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新人スタッフ十文字、新たなる闘いの始まり…! てゆーかこれはフィットネスクラブの仕事なのか---!? 【act1】 桜庭:お前の担当はこの人だ十文字。 十文字の眼前に、ぺろりと顔写真(書類の一部分)が提示されている 十文字:は、はいっ! スタッフ用通路、小テーブルを挟んで座っている桜庭と十文字 十文字:「突然ですが、明日から新しい取り組みが始まることになりました!」 十文字:「その名も、”がっぷり四つキャンペーン”!!」 桜庭:これは親しめる人がいると長続きする、という統計に基づき、新入会者向けに行われるものだ。 資料のプリントに目を通している十文字 十文字:「担当になった人と、私生活の話ができるくらい親しくなるように」ってハードルたか〜っっ[汗] 桜庭:個人主義のこの時代によくやるよな〜[やれやれという感じ] 十文字:桜庭さんがそんなこと言っていいんですかっ[苦笑] 桜庭:まーお前には若くて手が掛からなそうな人を選んだから頑張ってくれ。 十文字:は、はいっ。佐川聖人さん、三十歳ですね![カルテバーン] そこには顔写真(会員証についているものと同じ)、名前と年齢がプリントされていて、下の方は空欄で「担当者用」「プラン記入欄」など自由項目となっている。 桜庭:お前はこういうの初めてだから、今回はその人だけだ。 十文字:皆さんは何人くらい受け持つんですか? 桜庭:俺は八人だが。 十文字:えっ、おっ、俺も三人くらいいけますよ! 桜庭:まぁなー。お前の笑顔と元気がありゃいけなくもないかとは思ったけど…やっぱ勢いだけじゃ不安だからな[笑顔でディスる] 十文字:いっ、勢い大事! 桜庭:まだまだ知識も足りねぇし?後先考えずに突っ走るし?その上おばちゃんの押しには弱ぇしー。 十文字:わーっ!わかりましたっ!!褒めて伸ばしてっ!![泣き笑い] 桜庭:ま、お前には期待してるんだからよ。今回は丁寧に、一人一人に合わせた臨機応変さを学んでくれ。 十文字:は、はいっ。 十文字:[ふーっと息を吐きながら](ここに入って三週間たったけど、やっぱまだまだってことか〜) 十文字:親切丁寧!臨機応変!頑張るぞ〜! 十文字:「こうして俺の、入社初!キャンペーンが始まりましたっっ」 【act2】 一週間後 十文字:うーん…。 佐川のカルテをバインダーにはさみ、それを手にうなっている十文字。桜庭と共に受付に立っている 桜庭:なんだ?[カルテを覗き込む] 十文字:いえ、担当の佐川さんなんですけどね。 桜庭:もう会えたか? 十文字:は、はい一応。 桜庭:一応? 十文字:[自動ドアから入ってくる人影に気づき]あっ、 佐川が来場し、受付にチェックインをしに歩いて来る 十文字:こ、こんばんは佐川さん!今日で三日連続でお会いしま… 佐川:あっ、こっ、こんばんは[十文字の話が耳に入っていない様子で、ぺこぺこしながらも行ってしまう佐川] 十文字:……[口を開けたまま固まっている] 桜庭:……。 十文字:いつもあの調子で、挨拶から進まないんですっ[しくしく] 桜庭:カウンター越しだといつまでも話せねぇタイプかもな。 十文字:やっぱり〜。 十文字:「というわけで…」 ストレッチコーナーでストレッチをしている佐川に、背後からじりじり近くづ十文字。佐川はZONEのレンタルウェアの上下を使っている(シューズやタオルも) 十文字が側まで来た時、ぐ〜と佐川の腹が鳴る 十文字:!? そこでバチッと二人の目が合う 佐川:あ…[赤くなる佐川] 十文字:(チャーンス!)腹ペコですか佐川さん![隣にしゃがみこみ] 佐川:あ、いえ[恥ずかしそうに] 十文字:腹に何も入れなくて大丈夫ですか? 佐川:えっと、ご飯はうちで食べると決まっているので…。 十文字:へぇ〜っ。(おぉ、いい感じに情報ゲット!!) 更ににじり寄り 十文字:あのっ、あのですね、佐川さんにちょっとお話が…。 佐川:えっ[顔色が悪くなる] 佐川:僕何かしましたか[不安げに] 十文字:は?ちちっ、違いますよ![首ぶんぶん] 床にまだ白紙のデータ表を置いて佐川に見せている十文字 十文字:というわけで、僕が今回佐川さんの担当となりました、十文字ですっ。 佐川:な、なるほど…。 十文字:僕はまだ新人ですけどっ、疑問や不安があれば何でも話してくださいっ。もちろん会社のグチとかでも!! 