新潟県内企業と新会社法@
〜新しい会社制度と有限会社の今後
 
          新潟大学・風間法律事務所弁護士 山田剛志
 
はじめに
 ご存じのように、2006年5月から新会社法が施行されます。会社法は法文を口語にしただけでなく、60年ぶりの会社制度の根本的な改正となっています。商法は、33条から500条までが削除されて会社法に移りましたが、残りの部分はそのままです。有限会社法は、会社法に吸収されて消滅します。つまり商法の会社に関連する部分が独立し、有限会社法と併せて「会社法」となったといえます。
図@ 会社法制定過程
 
 実務家の方から「会社法で実務はどうなるか」という質問をよく受けますが、なかなか一言では言えません。特に新潟県は、他の都道府県と比べ、中小企業及び有限会社の割合が高いのですが、中小企業の方々に対して答えている本はありません。そこで会社法の影響を考える上で、中小企業及び有限会社がどのような影響を受けるのか、という観点から本稿を書きたいと思います。貴商工会議所においても、有限会社も多く加盟されておられるので、会社法の施行をチャンスととらえて、新潟経済をリードして頂きたいと思います。
 今回は、新会社法に関し、@新しい会社制度、A設立における改正点、B有限会社はどうなるか、ついて解説したいと思います。
(本稿に関する問い合わせ・相談は、風間士郎法律事務所228−1231、もしくは yamada@jura.niigata-u.ac.jpまでご連絡頂けると幸いです)。
 
1、新しい会社制度と設立時規制の緩和
 (1)新しい会社制度
 1)二種類の会社ができる
 会社法の性質を極めておおざっぱに言いますと、中小企業の実情を法律面で認めるなど大幅な規制緩和をしていますが、取締役会設置会社など一定規模以上の会社では内部統制(会社の内部体制)を義務づけるなど大幅な規制強化が目立ちます。特にこれまで商法が定めてきた最低資本金や商号の保護などの規制は大幅に緩和されたため、全て定款を見なければ、会社内容が理解できないこととなります。つまりこれまで以上に、自己責任が重視された会社制度となります。このように会社法では、大企業(公開会社・取締役会設置会社)中小企業(従来の有限会社のような会社)という2種類の会社が出来ることになります。
 
 2)会社法の改正点
 会社法の特徴は、@最低資本金制度は撤廃する、A株式譲渡制限会社では、取締役1人でよく、取締役会も監査役も不要となります(好きな機関構成を選択できます。たとえば、最も簡単なものは、株主総会と取締役1名でOKです)。B新規の有限会社の設立を廃止する、C配当(剰余金分配)の回数制限を禁止する、D合同会社(いわゆる日本型LLC)の新設する、E会計参与など新しい役員を認める、F買収防衛策を強化する、G合併再編条件を緩和するが挙げられます。ただしライブドア事件の影響で、FGは施行が一年延期されました。
 
 3)新しい会社の種類 〜合同会社が新しく認められた
 会社の種類としては、これまでは、商法・有限会社法において、物的会社(会社財産だけが債権者の担保となる)と人的会社(経営者は無限に責任を負う)に区分され、物的会社として株式会社・有限会社、人的会社として合名会社・合資会社が存在してきました。会社法においては、有限会社は現在ある会社は特例有限会社として存続することになりますが、新規には設立は認められません。また今後は、会社は株式会社と持分会社に区分され、後者には合名会社・合資会社の他に新たに合同会社が認められます。合同会社とは、持分会社でありながら、全ての社員が有限責任社員となる会社のことです。最初、合同会社は法人税と配当への所得税の二重課税が回避されることがその制度の大きな目的でしたが、税務署がそのような優遇措置は認めない方針で、前評判とは違い、利用数が多いか疑問視されています。一方2005年8月から認められた有限責任事業組合(いわゆるLLP)は、法人格を持たないため、法人税は課税されず、利益は各組合員の所得としてのみ課税されます。
図A(会社の分類)
 
(2)設立時における変更点
 1)資本金は1円でよい
 新会社法において株式会社を設立する際、最も大きな変更点は、最低資本金制度の撤廃でしょう。会社を設立する際にかかる費用は、これまでは資本金1000万円、定款の認証手数料として5万円、印紙税4万、登録免許税15万、金融機関の保管証明発行手数料2万円程度を合計して、1030万程度必要でした。しかし会社法では出資規制を撤廃したため、定款に対する公証人の認証、定款原本についての印紙税、設立登記の登録免許税のみ必要となり、設立時に必要な最低金額は約24万円となります。 
 銀行などによる保管証明に関して、会社法では募集設立(発起人以外の株主が必要なもの)では現行法の払込金保管証明制度がそのまま利用されますが、発起人のみによる発起設立では、金融機関の残高証明で足り、手数料も1000円程度で済みます。その際資本金を預金して、登記されて資本金を引き出すまでの期間が大幅に短縮されます。これは創業の際には、とても意味のある改正でしょう。また動産などの現物出資に対して、これまでは検査役の検査が必要でしたが、今後はその範囲(少額特例・有価証券特例)も縮小されます。
 
