新潟県内企業と新会社法A
〜中小企業における機関設計と登記事項
 
新潟大学・風間事務所 山田剛志
 
 はじめに
 前回は連載第1回ということで、新しい会社制度と有限会社の廃止について説明しました。書店では、実務家の先生方による会社法の概説書も刊行されているが、いわゆる中小企業に焦点を当てているものは多くありません。本稿は引き続き中小企業の観点から、新会社法を説明したいと思います。特に今回は、主に株式会社の機関(株主総会・取締役等)設計に関して、説明したいと思います。前回と同じく今回も、解説であるので、つい不要なことも書いている部分がありますが、お許し下さい(本稿に関する問い合わせは、風間士郎法律事務所(025-228-1231)、もしくは yamada@jura.niigata-u.ac.jpまでご連絡頂けると幸いです)。
 
  (目次)
1、新しい会社制度と設立時規制の緩和(前号)
2、中小企業における機関設計と登記事項(本号)
3、株式制度の変更(以下次号)
4、株式会社における役員(取締役・会計参与)の責任と決算手続・内部統制
5、企業再編と買収
 
2、中小企業における機関設計と登記事項
(1)新しい機関制度と株式譲渡制限会社
 会社法上会社の所有者である株主は、経営に関する知識がないことが多く、株主自身は定時または臨時に株主総会に出席し、基本的な事項についてのみ意思決定をするだけである。そこで、株式会社では上記の基本事項(通常は取締役の選任と決算の承認及び取締役の報酬等)以外の経営に関する意思決定は取締役・取締役会・代表取締役等の会社の機関が行う。会社法においては、新しい機関として、会計参与が導入される。会計参与とは取締役と共同で計算書類を作るものであり、公認会計士・税理士等がその職務にあたる(会社法331条)。巷では、税理士に会計参与を頼んだ場合、平均報酬はいくらとか、会計士の場合にはどれだけという、相場ができつつあるという。
 これまでの株式会社では、取締役会や監査役等は強制設置だったため、名前だけの取締役や、家族に監査役を頼むなど、実際には業務に従事しない役員が多かった。たとえば、中小企業庁のアンケートによると、監査役設置を任意とすべきという答えは、実に71%に上る。その理由は、税理士等が計算書類の作成に、恒常的に関与しており、監査役の必要性を感じない、というのが54%の理由である。新会社法では、この点を改めて、最低限の規律を守りながら、それぞれの企業の実態に合わせて、必要な機関の選択を可能とし、自由に組織を構成することが可能となった。その分無駄なコストの削減ができるだろう。しかし従来の会社のように、一定の機関を選択すると、これまで以上の規制がかかることとなるので、2006年5月以降、各株式会社はその選択により、以下のような自由な機関構成を選択でき、逆に実態に合わない機関を選択してしまうと不必要な規制が課せられるので、各会社に適切な機関設計を選択する必要性が高まった。
 図@これまでの株式会社の機関設計
機関 株式会社 有限会社
監査役 必要的設置 任意
取締役会 必要的設置 設置できない
取締役の員数 3名以上 1名以上
役員の任期 取締役2年監査役4年 制限なし
 そこで、新会社法では、以下のような原則の下で、各機関を会社の実情にあわせて、任意に設置できることとした(会社法326条2項)。これを機関設計の柔軟化という。自由になった分、会社の機関構成が複雑化したため、会社設立の際専門家のアドバイスが必要となって来るだろう。なお以下の説明を理解して頂くには、最初に新会社法における機関の定義を理解する必要がある。
 @(株主総会)全ての株式会社には、株主総会及び最低1名の取締役を置かなければならない。(これまでは3名の取締役が必要だった)
 A(取締役会)株式譲渡制限会社では、取締役会は任意設置であるが(これまでは強制設置)、それ以外の会社では取締役会を設置しなければならない。取締役会を設置する場合には、監査役、委員会もしくは会計参与(譲渡制限会社)のいずれかを置かなければならない。
 B(監査役)株式譲渡制限会社では監査役は任意設置であるが、取締役会設置会社では原則設置する。監査役と委員会(指名・報酬・監査委員会)を同時に設置することはできない。
 C(監査役会)大会社(資本金が5億以上または負債が200億円以上の株式会社:会社法では、大会社・中会社・小会社ではなく、大会社・小会社の区分となった)では、必ず設置しなければならないが(会社法328条1項)、取締役会設置会社でなければ設置できない。
 D(会計監査人)大会社では必ず設置しなければならない。この場合、監査役(監査役会)もしくは委員会のいずれかを設置しなければならない。大会社以外の会社では任意設置である。(これまでは資本金が1億以下かつ負債総額が200億円以下の会社では設置できなかった。)
 E(会計参与)全ての会社で設置可能である。なお大会社以外の株式譲渡制限会社が取締役会を設置する場合、会計参与を設置することで監査役に代えることができる。
 株式譲渡制限会社とは、全ての株式の譲渡に会社の承認を必要とする定めを定款においている会社のことである。株式譲渡制限会社では、事実上有限会社制度を存続させたような簡易な規制となっている。会社法では、株式譲渡制限会社か否かが非常に重要なメルクマールとなっている。会社設立の際、譲渡制限を付けないと、種々の負担がかかってくることとなる。
 なお会社法における公開会社とは、上場企業や店頭公開企業ではなく、株式の一部でも譲渡制限が付いていない会社のことをいう(会社法2条5号。会社法では他の法律と同様、第2条に定義が規定されている)。これまでの分類のキーワードは、1)株式譲渡制限会社または公開会社、2)大会社かそれ以外(小会社)かである。
 図A 中小株式会社の機関設計
@
 
