新潟県内企業と新会社法B
〜中小企業における株式制度の変更と社債
 
新潟大学・風間事務所 山田剛志
 
 はじめに
 いよいよ来月から会社法が施行されます。今回は連載第3回ということで、株式に焦点を当てて説明します。とくに譲渡制限会社または公開会社制度の変更点に関し、本稿は引き続き中小企業の観点から、新会社法を説明したいと思います。今回は、やや難しいので、ご了解いただきたいと思います(笑)。また中小企業の観点から、外部者が経営に参加しないような仕組みを会社法はどのように考えているのか、6月総会の際に定款変更すべき事項は何か、説明したいと思います。今回の内容を一言で言うと、「株主平等の原則」がどのように変化したか、です。前回と同じく今回も、解説であるので、つい不要なことも書いている部分があるが、お許し頂ければ幸いです(本稿に関する問い合わせは、風間士郎法律事務所228−1231、もしくは yamada@jura.niigata-u.ac.jpまでご連絡頂けると幸いです)。
 
  (目次)
1、新しい会社制度と設立時規制の緩和
2、中小企業における機関設計と登記事項(前号)
3、中小企業における株式制度の変更と社債(本号)
4、株式会社における役員(取締役・会計参与)の責任と決算手続・内部統制(以下次号)
5、企業再編と買収
 
3、中小企業における株式制度の変更
(1)譲渡制限会社の定義はどのように変わったか
 これまで、株式譲渡制限会社とは、株式譲渡に際し取締役会の承認を必要とする閉鎖会社を意味していました。しかし第1回で説明したように、会社法により有限会社が廃止され、有限会社は株式会社に一本化されました。しかしその内容は、実質的に有限会社であるような株式会社に対し、現在の有限会社と同じような簡易な規制にするため、これまでとは別の「株式譲渡制限会社」の制度を設けた。すなわち、会社法では株式譲渡制限会社とは、「@全ての株式の譲渡を、A会社の承認を必要とする旨の定めを、B定款に規定している会社」をいいます。第2回で説明したとおり、株式譲渡制限会社では、取締役会及び監査役を置かなくてもよいことになり、最小では取締役を1名及び株主総会だけの会社も可能となりました。会社の承認とは、株式を譲渡する際に、取締役会が承認するという意味ですが、もしその会社が取締役会を設置していないときは、その承認は株主総会が行うことになります。このようにして部外者が会社の株主となることを防ぐことができます。なおこれまで譲渡制限がなかった会社が、譲渡制限を定款に置く場合には、特殊決議(過半数の株主出席、議決権の3分の2以上の賛成)が必要となります。
 譲渡制限に関し、最も大きな変更点は、発行している株式の一部のみに「譲渡制限」を付けてもよいことになりました。この場合、その会社は株式譲渡制限会社ではなく、会社法では、公開会社となります。つまり、会社法にいう公開会社とは、これまでの上場企業という意味ではなく、「一株でも株式に譲渡制限がついていない会社」という意味になりました。
 図@(公開会社と株式譲渡制限会社)
 
 譲渡制限に関しては、これまで以上にバリエーションが広がりました。例えば株主間の譲渡だけは、承認が不要とすることもできます。また後で述べますが、会社法ではこれまでなかったような種類の株式が認められていますが、例えば無議決権株式だけに譲渡制限を付けないで、議決権株式のみ承認を要する旨定款で定めることもできます。
 また株式譲渡制限会社では、特殊決議の上(議決権を有する株主の半数以上出席し、かつ議決権の4分の3以上の賛成がある場合)、定款に定めがある場合議決権の行使について、たとえば@1人1議決権としたり、A一定数以上の株式を有する株主の議決権を制限したり、配当についてもB頭割り配当といったことが可能となりました。これは株主平等(実際上は株式平等原則)原則の重大な例外といえましょう。先日アメリカの有名な会社法の教授に会った際、「株主平等の原則」について質問をしたところ、アメリカでは20年ほど前に実質的にその原則は放棄した、という答えが返ってきました。
 
 @株式譲渡制限と相続
 中小企業の譲渡制限株式に関し、問題となるのは、相続です。たとえば、推定相続人の中に会社にとって好ましくない人物がいる場合、会社経営にとって大きな問題となることが予想されます。
 図A 事業承継と新会社法
 
(設例)甲会社の社長兼株主であるAには、BCDの推定相続人がいる。現在Bは長男として会社を手伝っている。Aは、将来Bに会社を継がせたいが、その他にBと折り合いが悪く会社を辞めた次男のCと、遠隔地に嫁いだ娘Dがいる。Dの夫は過去に何度も事業に失敗しており、会社の仕事は関係させたくない。Aはどのような方法をとったらよいか。
 この問題に関し、もっとも有効な手段は、売渡請求です。定款に定めることにより、相続等があったことを知った日から1年以内に、株主総会で特別決議をして、売り渡し請求を行えば、価格を決定して、相続人に対し売り渡し請求を行うことができます。しかし支払う金額に上限がありまして、株主に支払う金銭は、その日の分配可能額を超えてはならないこととなりました。もし売買価格の決定ができない場合には、申立の日から20日以内に、裁判所に請求すれば、この方法は多額の資金を要するため、もし資金的に余裕がない場合、予めCDに相続される株式に制限を加えて、設例のCDの相続する株式について、議決権を制限したり、あるいは株主としてのCDについて議決権を定款で制限することができます。その結果、相続によっても、スムースな事業承継が可能となりました。なお議決権制限株式に関しては、これまでは発行済株式総数の2分の一までとされていたが、その制限がなくなりましたので、これまで以上に議決権制限株式の利用が広がるでしょう。
 
