とおい日に
「ERA」第4号
埠頭のあたりに 今朝も鴎があつまって たかだかと螺旋を描いている 見えない風圧に 押しあげられ 風の鋳型にのこされた 形見の塔をかたどっている ついばむ旅鳥の群れはまばらに 充たされぬ身の器 この空虚な墓を象るものが 極北の海にもあるという あおい氷の塊に埋もれた 破船の入江に 充たされぬその形が 風のうちに聞いている 逸る槌音を さらに駆りたてる歌を生み 壊してはまた産んだ身の記憶を 虚ろとなった体躯を 長々と横たえ みだらな空無を夢見ている とおい日にこの胎に受け 懐にいだいた弓の歌 剣の歌はかぞえきれない 粗鋼の馳せ場に弾けていた歓びを 時々に見送って いまは充たされぬ器に 月ごとに溢れくる夜 草生した身の傾斜は しかし欺きを欺くための徴 夜ごと祝宴を求める あたらしい求婚者たちの すべての虚言と酩酊を容れて 月ごとに覆され 月ごとに断ち切られる 備えをなす密かに 閃光の記憶とともに 柩のかたちで還りくるものを 迎えいれるための備えを 破船は還りくるか 見栄えなきその弔いの船は 舳先に立つ和らぎの人とともに |