知らなかった、障害年金について

2008年10月25日、廿日市市のSさんから事務局宛てに
以下のような手紙(FAX)が届きました。
全文を掲載します。

文中下線部分は原文どおりです。


視覚障害者の自立をすすめる会 御中

 私は25年来廿日市市において鍼灸院を開業し、
私のような者が全国には多数いると考えられます。
少しでも早くこのことを知らせ、もし被害者が多いなら、
貴会として対応していただければ幸いです。

身体障害者年金500万円以上を受給できなくなる。
 
 平成20年8月、
もうすぐ65歳になるので年金のことで廿日市市役所に行き相談したら、
いろいろ親切に調べていただき

「身体障害者2級で、視野が5度以内なら
 障害年金を受給できるかもしれません。
 65歳までに2級の障害年金をもらっていないと、
 失明したときに1級の障害年金をもらうのは大変難しくなります。」
と言われ大変驚きました。

 私は盲学校に通学した関係で、障害年金をもらっている人が多く、
障害手帳1、2級になると障害年金が受給できるものと思っていました。

 平成7年に「身体障害2級」になった時、
広島市西社会保険事務所に出かけ相談したところ、
『国民年金施行令別表』を見せられ
「身体障害手帳が2級でも年金の表では
『視野欠損』は無いので年金はもらえません。
 身体障害者と年金は別です。」と一言で拒否されました。

それ以来「視野欠損では年金は受給できない」ものと思っておりました。
ですから市役所の方が親切に調べてくださって初めて、
今でも障害年金受給の資格があったことを知り大変驚きました。

 今回詳しく調べて初めて知ったのですが、平成14年3月に法改正が行われ、
『視野欠損でも5度以内なら障害年金を支給できるようになった』ようです。
社会保険庁は
「法改正は関係官庁とパンフレットと医者に通知した。今のところ
 変更する予定はない」とのことですが、
医者は目の治療に専念しますので大学病院の診察のとき
「あなたは障害年金を受けられますよ」などと
教えていただくことはまずありえないことです。

 改めて調べてみると、私の場合
平成7年10月26日付けの、眼科医師のよる身体障害2級の申請の証明書によると、
既に視能率は3.6になっており、このとき既に視野欠損は、95%を超えており、
障害年金支給基準を満たしていたことになります。

 現在では障害2級では月額66,008円の受給資格があります。
 6年半で500万円以上受けることが出来たはずです。

やはり「申請しなかったのが悪いのでしょうか。」
 視力障害のある者にとって、社会保険事務所で国民年金別表を見せられて
言われたこと以外にどのようにして確かめることが出来るでしょうか。
法改正は私達視力障害者にとって、
どのようにして知ることが出来るのでしょうか。

 このような場合さかのぼって支給する方法があるか尋ねたところ、
「大変気の毒に思いますが、障害年金は申請し審査して支給が決まりますので、
 原則としてさかのぼれませんが、
 @初診時の診断書が提出出来ること、
 Aその診断書には身体障害年金の支給基準を満たす障害が
 証明されることが必要です。
 その場合でも5年さかのぼれるだけです。」と言われました。

 そのようなことは、不可能です。
 @私の場合30年前の医師は退職し、死んでいるかもしれません。
 カルテはたしか5年保存です。30年前のものが出るとは思えません。
 Aそれにたいていの病気は進行します。私の緑内障も、糖尿性網膜症も、
 網膜色素変性症も20年30年かかって失明します。
患者本人が初診時に失明寸前まで放置していることはありえないことです。
なぜこのようなバカバカしい法律があるのか理解出来ません。

 目が不自由なものは法改正など知りようがありません。
私は親切な市役所の人から教えていただき知ったのですが、
申請したときから、審査して適応するならその時からのみ受給です。
法改正を知ることが不可能な者は、
せめてさかのぼって支給するべきだと思います。

 国民年金法によると65歳までにこのことを知らなかったら、
65歳を超えて身体障害年金を受け取ることは難しいようです。
2級の年金額は国民年金を全額払い込んだ者と同額、
1級年金はそれに年間20万くらい多いそうです。
全くの盲人になって生活手段を失って老齢になった人にとって大きな問題です。
私の場合はたまたま65歳になる1月前に障害年金の申請が出来ましたが、
知らないで65歳を超えた人も全国にはたくさんいると思います。

 私は按摩、鍼を細々としながら、
貧乏の中でも今まで1月も欠かさないで国民年金を掛けてきました。
それはこのような障害者になることがあるかもしれないからです。
何のために掛けてきたのでしょうか。社会保険庁のずさんな管理、指導、
でたらめな法律により、私のような人が全国に何人いるのでしょうか。

