「紋章」は、造るのではなく伝わるものです(「江戸紋章集」序より)
個人よりも家に重きをおいた時代においても、定紋(じょうもん)とは別に替紋を持つ人たちがいました。そのデザインを身近な調度品に施して楽しんでいたようです。現代においても替紋の感覚で紋章デザインを楽しんでもらいたいと思っています。同時に願わくば、紋章デザインを単にトレースするのではなく、後述してある「紋の割り出し方法」に則って作図できる側の人が新たに登場してくれば望外の喜びです。
不正確に描かれた紋章は美しくありません。長い年月をかけて、勝れた美意識によって完成された紋章の形は、ゆるぎないものです。それを正しい姿で伝えてゆこくとが大切だと思います。 形の基礎となる作図を紋章の「割り出し法」と言います。紋章上絵師の手によって、長い間継承されてきた伝統技法です。(泡坂妻夫著「卍の魔力、巴の呪力」)
もっと身近に紋章デザインを!! (画像をクリックすると家紋が白色の、紋名をクリックすると家紋が黒色のページに移動します。)
五瓜胡蝶 | 扇胡蝶 | 手桶 | 木谷吉次郎 | 丸に青海波 |
恋文 | 正親町連翹 | 三宅輪宝 | 久我竜胆車 | 丸的に当り矢 |
熨斗鶴の丸 | 菊鶴 | 柏鶴 | 隅切角に銀杏鶴 | 沢瀉鶴 |
稲鶴 | 鬼花菱鶴 | 中陰梅鶴 | 稲妻鶴 | 折り鶴 |
蟹牡丹 | 蟹龍胆 | 蟹菊 | 踊り蟹 | 扇蝶 |
鷹の羽蝶 | 中陰梅蝶 | 日蓮宗龍の丸 | 八節の竹の内に対い鯛 | 鯉に波 |
稲蝶 | 熨斗蝶 | 沢瀉蝶 | 檜扇蝶 | 柏蝶 |
銀杏揚羽蝶 | 枝梅に中陰梅蝶 | 三つ扇銀杏 | 浪に月に兎 | 相馬繋ぎ馬 |
抱き柊に鳥居 | 八咫烏 | 鶴割り桐 | 鶴亀 | 丸に鶴の角字 |
十大家紋
三大紋は藤・木瓜(もっこう)・酢漿草(かたばみ)である。それにつづくものは、鷹の羽・桐・蔦(つた)であり、さらに柏・梅・桔梗・星などになる。しかし、これはおおよその推計で、家紋の実数を数えることはむずかしい。(P430)
五大紋(藤・木瓜・酢漿草・鷹の羽・桐)(P433)
一般に酢漿草、桐、木瓜、鷹の羽、藤を五大家紋といい、これに柏、橘、蔦、茗荷、沢瀉を加えて十大家紋という(P23)
「家紋の事典」を参考にそれぞれの代表家紋を入れて表にしてみた。
酢漿草 | 桐 | 木瓜 | 鷹の羽 | 藤 |
丸に剣酢漿草 | 丸に五三桐 | 丸に木瓜 | 丸に違い鷹の羽 | 丸に下り藤 |
柏 | 橘 | 蔦 | 茗荷 | 沢瀉 |
丸に三つ柏 | 丸に橘 | 丸に蔦 | 丸に抱き茗荷 | 丸に立ち沢瀉 |
同じく「家紋の事典」によると、全国平均占有率表が掲載(P23)されていて、16位までが発表されている。
これを参考にそれぞれの代表家紋を入れて、10位までを一覧にすると以下の通り。
1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 |
酢漿草 | 木瓜 | 鷹の羽 | 柏 | 藤 |
9.27% | 7.73% | 7.17% | 5.84% | 5.54% |
丸に酢漿草 | 丸に木瓜 | 丸に違い鷹の羽 | 丸に三つ柏 | 丸に下り藤 |
6位 | 7位 | 8位 | 9位 | 10位 | 桐 | 蔦 | 梅 | 橘 | 目結 |
5.17% | 4.58% | 4.58% | 4.40% | 3.85% |
丸に五三桐 | 丸に蔦 | 丸に梅鉢 | 丸に橘 | 丸に隅立四つ目 |
** 紋割り図 (Mon-wari-zu)**
「平安紋鑑」の巻末に”紋の割方”の頁があって、