株主総会 取締役
 

 

 

 

 
株式譲渡制限会社のみ可
 A 株主総会 取締役
 

 
監査役
 

 

 
同上
 
B
 
株主総会 取締役
 

 
監査役
 
会計監査人
 
同上
 
C
 
株主総会 取締役
 

 

 

 
会計参与
 
同上
 
D
 
株主総会 取締役
 

 
監査役
 

 
会計参与
 
同上
 
E
 
株主総会
 
取締役会
 

 

 
会計参与
 
同上(大会社以外の株式譲渡制限会社のみ)
F
 
株主総会
 
取締役会
 
監査役
 

 

 
これまでの機関設計
 
G
 
株主総会
 
取締役会
 
監査役
 

 
会計参与
 

 
H
 
株主総会
 
取締役会
 
監査役
 
会計監査人
 

 
I
 
株主総会
 
取締役会
 
監査役
 
会計監査人 会計参与
 

 
 
 会社法では、株式譲渡制限会社では、@〜Dのように取締役会を置かないことも可能であるし、@CEのように監査役を置かないことも可能である。@は、もっともシンプルな形で、株主総会の他取締役1名のみの機関設計である。前回説明したように、最低資本金の規制が撤廃されたため、設立時の最低費用は約24万円であり、その他株主1名、取締役1名の株式会社も可能となる。その企業が今後発展するにつれて、必要な機関を設置することも可能となり、それぞれの段階で専門家が関与することにより、最適の機関設計を選択できる。
 なお、本稿の趣旨とは若干ずれるが、公開会社である大会社では、これまで通り、@取締役会+監査役会+会計監査人(監査役会設置会社)、またはA取締役会+委員会+会計監査人(委員会設置会社)が可能となる。
 
(2)株主総会
 株主総会は、最高意思決定機関として、会社法に規定する事項及び株式会社に関する全ての事項について決議することができる(会社法295条1項)。しかし取締役会設置会社においては、株主総会の決議事項は非常に制限されたものとなる(同2項)。つまり、上記で説明したように、従来の会社では取締役会が強制的に設置されていたため、株主総会の権限は制限され、招集手続も厳格だったが、会社法では株式譲渡制限会社で取締役会を設置しない会社(上記表の@〜D)については、株主総会が実質的な決定機関として、株主総会の権限が拡大され、運営方法についても簡素化されている。
 @(招集通知)1週間前までに通知を発すれば足り、取締役会を設置しない会社では、定款で更に短縮することが可能である(会社法299条1項)。その場合通知方法は、口頭でも電話でもよい。その場合会議の目的事項の記載・記録は不要となる(同条2項・4項)。その場合、招集通知への計算書類・事業報告の添付は不要である(437条)。
 A(決議事項)株式貨車の組織・運営・管理その他一切の事項。取締役会を設置しない会社では各株主は単独株主権として総会における株主提案権(議案提出権・議案提案権)を有し、それを定款で制限できない(会社法303条1項、305条1項)
 B(招集地)株主総会の招集地について定款で招集地の定めがなくとも、自由に招集地を選択することが可能となった。しかしもし特定の株主の出席を妨害する目的で当該株主の出席困難な地を総会の開催場所にした場合には、招集手続が著しく不公正であるとして、総会決議の取消事由となることがある(会社法831条1項)
 図B 株主総会の権限及び招集通知
  取締役会なし 取締役会設置会社
株主総会の決議事項