佐川:[かしこまってる佐川] その二人を、大野が少し離れたところで見ている 大野:……[大丈夫かな〜という顔] その後、フロントに一人で立っている桜庭の隣に大野が来る 大野:なぁ、十文字が今回の取り組み内容、全部お客様にぶちまけて自己紹介してたんだが…。 桜庭:あぁうん…[まぁそんなことだろう、という風に] 桜庭:ま、あいつにさりげなくフォローしろとかまだ無理だろ。そういうやり方もありなんじゃね。 大野:そ、そうか…。佐川様は常識的な人っぽいし…いけるかな。 そこに十文字が駆けてくる 十文字:さささ桜庭さん大野さんっ、佐川さんが倒れましたぁ〜っ。 十文字と桜庭が駆けつけると、もう起き上がりストレッチエリアに座っている佐川がいる 佐川:お騒がせしてすみませんっっ[ぺこぺこ] 桜庭:どうされました?[側に寄って] そこにタオルと水を持って追いついて来る大野 大野:佐川様大丈夫ですか? 佐川:は、はいすみませんっ[ほぼ土下座][お腹がぐ〜〜] 全員:………。 テーブルエリアで、十文字と佐川が椅子に座っている。佐川はウエハースを食べようとしているところ 佐川:[十文字に向かって]す、すみません君の私物を…。 十文字:いえいえ!大袋で五百円のヤツですから! 佐川:五百円もするんだ[目ぱちくり] 十文字:いっぱい入ってますよ? 佐川:へぇー…[わかったようなわからなかったような顔] 十文字:??[汗] 受付に戻って、その光景を見ている桜庭と大野 大野:俺な、昨日も別のお客様に「フラフラしてる人がいるから気を付けて」って佐川様を教えられて、様子を見てたんだ。 桜庭:[ちらりと大野を見て] 桜庭:[また前を見て]んー…。 大野:たまたま…かな。 桜庭:たまたま…かも。 二人:(なんかちょっとキケンなにおいしてきたな〜…)[お互い口には出さず、複雑な顔] 佐川のカルテに記入されている新たな文字 「メシは帰ってから!!腹ペコ注意!!」 書き込んで満足そうな十文字がいる 十文字:よしっ、明日も頑張るぞー![おー!] 「先輩の懸念も知らず、新しいデータにご満悦の十文字だった」 【act3】 十九時頃、フロントに立っている十文字と桜庭。そこに来場する佐川 十文字:こんばんは佐川さんっ。 佐川:あ…こんばんは[佐川から腹の虫の合唱が聞こえる] 十文字:(初めて立ち止まってくれたーっ。けど腹の虫ーっ)[汗] そのまま中に入っていく佐川 十文字:あのっ、桜庭さんっ[物言いたげに隣に立っている桜庭を見る] 桜庭:……[十文字の言いたいことを察し]一人一人に向き合う練習とは言ったが、お客は佐川さんだけじゃねーからな。 十文字:肝に銘じま〜す![駆けていく] 息を吐いて見送ってやる桜庭 桜庭:[その方向を見たまま](にしても佐川さんって……) 十文字:(ビンボーなのかな…?) 更衣室に向かっている佐川の後ろにくっついて、スーツの手首のボタンが取れかかっているのをじっと見ながら歩いている怪しい十文字 佐川が十文字に気づいてびくっとする 佐川:[更に視線に気づき、己の手元を見て]あ、ボタン…[苦笑] 十文字:(そうだ…!)[何か思いつく] 十文字:あのっ、俺にお任せくださいっ![キリッ] テーブルエリアで繕い物をしている十文字。佐川のボタンをつけている その横でまたウエハースを食べている佐川 佐川:あの、ほんとにごめんね [ウエハースをかじりながら][※自前のウエハース] 十文字:それよりおすすめのウエハース、買って下さるなんて嬉しいな〜。 十文字:(五百円…大丈夫だったのかな)[汗] 佐川:こちらこそだよ。いいものを教えてくれてありがとう。 そこに会員のおばちゃんがやって来る おばちゃん:あら、何してるの? 十文字:繕い物屋さんでーす! おばちゃん:あらあら丁度よかった〜。 十文字:[おばちゃんを見上げてきょとん] おばちゃん:これもお願い[ワッペンの取れかけたハンドタオルを出される] 十文字:え”っ[びっくりしつつ]あっ、はいっ[焦] おっちゃん:なんだ、今日はそんなサービスがあるのか。 他の客:どうしたの? 他の客:なになに? わいわいと集まってきて囲まれる十文字 事務所に入って繕い物をしている十文字。多くの繕い物が置いてある 土井:後先考えないとそうなるんでーす[ぷふっ] 十文字:明日の俺に期待して下さいっっ[泣き笑い] 【act4】 十文字:佐川さんっっ、単刀直入に言いますっ[アップで迫っている感じ] 佐川:はい[ウエハースをかじっていた佐川が驚いている] 十文字:もう少し情報くださいっっ。 テーブルエリアで向き合って座り、テーブルに手をついて佐川にお願いしている十文字 その光景を受付から見ている桜庭と大野 大野:あいつはどれだけダイレクトなんだ……。 