及するため、利用されていますが、その傾向は続くでしょう。
 取締役は会社との間で善管注意義務及び忠実義務を負います。取締役が、違法配当、利益供与、利益相反取引及び法令定款違反等により、会社に対し任務懈怠に基づき損害を与えた場合には、連帯して損害賠償責任を負わなければなりません。会社法では、これまで無過失責任とされていた違法配当・利益供与及び利益相反取引に関しても、原則任務懈怠(過失責任)となりました。しかし無過失の立証責任は取締役側にありますので、負担は変わりません。また自ら利益供与をした場合、自己のために利益相反取引をした場合には無過失責任となるので、結局それほど変更があったわけではありません。
 取締役が違法行為をした場合、法令定款違反として責任を追及されますが、旧商法266条1項5号にいう「法令・定款違反」に関し、概括的に判例を分析すると大きく、@具体的法令違反とA善管忠実義務違反に区別され、AにはB経営判断型とC監視義務違反型があり、監視義務の対象には、部下の不正行為などの監視義務とD内部統制に関するものに分類できます。
 会社法では、社外取締役・社外監査役・会計参与・会計監査人は善意無重過失の場合定款で定めた賠償額の上限と2年分の報酬のどちらか高い方を上限として、責任限定契約を締結することが可能です(会社法427条)。しかし第三者に対する責任(会社法429条)には、これら責任免除の制度はありません。
 
 図@旧商法266条1項5号を巡る取締役の注意義務違反類型
 
           @具体的法令違反             B経営判断型
 
 
  法令定款違反                       C監視義務違反型 (旧商法266条    A善管・忠実義務違反
  1項5号)    (会社法330条、          
            355条)               Dその他(内部統制
                               構築義務違反他)
 具体的法令違反に関し、野村證券損失補填事件最高裁判決は、「損失補填行為を行った証券会社の取締役について、当時その行為が独占禁止法に違反するとの認識を有するに至らなかったことにはやむを得ない事情があったというべきであって、右認識を欠いたことにつき過失があったとすることができない」として、最高裁は具体的な法令違反の行為が商法266条1項5号にいう「法令」に該当するか否かに関し、過失責任であると判断しています。このようにみてくると、巷では会社法になって取締役の責任が軽減されたような印象がありますが、実際にはほとんど変化はありません。むしろみてきたいように判例上取締役に厳しい判決が続き、上記の野村證券事件判決が変更され、取締役の法令遵守が厳しく問われています。例えば利益供与に関し、本年4月10日最高裁は「蛇の目ミシン工業」事件判決において、仕手グループ光進による脅迫に対し、利益供与したことが取締役の過失にあたるとして旧経営陣に賠償責任を認めました。光進の元代表は株の買い占めを通じ、蛇の目ミシン取締役に就任し、株の高値買取などを強硬に求めたという事案で、株式の時価より高い値段での買取請求に応じることは取締役の善管注意義務違反となる。序文で取り上げた村上ファンドの事例に当てはめると、もし阪急側が村上ファンドの保有する株式のみ時価より高い値段で引き取ると阪急・阪神の取締役の善管注意義務違反となり、株主代表訴訟では敗訴する危険性が高いと思われます。
 株主代表訴訟に関しては制度の改正が図られ、責任追及訴訟を提起した株主が訴訟継続中に、株式交換や合併等で株主たる地位を失った場合にも、原告適格を失わないことが規定されました。また会社が株主からの提訴請求に対し責任追及訴訟を提起しない場合には、不提訴理由を書面で通知しなければなりません。しかし一方では濫訴防止のため責任追及訴訟が当該株主若しくは第三者の不正な利益を図ったり当該株式会社に損害を加えることを目的とする場合には、責任追及訴訟は提起できないこととなりました。 
 会社法では、取締役や監査役だけでなく、会計参与や会計監査人に対しても株主代表訴訟を起こすことが認められました。従って監査法人などが粉飾決算を過失により見つけられなかった場合、株主代表訴訟により責任追及されることが可能となりました。
 しかしこれでは責任が重すぎるため、社外取締役や会計監査人は責任の一部免除(会社法425条)や責任限定契約の締結を認めた(会社法427条)。先生方が就任されている社外監査役に関しても、責任限定契約が可能であり、特に定款変更しないと業務監査まで監査役の権限が及ぶので、是非責任限定契約を締結することをお勧めします(詳しくは個別にご相談を!?)。
 
(3)決算と内部統制
 会社法上の決算手続に関しても大きな変更点があったが、法律実務としてはあまり関連しないと思われるますので、用語の説明のみにとどめ、最後に内部統制についてその意味を説明したいと思います。
 @決算手続の変更
 株式会社は事業年度ごとに財産の状況及び損益の状況を明らかにするために計算書類を作成し、株主の承認を得て、公告します。この一連の手続が決算ですが、「計算書類」とは貸借対照表、損益計算書、その他資本の分の変動を示す株主持分変動計算書等を指すと会社法で明文で規定されました(会社法435条2項)。会社法では、従来利益処分案により決議してきた事項を、剰余金の配当、資本の部の係数の変動、役員賞与の手続に分けて、これらの手続を決算の確定と切り離したため、利益処分案にかかる規定は会社法上特に規定する必要はなくなりました。またこれまでの営業報告書も「計算書類」には含まれずに、名称も事業報告となりました。余談ですが、今年の新司法試験論文式の問題は、事業譲渡(これまでの用語は営業譲渡)に関する出題で、かなりの学生が面食らったようです。
 更に会社法上は会社はいつでも株主総会の決議で剰余金の配当を決定でき、資本の部の係数の変動ができるため、株主持分の変動を示す計算書として法務省令で株主持分変動計算書が規定されました。剰余金の配当に関し期中に何度も配当が可能となるなど規制は緩和されましたが、会社の純資産額が300万円を下回った場合には株主に分配することは不可能となりました。 もしこの規制に反して剰余金の配当が行われた場合には、金銭の交付を受けたもの、分配に関する職務の執行を行った取締役等は、特別の弁済責任を負うことになります。この責任は特別の弁済責任であるので、一部免除等の対象にはなりません。
 A内部統制
 最近コーポレートガバナンスという用語に代わり、会計学から流行してきた用語が「内部統制」です。資本金が5億円以上の大会社でかつ取締役会を設置している会社では、内部統制の構築義務があります。内部統制とは、規模がある程度以上の会社において、健全な会社経営のために会社が営む事業の種類及びリスクに応じたリスク管理体制を採る必要があることとされました。この体制を内部統制システムと呼びます。内部統制システムの目的は、経営の適正性の確保と取締役の免責とされています。経営の適正性とは、効率的な経営体制を確保することと、法令遵守体制を作ることです。昨年行われた新司法試験のプレテストにおいては、過去に行員による預金を巡る不正行為があった銀行で、また別の行員による同じような不正行為がおきてしまった事例で、不正行為の被害者は、会社の使用者責任(民法715条)だけでなく、直接内部統制構築義務違反を理由に会社法429条により、賠償責任を追及するという問題が出題されました(法務省のHPに問題がアップロードされている)。
 
 図A 内部統制構築義務とその法的効果
 
つまり内部統制構築義務とは、非常に非効率的な経営が行われていたり、同じような不祥事を繰り返している会社で有効な対策をとれない取締役は、会社や被害者に直接損害賠償責任を負うことを意味します。会社法では、内部統制システムを取締役会が整備し、会社法施行後の最初の取締役会で基本方針を整備し、2007年度の事業報告でその内容を説明しなければならない、としています。

Copyright(C) 2006 Kazama Law Office. All Rights  風間法律事務所