 
株式会社の組織・運営・管理等に関する一切の事項 法律または定款記載事項
 
  1週間前 2週間前までに発送
  招集通知
 
口頭でも可能
 
書面または電磁的方法による通知

 
会議の目的事項の記載不要 会議の目的事項の記載・記録が必要
 
  上記の説明から明らかなように、これまでの株式会社では取締役会が強制設置だったため、株主総会を開くことは2度手間で、実際上、株主総会は開催していないような会社も多かったと思われるが、会社法では取締役会を任意設置としたため、実際上も株主総会が意思決定機関となる。会社法での改正は、取締役会を設置していない会社では、実際の意思決定は株主総会で行い、それにあわせて口頭でも招集が可能となった。更に議決権を行使しうるものが全員同意した場合には、招集手続なしで開催できるので、機動的な開催が可能であるし、判例上、一人会社ではそのものが望めば招集手続は不要でいつでも株主総会が開催できるので(最判昭和46年6月24日)、取締役会を設置しない会社ではこれまで取締役会で決定していた事項を全て株主総会で決定することとなる。
 
(3)取締役会と取締役
 取締役会は任意設置となったので、取締役会を設置しない会社では、上述のように株主総会が意思決定機関となる。その際代表取締役についても任意設置となったため、その場合各取締役が会社の業務執行を行い会社を代表する(会社法348条1項)。取締役は株式譲渡制限会社で取締役会を設置しない会社では最低1名いればよいが、取締役会を設置する場合には最低3名必要である。もし取締役会を設置せず、取締役を複数選任する場合には、原則として業務執行の意思決定は取締役の過半数をもって行う(同2項)。仮に必要な場合には、定款・定款に基づく取締役の互選または株主総会の決議をもって、取締役の中から代表取締役を定めることができる(会社法349条3項)。
 取締役の任期は原則2年であるが、株式譲渡制限会社では定款で最長10年とすることができる(会社法332条2項)。これは中小企業では取締役の移動が少ないにも拘わらず、再任の登記をすることは手続・費用が負担となるという指摘があったことに配慮したものである。この点、前回説明したとおり、既存の有限会社が商号変更で株式会社となる場合において、10年とはいえ取締役の任期が導入される点注意が必要である。
 取締役の資格に関しても変更があった。従来その資格に制限がなかったものが、非公開会社では定款の記載により取締役の資格を株主に限ることが可能となった(会社法331条2項)。同じく資格に関して、これまでは破産者で免責を受けないものは、新たに取締役に就任することができなかったものが、取締役の欠格事由から除かれた。しかし最近逮捕されたIT関連企業の社長のように、証券取引法や倒産法制に監視罪を犯したものは執行猶予または刑の執行が終わってから2年を経過するまで取締役になることはできないと規定された(会社法331条1項)。
 また取締役会決議に関し、取締役の決議である目的事項について、取締役が全員で持ち回りの文書または電子メールなどによりその内容に同意し、かつ監査役が異議を述べない場合には、これまでは認められていなかった書面決議も可能となる(会社法370条)。このことで、遠方からの参加など移動コスト・時間的コストの削減が期待されている。しかし全て書面で行うことができるわけではなく代表取締役が3ヶ月に一度以上行わなければならない取締役会の業務執行の報告は実際に取締役会を開催しなければならない。
 取締役会に関しては、中小企業にとって株式譲渡制限会社でかつ取締役会不設置会社が一つのメルクマールとなるため、多くの企業においては設置されないこととなろう。その場合前述のように株主総会が意思決定機関となり、また取締役の選任及び解任が株主総会の過半数の出席(定款により3分の一以上の定足数を定めた場合にはその数)及びその過半数の賛成により解任される(会社法341条)。その結果株主は、取締役になっていなくとも、株主総会に参加することによりこれまで以上の積極的な役割が期待されるが、一方取締役が1名の会社では強制的な取締役会がなく、単独で意思決定を行う会社がこれまで以上に増えるだろう。(なお取締役の責任に関しては、第4回で検討する。)
 
(4)監査役
 従来監査役は常設の監視機関として、取締役の職務執行の監査にあたってきたが、十分機能を果たしていないという指摘もあり、任意設置となった。弁護士会の先生方の中にも顧問先の監査役に就任されている事例が多くあるだろう。
 会社法における大きな変更点は、会計監査の他に、原則として業務監査をする権限が明記されたことである。しかし公開会社でない会社では定款で定めることにより監査役の権限を会計監査に限ることができる(会社法389条1項)。逆にこれまで通り監査役に就任されている先生方で、業務監査を全くされてこなかった場合、定款変更の上、業務範囲を制限しないと、会社法429条により第三者に対し損害賠償責任を負担することもあり得る。(会計参与及び会計監査人関しては、第4回の決算手続において説明する。)
(5)終わりに
 このように、今回は中小企業の側から見て、会社機関に関する変更点を検討してきたが、株式譲渡制限会社でありかつ取締役会を設置していない会社は、事実上の有限会社であり、意思決定機関は、会社法上は、取締役個人または理論的には株主総会となる。会社法施行時には、有限会社はそのままで機能するが、実態は個人会社である中小企業では、適切に定款変更の上、機関設計をしないと規制の大幅な強化につながる。専門家のアドバイスが必要な場面が多いだろう。(以下次号。)

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