再び十文字と佐川 十文字:えっと、手始めに趣味とか教えて下さいっ。 佐川:[考え込む佐川]趣味…はないかなぁ。 十文字:休日は何してるんですか? 佐川:…休日出勤…? 十文字:えっ、お忙しいんですね。お仕事は何されてるんですか? 佐川:事務員です。 十文字:へぇ〜…(ふ、ふくらませにくいっ)[汗] 十文字:(会社名とか聞きたいけど、知らない会社だったら気まずいし) 十文字:あの、じゃあ好きな食べ物は…。 佐川:んー…、火の通ったもの? 十文字:へぇ〜??[どんどん不安になってくる十文字] 十文字:(変わった人なんだろうか……) 十文字:サンドイッチなんかはお好きじゃないと? 佐川:いえいえっ、生のままで美味しいとかすごいですっ。 十文字:……あっ[ピーン] 十文字:佐川さんは一人暮らしで料理が苦手ってことですねっ[どやぁ] 佐川:……[突然意気消沈の佐川]えっと…。両親と妹と暮らしてます……。 十文字:(何で暗くなった!?)[滝汗] 十文字:あ、そっか。家で食べるって決まってるくらいだし[精一杯笑顔] 十文字:でもいいなぁ。俺は一人暮らしなんでちょっと寂しいっすよ! 佐川:…はは。僕は十文字君が羨ましいけど。 十文字:そっすか?まぁ気楽ですけどねー。 笑顔で聞いている佐川 十文字:佐川さんは一人暮らし、考えないんですか? 佐川:え……[ポカンとする] 佐川:え、あ、うーん、そっか。えっと…どーだろ…[今初めてそんな選択肢を知ったような、困ったような、微妙な顔で笑う佐川] 佐川:[ふと息を吐いて]させてもらえないよ…。 十文字:あははっ、心配されてるんだー。 佐川:………[苦笑] そのまま静かになってしまう佐川 十文字:(わーーん、空気が重いーーっ) そのまま質問タイム終了 十文字:(うーーーむ)[悩みながら事務所に入ってくる十文字] 十文字:(何となく一人暮らしできない理由を聞けなかった…)(く〜) 事務所に桜庭がいる 桜庭:どうした変な顔して。 十文字:変って![苦笑] 十文字:あの、桜庭さん…佐川さんの勤め先ってわかりますか? 桜庭:ん?まぁ入会時に記入してもらってるから、データはあるけど…。 十文字:詳しく聞きにくくて参考までにっ[ずずずい] PC画面に、佐川聖人の詳細情報ページが開いている 「職場:当和コーポ―レーション」となっている 十文字:えっ[驚き](ビンボーとは程遠い一流企業…) 桜庭:……[同じことを思っている様子] 桜庭、少し考えてから 桜庭:なぁ、佐川さんってスーツ二着を着まわしてるよな。 十文字:へっ、そこまで見てませんでした[びっくり] 二人:………[怪訝そうな顔] 桜庭:…ま、職場なんて関係ねーさ。気持ちよく続けてもらえるよう頑張れ。 十文字:は、はいっ! 「と元気に返事したものの」 十文字:………(うーん) 「ますます佐川がわからなくなってしまった十文字であった」 【act5】 ある夕方、テーブルエリアにいる佐川を観察している十文字 十文字:トレーニングウェアはうちのレンタル品だしなー。レンタル代かかるのに…。 受付、十文字と桜庭が立っている。佐川はいつものウエハースを食べているところ 十文字:(スーツのことは話題にできないし、今日は何て話しかけよう…) 桜庭:[十文字に向け]佐川さんは続けてくれそうだな。 十文字:あっはい!俺もそんな気がしてます! 十文字:あの、今日もう一回だけ話しかけてきていいですか!?[カルテを持ち] 桜庭:へーへー[呆れ顔] 佐川の方へ駆けていく十文字 十文字:(今日話せたら、しばらくは見守っていよう…) 佐川の側まで行き 十文字:ウエハースタイムですか〜[笑顔] 雑談している二人 十文字:「ちなみにあれから得られた情報は…」「好きな色はブラウン。犬派。テレビ、映画は見ない。音楽は聴かない。国立大に奨学金で行って、三つのバイトを掛け持ちしてた」(えらいなー) 佐川:じゃ、今日も少し走ってこようかな。 十文字:はいっ、行ってらっしゃい! 運動エリアに消えていく後姿を見送っている十文字。佐川はとてもスマート、というか細すぎる感じ 十文字:(佐川さんってちょい細すぎだから筋トレを勧めたいけど…。ここに来た理由は気分転換って教えてくれたし、今はやりたいことでいいよな…) 十文字、フロントに戻ろうと歩き出し 十文字:(佐川さんの担当でホントよかった。穏やかな人だから問題も起こらなそうだし)[腹ペコだけ注意…] そこにとどろく大声 女(母):ちょっとー!!