 2)設立時の株式は全て払い込まなくともよい
 会社を設立するとき、その会社の定款に記載事項については、これまでは設立時に発行する株式総数及び発行可能株式総数を定款に記載しなければなりませんが、会社法では設立に際して出資される財産の価額のみを定款に記載し、株式数は必ずしも、書かなくともよくなりました。また発行可能株式総数に関しても、定款作成時ではなく設立手続の完了時までに定款に記載すれば足りることになります。その理由は、設立における発起人の払込担保責任が廃止されたことがその理由です。つまり、出資がない株式は株式としての効力が認められなくなったからです。会社設立の時には、資本充実の原則は重要ではなくなりました。
 その代わり会社法では、取引先などの債権者保護のために、@会計参与(税理士等)制度を導入し、A決算公告を義務づけ、B実質的な資本充実を図るため純資産が300万円以下のときには、剰余金の配当を禁止することにしました。設立手続の中で払い込みがあった後、設立に際して設立時取締役・設立時監査役を設け、発起人が行う設立行為の調査を行うこととされました。
 
 3)類似商号を調べなくともよい
 商号に関して、現在は商法・商業登記法による類似商号の規制が行われていますが、同一商号・同一住所の登記以外の規制は廃止されました。インターネットなどで容易に類似商号の調査が可能となったからです。もし商号が不正使用されたときは、類似商号の使用者に対する侵害の停止等の請求、または不正競争防止法による差し止め損害賠償請求で対応しなければなりません。
 これらの規定を検討してみますと、設立について会社法は、最低資本金や株式数の登記などが緩和されて、設立は簡単になりましたが、会社財産が無くとも株式会社設立ができることとなったので、取引先の自己責任の範囲が非常に厳しくなりました。今後は取引する場合には、自分で相手の会社の定款や財産状況をこれまで以上に確認しなければならず、株式会社だからといって安心できません。また商号の規制がなくなったため、大企業の商号にわざと似せた詐欺的な類似商号にも注意しなければなりません。
図B(会社設立手続フローチャート)
 
(3)有限会社の取り扱い
 1)有限会社はどうなる?
 前にも書いたように、新会社法の下では有限会社制度は廃止されるため、新しく有限会社の設立はできません。しかし今までの有限会社はそのまま特例有限会社として、これまで通り存続できます。この場合特別な手続はいりません。この点は会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(「整備法」)により定められています。株式会社へ商号変更しないメリットは、取締役の任期に制限がなく、決算公告義務もないことです。特例有限会社は、有限会社としてこれまで通りの営業を営むことも可能です。しかし株式会社として対外的な信頼を向上させたいのであれば、株式会社に移行することもメリットがあります。そのとき、株式譲渡制限会社であれば、これまでの有限会社の簡易な制度をそのまま維持できます。
図C有限会社の対応
 
 2)株式会社にした方が得か?
 そこで、もし会員の方が特例有限会社から株式会社へ移行するためには、@定款における株式会社への商号変更(特例有限会社も会社法上は株式会社の一種となります)、A有限会社の解散登記、及びB株式会社の設立登記が必要となります。この場合、手続にかかる登録免許税は、有限会社の解散の登記3万円、株式会社の設立の登記(資本金の千分の1.5で最低3万円)となり、最低6万円から、商号変更ができます。
 この場合、最低資本金制度がなくなったため、既存の有限会社が減資により、資本金を1円とすることも可能となりました。これまでは有限会社は最低資本金が300万円だったため、増資することなくそのまま株式会社に商号の変更ができます。もちろん、これまでの累積の欠損(個人への借金など)がある場合には、株式会社へ組織変更後、定時株主総会決議で減資してから、株式会社へ変更することもできます。その結果、これまでの有限会社は、そのままの資本金で株式会社になることもできるし、減資して少ない資本金で株式会社に商号変更することも可能となります。2006年5月以降、多くの有限会社が、このチャンスをとらえて組織変更をすると思われます。
                            (以下次号) 
 
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