本当に弱い者に対して
視力障害者協会として何とか救済方法を考えていただきたいと思います。
 この件で視覚障害者の自立をすすめる会として全国で調査を行い、
行政と、法改正のために行動していただきたいと思います。
                                            敬具

 [注]Sさんは現在、視力は0.6(矯正1.2)です。




          視覚障害者に関連のある年金の制度

 この度の問題をきっかけに、
視覚障害者にとって関係のある年金の制度について少し調べてみました。

◆障害基礎年金とは

 年金加入者が、病気や怪我で障害が残ったときに受け取れる年金。
受給資格が認定されるのは、
初めて医師の診断を受けたときから1年6月過ぎた時に障害の状態にあるか、
または65歳に達するまでの間に障害の状態になったとき。
(発病後1年6月の経過措置を過ぎないと申請できない。)


◆障害年金の等級(障害年金の受けられる障害の状態)

 ※これは身体障害者手帳(視覚障害)の認定基準とは異なります。

 1級障害の程度(視覚障害に関する条項のみ抜粋します。)

1号 両目の視力の和が0.04以下のもの

9号 前各号に揚げるもののほか、身体の機能の障害(一部省略)が、
   日常生活が著しい制限を受けるか、
   又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの。


【解説】 (この解説はJRPS神奈川支部のご協力によっています。)


 平成14年4月に、
「国民年金・厚生年金保険障害認定基準」が一部改正されました。
「目の障害」については、2級の項目の中に、上記15号の規定が加えられました。
以前は1号の規定だけでした。
そして「視野障害」の項目にはその説明が加えられています。

つまり15号にいうものとは、「両目の視野が5度以内のものをいう」
ということです。
また「・・・求心性視野狭窄である」という説明がなされています。
中心視野で判断するというもので、障害者手帳の欠損率とは違うようです。
以前は、視野狭窄では2級にならない=障害基礎年金は出ない。
だったのがここで変更されたわけです。

◆「事後重症」による障害年金の支給

 初めて医師の診察を受けたときから1年6月経過したときの障害が、
1級か2級の状態でなく、その後に障害の程度が重くなり、
65歳の誕生日の2日前までに請求して認定されると支給される。

◆Sさんの場合をまとめてみると


平成7年  眼科医の証明(視能率3.6 視野欠損95%超)を受け、
      身体障害者手帳の2級に認定されたとき、
      広島西社会保険事務所で「年金認定基準には
      視野欠損の条項は無いので年金は出ない」と言われた。
      【それ以来、視野欠損では年金は受給できないものと思っていた】

平成14年  国民年金法の改正がある、
      両眼の視野が5度以内なら年金が支給できるようになった。
     【このことをSさんはまったく知らなかった】

平成20年  この9月に65歳になるので老齢年金の申請に行き、
      実は障害年金の受給資格があったことを初めて知った。
      そこで申請手続きをして、1か月分のみ障害年金を受け取った。


◆この問題について、Sさん自身の考えは?

 このことがわかってからSさんは、
所属する全日本鍼灸マッサージ師会の法制部という部署から、
厚生労働省に問題を投げかけたところ、
「知らないでいたとはいえ、申請をしていないので、どうすることもできない」
との回答だったそうです。
また、広島県の社会保険庁にも本人が問い合わせをしたが、
申請をしていないのでだめという回答であったということです。

 本人としては、広報が不十分なために、知らさせていなかったのと同じで
申請できるはずもなく、年金不支給は不当であるという立場です。
しかし、
「裁判に訴えるとなると、裁判費用や長い時間と労力をかけることになるが
もうそんな気力や体力はない。緑内障も更に進み、手術も勧められている。
残念で悔しい思いはいっぱいだが、
いずれ来る失明までの貴重な数年という時間を、
おおらかにストレスのないように過ごす方が良いのではないか。」
と奥さんとも話し合いそういう思いに至っているそうです。

 ただ、自分と同じように法改正を知らずにいる人々がいるのではないか。
それらの方々にぜひ何らかの方法で知らせたい。
そのためにできることがあればやりたいと思っておられます。


◆これからどうする?

 これは、本当に怖い話です。
 社会保険庁によると、
平成14年の法改正は「関係官庁、パンフレット、医師に通知した」
ということでした。
Sさんはどうすればこの情報を知ることができたでしょうか? 
私たちは今後、この重大で深刻な課題を、
出来るだけ急いで考えていかなければならないと思います。
また、できれば「法の改正時点にさかのぼって申請できる」あるいは
「申請しなかった人々を救済する」という世論を
つくりだしていければいいと思います。










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