佐川聖人いるー!? 十文字:(――え?) 声の方を見ると、巨漢三人が受付に向かってきている 内わけは、おっさん(五十代)、おばはん(五十代、デブ)、若い女(二十代前半、大デブ)。三人組の内、年配女が騒ぎ立てていて、十文字の方にやってくる。 十文字:え、え、え、 母:どうなのよ!! 十文字:えっと、さ、佐川さんですか?そそっ、それなら…[しどろもどろ] 大野:[十文字の声を遮るように]お客様!どうぞこちらへ! 横から現れて、受付の手続き席を指し示す大野 驚いている十文字の肩を大野が叩き 大野:佐川さんを隠せ[こそっ] 十文字:へっ!?はっ、はいっ。 佐川も声に気づいたらしく、声のする方を向いて立ち尽くしている。三人組は佐川に気づいていない 佐川の元に駆け付ける十文字 十文字:佐川さん大丈夫ですかっ[こそこそ] 佐川:………[固まったまま蒼白で無言] 十文字:奥から裏通路に回りましょ、ねっ。 佐川を誘導し、入口と反対方向の、奥の通路に向かって進む十文字 十文字:(これからは見守ろうって思ったのに…) 十文字:(そんな場合じゃなくない〜〜!?) 【act6】 スタッフ用通路にて、椅子に腰かけている十文字と佐川 十文字:(きっ、気まずいっ) 十文字:(さっきのってご家族?すんげーヤバそうな感じだったんだけど…) 十文字:[ハッ](あっ、俺が口を滑らせそうだったから、大野さんが割って入って来たのか) 十文字と佐川、二人で各々がく〜っとうなだれている そこにやってくる桜庭 桜庭:佐川さん、ご家族の方帰られました。 顔を上げる二人 桜庭:大丈夫ですか? 佐川:だ、大丈夫です!すみません[立ち上がってぺこぺこ] 佐川:あの、うちの者には内緒にしてたんですが…。 十文字:(そ、そーなんだ) 桜庭:ご近所の方にこのビルに入るところを目撃されたみたいですね。それが話題に出たとか。 佐川:[サーッと青ざめる]そ、それじゃ僕がいること……。 桜庭:それはバレてません。会員制なので部外者は中を見れないと、大野が断ったんで。 十文字:そんな風に断れるんですね。 桜庭:いや〜、普通は断んねぇけど。見学したいって言われたら客扱いになるからヤバかった。 十文字:[ぞ〜〜っ] 桜庭:もう少し休んでいて下さい。 佐川:は、はい。 桜庭:何か窺っておけるご事情ってありますか? 佐川:え?[瞬きし]あー、えっと…、ですよね…。 ポツポツ話し始める佐川 佐川:あの…さっきのあれは両親と妹なんですが、三人とも僕の収入だけで暮らしてて…。だから僕が余計なお金を使わないよう見張ってるんです。 桜庭:…[何か言いかけるが十文字に食われる] 十文字:はぁぁ!?なにそれっ!?[ガタガタと立ち上がる] 佐川:……[しぼんでいる] 佐川:あの僕…これからも来ていいんでしょうか[おずおずと顔を上げ] 桜庭:…[再び何か言いかけるが十文字に食われる] 十文字:いいに決まってるじゃないですかー!![涙] 桜庭:[気を取り直して](ゴホン)僕たちも協力しますんで、用心してやっていきましょう。 すごくホッとした顔になる佐川 十文字:気が向いたらまた何でも話してくださいっっ!! 佐川:ありがとう[頼りなげな笑顔] 「難易度1だったはずの佐川が今や難易度MAXと化し、混乱する現場であった」 佐川のカルテに「経歴がすごい」「家族がすごい」と書き足してある 【act7】 ある日の夕方(十七時半頃) 受付に一人で立っている十文字。そこに現れる巨体=佐川妹。 妹:ちょっと![でーんとした体] 十文字:は〜い[と元気に返事してから]ひっっ[ひきつる十文字] 十文字:(佐川妹ーーーーっっ!!!) 妹:見学に来たんだけど。 十文字:(見学来ちゃった〜〜っ)[滝汗] 十文字:[受付内にあるスタッフ専用電話の受話器を取りつつ]あ、あのっ、今僕しかいなくてっ。人を呼びますから少々お待ちくださいっ。 ルーッ、ルーッ、ルーッ。 どこかに内線するが、通じない 十文字:(うおぉ事務所に誰もいないーーっ) 妹:早くしてっ[手続き席に移動して席に座る] 十文字:は、はいぃっ[自分もカウンター越しに席に着く][空っぽになる受付] そこに、運動エリアから歩いて来る桜庭。二人を見て「あー…」という顔になる そのまま受付に立つ桜庭 十文字:(さ、桜庭さんっ。よかった〜)[桜庭を横目で見てホッとする] 妹:この前ちょっと来たんだけどぉ、入会考えててぇ。 十文字:(えーーっ!?)[←顔に出てる] 妹:大体今頃来れるからぁ、ヨガとか受けようかなって。 