「菱の割」・・・「先ず立筋を引て 分廻しを廻して 外輪をこしらへ 上下にて各外輪の八分の一をへらして 菱を立てるなり」
「三階菱の割」・・・「丸の中を五ツ割にして 分廻しを真中に立て 少しせばめて 輪を図の如く廻すべし それより菱を割ってかくなり」
家紋を始めた頃は全く気づきませんでしたが、泡坂さんの本を読んでから家紋の菱には二種類あると知って、「菱の割」とは別に「三階菱の割」の図説があることの意味を理解しました。つまり、菱には「菱の割」では描かない菱があるということで、別に「三階菱の割」の図説が掲載されているという考えに至りました。
ちなみに泡坂さんはこの二つの菱については「本来の菱」と「伝統的な菱」とし、次のように書かれています。
伝統的な菱は・・幸菱(さいわいびし)、山口菱、入れ子菱、花菱などです。
本来の菱・・松皮菱と三階菱(泡坂妻夫著「家紋の話」P265)
さらに、泡坂さんの同書によると、上絵師だった武田正巳編『紋章』という本に、
『紋章』では「正三角形を二つ合わせた形が菱」と記述されています(泡坂妻夫著「家紋の話」P264)
と書かれています。
正三角形は正円を三つ割りした、その三点を結ぶことで描くことができます。
この方法で作図した菱を『平安紋鑑』の「菱の割」に則って三階菱を作図したのがこちらです。
つまり、武田菱のような円形でなく菱形であっても、その作図は正円からスタートしているように、ほとんどの家紋は正円を紋割りすることで描かれているのです。
ところで、文献を読んでいると蔦は「見聞諸家紋」の頃(推定では1467~1470年とされている)は楕円から作図されていたようですが、現在見かける蔦はより正円に近い図形となっていて、時代と共に美的意識の変遷を窺い知ることができ一興を覚えます。
家紋で良く見かける丸の太さについても、関東と関西とでは多少違いがあるようですが、基本は紋のサイズによって大まかなルールがあるようです。紋のサイズを知る為には、描く紋の形状によって、どこを測るかを知っている必要があります。それらは通例「紋帳」の巻末に明記されています。この基本をわきまえた上で、紋章上絵師の美的センスによって最終的に決めているようです。泡坂さんは下記の著書「家紋の話」の中で「ごく簡単な紋の時は、丸を太めに描いた方が全体のバランスがいい。反対に中が複雑な形の紋のときには細めに作図する方が美しく見えるのです(P104)」と書かれています。
このように家紋の作図においては、
作図者が必ず守らなければならい部分「紋の割方」、菱で言えば内角の角度と、
作図者の美的センスを主張しても構わない部分、例えば丸の太さ、
とがあることは、非常に興味深いところです。
三つ割り(Mitsu-wari)
五つ割り(Itsutsu-wari)
八つ割り(Yatsu-wari)
十割り(Ju-wari)
応用例(Application Example)
以下の作図例はあくまでも一例ですが、正円を何等分するのかは、紋の形状によって決まっています。日本の家紋は正円から割り出されていることが理解できると思います。
剣酢漿草(Ken katabami)
丸に違い鷹の羽(Maru-ni chigai takanoha)
五つ菱(Itsutsu-bishi)
三つ菱(Mitsu-bishi)
三階菱(Sangai-bishi)
武田菱(Takeda-bishi)
割り菱(Wari-bishi)
丸に隅立て四つ目(Sumitate yotsume)
違い釘抜き(Chigai kuginuki)