◆インタビュー/北崎美枝子さんの巻◆

 __北崎美枝子といえば、当「自立の会」の料理教室講師としておなじみ。
  また先般の、当会創立20周年記念イベントでは、午後の部「みんなの
  広場」の司会を務めた。昨年、20周年記念イベント実行委員の公募の
  件を聞き、「協力してみようかな」と思い参加した。1年間委員会をやっ
  ているうちに結構面白いなと感じ、理事会にも参加してみることにした。
  実は当年とって○○歳だが、理事会では「若い人が入ってくれた」と喜
  ばれている。盲導犬イリアとともに毎日1万歩以上歩く北崎美枝子は、
  いつもおしゃれで、前向き、快活な話しぶりなのでとても若く見える。_


 
 ◆発症

  25歳で結婚。30歳で突発性緑内障と診断される。夜、激しい痛みに襲われ、
 翌日には片目は失明、もう一方は辛うじて0.04の視力は残ったものの、
 いずれ失明すると宣告された。まさに突然の受難だった。
 弱視の状態で、家事はすべてそれまでどおり自分でこなしていたが、夜になると
 毎晩不安だった。明日の朝起きたとき、何にも見えないかもしれない・・・。
 受症から9年目の秋に、その朝が来た。
 
  家の内も外も、人や物の動きがざわざわしているのに、
 周囲は真っ暗なのだった。「失明したんだ」とわかった。
 そしてこの時、ホッとした。
 「人に話しても分かってもらえないと思うけどね」と彼女は言う。
 いつ失明するかと怯えることなく、これから楽に眠れる、と心底思ったのだ。
  この時息子が2歳だった。
 やがて息子と一緒に外を歩くようになった。小さな息子は、外を歩くとき、
 必ず手をつないで先導してくれた。
 それは夫が自分の手をつないで歩いてくれる姿を見て、
 子どもが母親への接し方を学んでいたからだ。
 子どもが物心もつかない時に失明したので、母親にはできないことがあることを、
 自然に納得してくれており、接し方も自然に会得してくれたのだ。
  勿論、母親業の方も頑張った。オムツ替えはウンチがどこに残っているのか
 判らなくて難儀したが、猛スピードで点字を覚え、絵本も読み聞かせた。
 友だちが遊びに来ると必ず手作りのおやつを出し、とても好評だった。
 ほかのお母さんがやっていることは、何でもやってやろうと思って頑張った。
  息子は思いやりのある優しい人に育ってくれている、と思っている。
 現在23歳の社会人である。

 ◆歩行訓練

  「自立の会」のことは広島大学病院眼科で紹介された。
 また当時の主治医の先生が光町の心身障害者センターの相談窓口に申し込み
 して下さり、歩行訓練士と出会った。失明から2年後だった。

  歩行訓練士は松本先生で、頭の中に地図をたたき込むような厳しい指導だった。
 おかげで、今、流川もバッチリ歩ける。いや、「流川は」と言うべきだろう。
 はじめは白杖歩行訓練を受ければ、どこでも自由に歩けると思っていたが、
 訓練してもらった所しか歩けないことをその時知った。
 だから「流川」も歩きたい」と松本先生に頼んだのだ。

  その後、
 清水先生(広島市で初めて盲導犬を取得された。現在県立特別支援学校教諭)
 の講演を聞きに行き、「ハーネスの会」に入会した。
 九州盲導犬協会で1か月の合宿訓練を受け、最初の盲導犬・ブラームスと一緒に
 広島に帰った。ブラームスとは9年間、次のシルクとは5年間、ともに歩いた。
 そして現在はイリア。1年前に福岡から来た。

  取材班の栗田は、何度か北崎さんを広島駅まで送り迎えして驚いている。
 階段にさしかかるとイリアは必ず止まり、
 北崎さんが足で確認するのを待ってからでないと上がり・降りの誘導はしない。
 「電車、GO」と北崎さんが言うと電停のほうへ行き、
 「エレベーター、GO」と言うと、ちょうど扉が開いていたエレベーターに
 まっすぐ入って行った。
 「そんなの当たり前じゃん」と北崎さんは笑っている。
 そういえばそうだ。盲導犬なんだもの。
 「イリアは頭がいいのよ」と北崎さんは言う。
 ポスト、バス停・・・何でも教えると2回目にはちゃんと覚えている。
 勿論「ことば」を理解しているということだ。

 ◆盲導犬の過酷な(?)生涯

  「イリアは何でも分かっているのだ」と思うと、
 自分たち人間だけが料理を食べて、
 テーブルの下で寝たふりをして待機しているイリアに、我々取材班は気がねする。
 「おうちに帰ったら美味しいものを食べさせてもらいなさいね。」
 などと言ったりする。
 「ダメ。盲導犬の食事は子犬の時から決まったドッグフードだけです。
  いろいろ食べさせたら匂いや食べ物に反応して、仕事になりません。」

 ☆盲導犬は生まれてから5回、飼い主が変わる。
  @子犬が産まれると60日間預かる。(繁殖ボランティア)
  Aその後1年間、人間社会での暮らし方に慣れる。
   (飼育ボランティア=パピーさん)
  B1才になると、6か月〜1年間、盲導犬としての訓練期間。
  Cハーネスを付けて視覚障害者と共に生活し、活動する。
  D10才になるとハーネスを外し、老犬ボランティアさんの家で余生を送る。

  家にいる時の盲導犬はふつうの犬と同じだ。イリアが北崎家の中で一番偉いと
 思っているのは北崎氏。息子のことは友だちだと思っている。
 食事(ドッグフード)、ブラッシング、シャンプー等健康管理、衛生管理は
 互いの信頼関係を築くことにつながる。

  ひとたびハーネスを付け外を歩くときは、飼主の厳しい統制のもとに、
 訓練されてきた能力を発揮しなければならない。好き勝手は許されない。
 {アタシだって好きな道があるんだけどなぁ}と思っても、
 飼主が指示したとおりに行かなければならない。
 盲導犬は飼主が新しい課題を与えることで、さらに新しい能力を
 身につけていく。

  盲導犬たちはきっと誇りを持って働いているのだ。
 次に一緒に食事をするときは、気がねしないからね、イリア。


 ◆ケータイの達人

  北崎さんは15年ほど前から携帯電話を使い始めた。
 おそらく「自立の会」の中で最も早いと思う。
 電話・メールは当然のこと、今やiモードを酷使して、スケジュールの確認・
 ニュース・音楽・料理のレシピ・歌の歌詞・お店探し。
 何でもケータイを取り出して調べたり、聞いたりする。
 服やペンダントの色を知ることも出来る。驚くべき人なのである。

                     
 

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