十文字:……!あの、夕方はスタジオ掃除の時間で、レッスンないんです! 妹:はぁ?じゃあ明日から五時に一本やってよ。 十文字:あはは…[乾いた笑い] 妹:聞いてんの?[じろっ] 十文字:(えっ、今の本気で言ったの!?)[たら〜] 桜庭をちらりと見る十文字 桜庭:(穏便に、しかし二度と来ないように追い返せ)[という顔でギラリ] 十文字:(高等技術すぎるぅぅぅ)[涙] 十文字:あの、ヨガ専門店なら一日中受けられますよ? 妹:ここがいいから言ってんの! 十文字:うぅ…[押し負けている] 半泣きの十文字を見て、ため息をつく桜庭。少し向こうを歩いている大野にこっちに来るよう合図する カウンタに座っている佐川妹に気づき、「うっ」となる大野 妹:先週風邪ひいて寝込んだらちょっと体重増えたしねー。 十文字:えっ、五十キロくらい!? 妹:一キロよ! その会話を聞いて胃を痛めている大野 妹:でも私、運動もしないけど、ご飯だってほとんど食べないのよぉ?おやつは食べるけどー。 それを聞いた桜庭がピクリと反応 険しい顔になり、十文字の横から妹に話しかける 桜庭:お客様、ちょっと……。 バ〜ンと体組成計の測定結果用紙が妹の前に置かれている。そこには佐川妹の体重、体脂肪率、筋肉量、基礎代謝量などが印字されている 妹:わー、こんなに詳しく測れるんだ〜。 桜庭:[はしゃぐ妹の言葉を遮るように]あなたの基礎代謝量は千三百キロカロリー。これは一日、何もしなくても消費されると考えられるカロリーです[十文字に代わり、妹の前に座っている] 桜庭:今の生活では、一日の消費量としては、せいぜい千五百かそこらでしょう! 桜庭:そしてあなたが書き出した、一日の摂取量…[メモを手にげんなりしている桜庭] 桜庭:スナックにして五袋、板チョコにして二枚、菓子パン三袋!その他合わせて総計五千! 妹:だ、だから何よぉ 桜庭:ヨガじゃ消費できねぇんだよ!…ですよ! 大野がまた胃を痛めている そこで自動ドアが開き、佐川の姿が見える 桜庭の横に立っていた十文字がそれに気づく 十文字:(ぎゃっ、佐川さん…!) 妹:じゃあどうしたらいいの〜〜!?[う”わぁぁぁん] [泣き声が響き渡る] 周囲が驚いて注目する 入口にいる佐川も声に気づき、その場で固まる 大野:避難させろ[十文字に向けこそっと指示を出す] 十文字:はいっ[佐川の元に走り出す] 泣きじゃくっている妹、めげずに話している桜庭 桜庭:あなたの場合、まずは食べ物でしょう。ここから一時間ほどで行ける禅寺があって、無償で一般向けの断食道場をやっています。そこしかないですね![力説] 嗚咽を漏らしながらも蒼白で聞いている妹 桜庭:さ、これが寺の電話番号ですよ[ずずずいっとメモを突き出し] 裏通路の椅子、氷で頭を冷やしている佐川。一緒にいるのは十文字 十文字:おばさんだけじゃなく若い人にまで力負けしたぁ〜[しくしく] 佐川:ごめんよ、妹はあの調子で、思い通りにならないと往来でも大泣きするんだ。叫んだり…[真っ青] 十文字:[同じく真っ青] そこに大野がやって来る 大野:妹さん、帰られました。 佐川と十文字:(ほっ) 大野:断食道場に一日入門が決まって…。 佐川と十文字:[目が点] 十文字:(にゅ、入門してくれぇぇーー!!) 少しあと、事務所内 十文字:佐川さんの担当を桜庭さんに変更ー!? 桜庭、大野の元に呼ばれている十文字 十文字:そんな…もう少しやらせて下さいっ 大野:俺達も本意じゃないが、佐川様はとても難しいお客様だ。特にご家族の対応を誤ると取り返しがつかなくなる。 桜庭:……[無言で大野と十文字のやり取りを見ている] 十文字:(た、確かに今日もうまく対応できなかったし…) 十文字:(でもやっと仲良くなれたのに〜) 大野が新しいカルテを差し出す。四十から六十代くらいの女性のものが三枚 大野:この方達はそれぞれフィットネスが初めてで、一人で来ることに不安を持っておられる。しっかり声をかけて、信頼を得てほしい。 十文字:………。………。……はい[しょぼ] 事務所を出ていく十文字 その場に残った大野と桜庭 大野:一人だけを任せたから入れ込みすぎたのかとも思ったんだが…どう思う? 桜庭:んー…。ま、どっちにせよあいつだけで佐川さんはまだ難しいしな。 大野:……ん[大野も気落ちしている] 桜庭:すぐ立ち直るって[大野の肩をたたく桜庭] 受付に立っている十文字 十文字:[しょっぼーーん] 桜庭が受付にやって来て、十文字の様子を見る 桜庭:(葬式…) 桜庭が隣に立っても、考え込んでいる十文字 桜庭:おい、今回のは別にお前がダメってわけじゃねぇ[十文字に向け] 顔を上げて桜庭を見る十文字 十文字:は、はい。