 A自己株式の取得
 中小企業において、会社が自社の株式を取得する場合(自己株式の取得または金庫株)、前もって必要事項を定時株主総会で決議しておかなければなりませんでした。このため必要なときに自己株式を取得することができませんでした。会社法では、自己株式取得の決議が臨時株主総会でもできるようになり、また譲渡人を指定しない方法も認められたため自己株式の取得が容易になりました。その場合、新しく譲渡人を指定せず、会社が自己株式を取得できる方法が新設されました。
 会社法では端株が原則廃止されて、単元株に統一されました。しかし端株も単元株式への転換は強制されずに、そのまま存続することもできますし、会社が買い取ることもできます。一単元の株式数についても、いままでは株主総会の特別決議が必要でしたが、単元数が株式分割により減少しない場合には、株主総会の決議はいりません。この点、額面×株式数=資本金といった昔の「資本と株式の関係」が完全になくなったため、自由な設計が可能となりました。 
 
(2)種類株式の発行と買収防衛策
 会社法では株主間の異なる需要を考慮し、剰余金の配当、議決権の行使等に関し株式毎に異なる対応を大幅に認めている。種類株式を発行するためには、その種類の内容及び株式数を定款に定め、登記をしなければならない(会社法108条2項)。商法上認められていた株式消却は、自己株式の消却の場面でのみ用いられる概念となった。
 
 @取得条項付種類株式と取得請求権付種類株式
 会社法では、償還株式(途中で会社が買い取る)が整理されて、新しく取得条項付株式と取得請求権付株式が認められました。取得請求権付株式とは、株主が会社に対しその株式の取得を請求することができる株式をいいます。また取得請求権付株式とは、逆に会社の方から会社が一定の事由が生じたことを条件として、当該株式を取得できる株式をいいます。例えば、取得請求権付株式は、株主から請求があれば、会社は当該株式を買い取る必要があり、株主からすると資金の余裕があるときのみ株式に出資し、資金の必要があるときは会社に対し買取請求を行うことができます。また取得条項付株式を用いると、例えば、「会社は、役職員に対して、会社に在籍中は株式を保有させるが、退社の際は会社から強制的に当該株式を買い取ることができる」などの例が可能となります。
 図B取得条項付種類株式と取得請求権付種類株式
 
 また全部取得条項付種類株式という制度も新たに作られました。全部取得条項付種類株式とは、2種類以上の株式を発行する会社において、当該会社がある種類の株式全てを株主総会の特別決議で取得できる制度です。例えばある企業が債務超過で倒産状態の場合に、新たにスポンサーを見つけ、100%減資を行うとき、この株式が使われます。100%減資の場合、これまでは株主全員の同意を必要とすると理解されてきたため、迅速な再生が図れず、民事再生法・会社更生法などの制度が使われてきました。しかし全部取得条項付種類株式により、1回の株主総会の特別決議により全部の株式の消却が可能となる。倒産状態にある会社では、取得対価は無償とされるでしょう。
 
 A拒否権付種類株式と譲渡制限
 現行法でも、1株に2議決権などの複数議決権や拒否権付株式(いわゆる黄金株)は、発行できます。しかし譲渡制限の対象を、すべての種類の株式としなければならず、使い勝手が悪いと批判されてきました。改正後は、一部の種類の株式だけの譲渡制限も可能です。ここでは、これまでの商法上の理解からは、理解不能な例を一つ説明したいと思います。
 図C 拒否権付種類株式と譲渡制限
 
 (設例)今、資本金1億円の公開会社であるA社は、支配権の争いが起きているとする。危機感を覚えたA社は特別決議で友好的企業に対し重要事項に対する拒否権を有する種類株式の発行を意図して、定款変更の上、1株の種類株式を発行した。その株式が相手側に渡るのを防ぐため、同時に当該株式に譲渡制限を付けた。
 この事例では、仮に相手方が株式を多数取得しても、取締役の解任などの株主総会の決議に対し、役員持株会は拒否権を行使することが可能となり、支配権の維持を図ることができます。これも株主平等原則には違反ししません。20年ほど前に商法を学習した理解では、このような設定は明らかに株主平等原則に違反して、無効であるが、このような理解は既に過去のものになってしまいました。
 
(3)社債の発行
 これまで社債の発行は、株式会社に限られていました。会社法では、特例有限会社、合名会社、合資会社及び合同会社でも社債の発行が可能となりました。少人数私募債は、利率が低く、長期に安定的に資金調達をすることができます。少人数私募とは、@社債権者が50名未満、A社債権者に適格機関投資家がいない、B社債総額を最低券面額で除した額が50未満(例えば最低券面額が100万円ならば、社債総額が5000万円となる)という条件を満たす社債です。私募債は債権であるので、会社は約束の期限に償還しなければならないので、株式投資より、出資者に安心感があります。社債の発行は、取締役(会)の決議で行い、募集金額等を決定するが、会社法では新株発行と同様集まった金額だけで効力が発生する打切発行となります。また社債に関しては社債券不発行制度はこれまでありませんでしたが、株式の場合には、株券不発行が原則であるので、社債券の不発行も可能となりました。

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