県立鎌倉高校サッカー部


<コラム>

『オシムの日本代表監督就任』

 

日本代表にジェフ千葉のオシム監督が就任しそうだ。このことは、日本のサッカーにとって大きな分岐点になるだろう。オシムが監督をやっている間に、日本サッカーのベース、特徴、目指すべき方向を構築していけるだろうか?これは代表だけでなく、Jリーグ、我々のやっている高校サッカーにとっても大きな挑戦となる。日本代表のサッカーは日本全国のサッカーに大きな影響を及ぼす。オフト時代には、いまではお馴染みのトライアングル、アイコンタクトといった言葉が流行したように。トルシエ時代にウェーブの動きや3バックのチームが増えたりしたように。ジーコ時代は、自分で考えてプレーするとかボールを大事にするとあったが、わかりづらかったのであまり影響はなかったかな。

 

残念ながら、ドイツW杯で日本サッカーと世界のサッカーの差は4年前よりひらいてしまった。それはジーコサッカーが間違いだったというわけではない。日韓W杯は、トルシエの強制的な戦術サッカーである程度の成績は残せたが、その上にいくには、指示がないと状況を判断して自ら考えてプレーできないという日本人自体の特性にもかかわる部分を改善する必要があった。だからジーコは指示を出さなかった。モノを申さなかった。言わないことは難しいことだ。何をするべきか、どうプレーしてほしいかわかっているのにあえて言わない。ジーコにとってもチャレンジだっただろう。ジーコの数少ない要求の中にポゼッションすること、ボールを大事にすることがあった。だが選手はボールを大事にしようとしすぎることで、動きが止まってしまうことが多かった。なぜなら、選手はボールを持った味方を横や後ろでサポートしようと考え出す。前に行けばボールを失いやすいからだ。パサーもミスパスを恐れて、きわどいパスが少なくボールを下げることが増えてしまう。特に引いた相手だと顕著に現れてくる。ドリブルで果敢に仕掛けて行く姿も少ない。もちろんポゼッションは大事だが、リスクチャレンジすることとのバランス感覚が必要だ。

このことがドイツW杯の直接的な敗因ではないが、世界との差という意味では、大きかったように思う。

 

世界のサッカーはもっと先を行っていた。味方を飛び越して前へ出ていきながら、動きながらポゼッションをしたり、仕掛けていったりする。自らドリブルで抜きにいく。横パスよりもクサビを早くいれそこのサポートに走りこんでいく。激しく上下動を繰り返すタフなサッカー。ボールを奪ったら、前へ走る。取られたらすぐに戻る。プレスをかける。次を予測(イメージ)して速くスタートをきり、走りながら考える。

 

かつて数十年前、日本はボールをつなぐことが出来ず、単純なミスでボールを奪われたり、苦しまぎれのクリアを相手陣内に蹴りこみ、つまらないし勝てないサッカーを繰り返していた。

そこでオランダ人のハンスオフトが日本代表監督になり、アイコンタクト、トライアングルといったパスをつなぐ組織的なサッカーを目指し、日本サッカーに方向性を与えた。日本はパスをつなぐこと、組織的なプレーをすることに取り組んできた。その後、中田の出現により、中田中心のサッカーで、初めてW杯代表権を得る。そんな歴史のなかで、どこか組織的なサッカーが合理的なサッカーになっていく。より無駄を省き、合理的に“ラク”をして守る。自分達がボールをキープして、相手にボールを渡さずに試合を“ラク”に進める。それ自体は決して間違いではないが、キープのための横パスをした時、もっとゴールの近くにパスコースはなかったか?横パスをもらうのではなく、よりゴールに近く相手の背後にあるスペースに走りこんでいく選択はなかったか?

ちょうどその時代にサッカーをしていた自分自身や周りの選手達のプレーをふりかえると、そんなことを思ってしまう。

日本はトルシエになり、ポジションニングを崩さずにボールのまわし方や動き方を規制したサッカーで一定の結果は出せた。その規制の中で随所にいいプレーが出ていた。日韓W杯のベルギー戦の鈴木のゴールは相手の背後への走りこみと小野からの速いタイミングでの一発のパスがポイントだった。同じくベルギー戦、ロシア戦での稲本の2ゴール。果敢なドリブル突破とチャンスとみるや相手のペナルティエリアまで進出し、ゴールを決めた。ポゼッションではなくゴールを直接的に目指すプレーが4年前はできていた。

 

対して、世界のサッカーは、80年代のブラジル黄金の中盤のポゼッションサッカーから、コンパクトをべースにしたプレッシングサッカー、そして、コンパクトな中でさらにポジションに関係なく奪ったら上がり、奪われたら下がるように激しく上下動し(走り)、11をタイトに戦うサッカーに変わってきている。

 

ドイツW杯では、日本がずっと目指してきたサッカーが“世界では通用しないよ”と冷や水をかけられた。

今の日本は、“ラク”をして組織で守る。“ラク”をしてパスをまわす。それに対し、オシムのサッカーは相手の選手に対しタイトなディフェンスをすること。予測して走ること。例えば、パスを出して、前へ走ること。(これが“つけて出る動き”になる)

オシムは、日本に染み付いたこの“ラク”を取り除き、日本特有のすばらしい組織力とランニングベースのパスサッカーを見せてくれるだろう。

我々も、目指すところは同じだから、しっかりと取り組んでいきたい。