ありがとうございます。 再びしーーんと俯いてしまう十文字 桜庭、仕方ないかという風に息を吐く 「その日はとうとう浮上できなかった十文字であった」 桜庭:(そーしき…) 【act8】 十文字:こんばんは鈴木さん! 受付で、カルテの女性の一人に声をかける十文字。「今日はスタジオに入ってみるわ」などと会話している 十文字(あれから平和だな…)[女性を見送りつつ] 十文字:「一週間ほど経ち、俺は担当の奥様達と顔見知りになれた」 十文字:「さすがのパワーだけど、食らいついて頑張るぞ!」 佐川:十文字君こんばんは 十文字:あっ、佐川さんこんばんは! 受付でチェックインを済ませる佐川 十文字:「佐川さんも相変わらずいい人で、俺にも声をかけてくれる」 運動エリアから桜庭もやってきて、佐川に挨拶している 十文字:「平和が戻っているかに見えた」 そこにとどろく声 母:聖人じゃないのーー! 見ると、いつの間にやら佐川親子がいる 十文字:「だからまさか、また来襲があるなんて思ってもみなかったんだ――!!」 【act9】 受付前で鉢合わせる佐川親子 呆然と立ち尽くす佐川 佐川と親子の間にサッと入る桜庭 桜庭:あれ?ご家族なんですか?息子さんも本日ご体験に来られたんですよ[笑顔] 十文字:(こ、これぞ臨機応変〜っっ)[フォローに涙] 母:何それ!あんたは運動なんていらないでしょっ。 父:無駄遣いするんじゃない! 十文字:(はぁぁ〜!?)[ムッカー] 母:[桜庭の方を向いて]私たちもやってみようかと思って。入会金とかいるの? 桜庭:えー、最大で十万円ですかねぇ…[しらじら] 十文字:(さ、最小で0円………)[滝汗] 母:まぁお金のことはいいけど〜。でも十万もあれば旅行できるかしら。 妹:それいい〜! 十文字:(ふざけんな誰の金だ〜!)[横でいきり立っている十文字] 母:そのうち無料キャンペーンとかあるんでしょ? 桜庭:今のところはないですね。 母:うーん、要検討ねー。 そして佐川の方を向き 母:今日はご飯食べて帰るわよ。聖人、着替えてきなさい。 間に割って入る桜庭 桜庭:聖人さんは今、お体の測定結果が出るのをお待ちなので。 母:何なのよも〜!じゃあお金![佐川に手を差し出す] 桜庭:お財布忘れたんですか?お母さん[あくまで笑顔] 十文字:(…俺まで倒れそう…)[白目](でっ、でも見習わなきゃ!)[グッとこらえる] 母:三十年もうちに住まわせてやってんだから、あんたが出して当然でしょっ。 桜庭:家賃というわけですか。 母:そうよっ。まったく何なの。ATM寄るからいいわよ! ブツブツ言いながらも去っていく親子。魂が抜けそうな佐川 十文字:わーっ、佐川さんーーっ! 「しばらく自動ドアが開くたび、ビクビクした十文字だった」 【act10】 ある日、とある駅前(ZONEの最寄り駅、19時頃) 佐川が改札から出てくる 近所のおばさん:あら〜、聖人君じゃない! 佐川:!? 佐川:あっ、谷口さんこんばんは[あせあせぺこぺこ] 近所:お仕事帰り?こんな所で何してるの?この前木村の奥さんもこの駅で聖人君を見かけたってお母さんと話してたわよ。私その時は話に加われなくて〜[マシンガントーク] 顔面蒼白の佐川 桜庭:お待たせ そこに突然現れる桜庭と十文字 佐川・谷口:!? 十文字:[半笑いでぺこり] 近所:あら待ち合わせだったの〜[二人を物色するようにじろじろじろじろじろじろ] 近所:ほほほ、またね〜[行ってしまう] ドッと疲れる三人 佐川:[桜庭と十文字を見て]あ、あれ?どうして…。 十文字:今日は朝一の勤務だったんで、今帰りです! 桜庭:俺は普段はバイク通勤なんすけど、メンテしてて。でもちょーどよかったかな。 佐川:うわぁ、天の助け…[涙] 桜庭:さっきの、ご近所っすか。うちのビルに入るのを目撃した人とは別人みたいですね。 佐川:ええ、みんな我が家の事情に興味津々なんで…[どんより] 桜庭:[げんなりした顔] 十文字:う、うちで気分転換してきて下さい〜っ[涙] 次の日 母:やっぱり息子来てるんじゃないのー!? 受付にいる十文字。佐川母と妹が来襲 十文字:(ひいいいいい) 十文字:な、何のことでしょうか! 母:お向かいさんが言ってたのっ。 十文字:(昨日のババ…、おばさんかーっ) 妹:まぁいいじゃんそれは。今日は別件だし! 十文字:別件…? 母:あーそうそう、こういう所って入会する時にクレジットカードを作らされるって聞いたんだけど〜。 十文字:え!?えーっと…(やべぇ俺まだその辺詳しくないんだよな〜) 十文字:(希望者には作る感じのはずだけど、嫌がる人の方が多いってのは聞いたことあるし…。うん!) 十文字:そ、そーなんです!必要なんです![嫌がれ〜] 母:ちょうどよかったわ。カード作りたくて。 十文字:(えぇーっっ!?)[顔に出てる] 母:息子の口座で申し込むわ。 十文字:そんなことできるの!?[口にも出る] 母:今度旅行に行くからさー。カードがあった方が便利でしょ。 十文字:(結局行くのかよー!?) そこで妹の携帯がピロリンと鳴る 妹:あっ、もう順番だって! 母:あらーっ。[十文字を見て]マッサージ予約してるの? 母:また来るわー! 二人してさっさと行ってしまう ボーゼンと見送っている十文字 十文字:(ピラニアかーっっ) 数日後の十九時頃、受付にで立っている十文字と土井 十文字:(佐川さん、ここ数日来てないなぁ) と思ったら、入口に佐川が見える 十文字:(あっ、来たー!) 佐川:こんばんは、十文字君[挨拶しながらテーブルスペースの方へ行く佐川。ウエハースを食べるため] 十文字:こんばんはー!前は日参されてたから心配しましたよー![受付を出て佐川の方に駆け寄る] 椅子に腰かけながら、一瞬きょとんとする佐川。次に微笑んで 佐川:ありがとう、僕のこと気にかけてくれて[すごく嬉しそう] 十文字:そ、そんなの当たり前ですしっ! 佐川:この前また家族が来ちゃったみたいで、本当ごめんね[しゅんとしている] 十文字:いえいえっ[首ブンブン] 佐川:僕の口座でカードを作るとか何とか…。 十文字:そ、そーなんですっ。でも僕はまだ詳しくなくて社員さんに確認したら、本人名義の口座でしか作れないらしくてっ。 佐川:わ、それなら安心した…。僕も詳しくないもんだから、念のため取り上げられてた僕の銀行印、こっそり奪い返したんだ。 佐川:怪しまれないようキャッシュカードはそのままにしといたけど、何か泥棒したみたいで…[ため息] 十文字:泥棒は向こうですからー!![泣きながら暴言] そんな十文字を見て、はにかむように笑む佐川 佐川:でも僕ね、なんか…こういうの初めてで[少しうつむき加減] 十文字:こういうの? 佐川:親への反抗っていうのかな。ささやかすぎるけど…。 十文字:ぽいー! 佐川:十文字君たちが赤の他人である僕を何度も庇ってくれたから…。[顔を上げて僅かに笑み]僕も何かしなきゃって。 十文字:佐川さんっ[じょばーっ] 佐川:旅行は絶対行くみたいだから、詰めが甘いんだけど…[苦笑] 十文字:そんなことありませんよ!反抗期来たじゃないですか![大声] 佐川ぱちくり 佐川:あはっ、反抗期[笑] 十文字:あわわわ、すみませんっっ。 佐川:ううん、本当にそうだし。 そこで少し考えている風の佐川 佐川:…あのさ、もう少し自分のこと話してもいい?[人がいないのを確認するように周りを少し見て] 十文字:[明るい顔になり]いいんですか!? 佐川:なんか…聞いてほしくなっちゃった。 十文字:嬉しいですっ!! 佐川:えっと、僕ってさ、半ば育児放棄されて育ったというか…。 床を見ながら記憶を辿るように話し出す佐川 佐川:学校に行く世話は、危機を感じた祖母がしてくれてね、遠いから普段は会えないんだけど。 十文字:そ、そんな!![ガガーーン] 佐川:火の通ってるものが好きって言ったでしょ。ご飯が生キャベツとか、水で溶いたコンソメとかだったから…。 十文字:[くらぁっ。目眩] 十文字:いっ、妹さんの方は!? 佐川:妹は親に気に入られてて…。祖母のお陰で中学の途中までは行ってたんだけど…今は何もしてないんだ[うつむいて] し〜〜〜〜ん…… 佐川:あっごめん、やっぱり暗くしちゃったか[汗] 首をブンブン振る十文字 佐川:何が言いたいかって言うと、自分にできること、もっと考えてみるよ…ってことで[ぼそ] 十文字:[涙じょばーーっ]は、はいっ。頑張って下さいっっ!! 十文字:[着替えに行ってしまう佐川を見送る十文字]……。 十文字:(今の、頑張って下さいでよかったのかな…) 十文字:(俺が佐川さんにできることって、何かないのか…!?) そこに桜庭が通りかかる 十文字:……[難しい顔で無言で立っている] 十文字:……[考え中] 十文字:……。 桜庭:どうした、こんなとこで突っ立って[様子を見ていたが声をかける] 十文字:……。 バッと桜庭を見て 十文字:桜庭さんっ。俺っ、佐川さんを元気づけられるプラン考えていいですかっっ!! 【act12】 十文字:「それからまた十日ほどは、静かな日々が続いた」 「しかし佐川さんは、いつしかパッタリ来なくなっていた」 十文字と桜庭が受付に立っている 十文字:(佐川さん来なくて心配だし!あの後考えて考えて絞り出した俺のプランもどうなったか気になるし!)[百面相している] 十文字:(聞きたいけど…)[桜庭をちら] [以下回想] 桜庭:またすげぇプランだな。つーかプランなのかこれ?[何やら面食らっている様子] 十文字:だ、駄目でしょうかっっ。 桜庭:んーー…。さすがにすぐ返事はできねーなぁ[頭かきながら] [回想終了] 十文字:(って言われたしな〜) [ちらっちらっ] 桜庭:……[察してため息]アレが気になってんだろ。 十文字:うっ、そーですけどっ。 桜庭:それについては今日、連から返答がある予定だから。 十文字:えっ、今日!? 大野がそこにやって来る 大野:十文字、お前の立てたプランのことだがな。 十文字:噂をすればー! 大野:マネージャーにも話してみて、検討したんだが…。 十文字:そ、そんな大事に!? 桜庭:十分大事なプランだったろーが[あきれ顔] 大野:うむ。せっかくだが、あれはうちで扱うプランではないという結論に達した[すまなそうに] ちーーん 大野:今回は残念だったが、色々お客様に寄り添う努力をしてくれて頼もしく思う。ありがとうな[十文字の肩をポン] ここで大野と桜庭が目配せし、大野はまた行ってしまう がくーーっとしている十文字 桜庭:まぁしょげるなって。それよりお前、週末の休み、予定ないって言ってたろ? 十文字:え?はい。 桜庭:じゃあ俺がいーとこ連れてってやるからよ。朝七時にここの駐車場な[ぺらりとメモを差し出す] 十文字:へっ?? 「そんなこんなで週末の朝」 目的地に出向いている途中らしき十文字 手には桜庭にもらったメモを持っている 十文字:(くわしくは何も聞けなかったけど、桜庭さんが誘ってくれるなんて嬉しいな〜) (※メモには「集合:朝七時駐車場。アロハシャツ、グラサン、エプロン、マスク、軍手着用のこと」と書いてある) そして十文字はアロハシャツにエプロン、グラサン、マスク、軍手姿 十文字:にしても…このカッコは何なんだぁ〜?[汗] そこで駐車場到着。 桜庭:ぶはっ。お前そのカッコで来たのかよ。 駐車場で待っている桜庭。バイクにまたがり、黒のレザージャケット 十文字:えええーー!? 桜庭:乗れ[後ろを指し示す桜庭] 十文字:え[てん。] ブロロロと発車するバイク(ヘルメット着用済み) 十文字:どこ行くか教えてーーっっ! バイクが停まったのは、とある平屋の前。狭い道に面した古い長屋っぽいたたずまい。小さなトラックが道を圧迫して一台停まっている その後ろにバイクを停める桜庭 十文字:(なに?なに?到着!?) 佐川:いらっしゃい[その家の中から出てくる佐川] 十文字:佐川さんーー!? 桜庭:どーも。トラックやばいっすね、さっさと作業しねーと。 佐川:道狭いから[苦笑] 十文字:あのぉ〜、俺全然ついていけてないんですが… 桜庭:ここは佐川さんのお宅だ。ご家族は今朝から北海道旅行に出発した[しれっと] 十文字:えぇっ!? 桜庭:そして、佐川さんは今日引っ越しだ。 桜庭:「お前(・・・)のプラン通り(・・)」だろ?[にやり] 十文字:え…、え…、えぇえーーー!? ごちゃごちゃした狭い家の中、茶を出されてとりあえず座っている十文字と桜庭 桜庭:ホントは近場で三泊くらいしてきてほしかったんだが、どーしても北海道ってぇから一泊二日の強行軍だ[予算の都合] 桜庭:その間に脱出する[力強く] 十文字:なななっ、何で!?何で教えてくれなかったんですかーっっ!! 桜庭:いやまぁそれは?[チラリと佐川を見て]佐川さんがギリギリでくじけた時に、お前が知ってたら逃げ場がなくなるなって連と話して。 佐川:うっ、すみません気が小さくて…っ。 桜庭:それに昨日言った通り、マネージャーとの話し合いでは保留になったんだよ。 十文字:え、だったら何で…。 [そこで回想へ] 大野:マネージャーに相談したんだが、やはりそれを仕事とするのは難しそうだ。 桜庭:やーっぱなぁ。フィットネスのプランじゃねぇもんなー[笑] 大野:自由奔放な十文字らしいとは思うが、引っ越しを促すのは大胆すぎる…[うーん] 桜庭:確かにな。 桜庭:んでもま、個人的には悪くないとは思ってんだけど[大野をチラ] 大野:え? 桜庭:だってこのままじゃ永遠に襲撃があるだろうし〜。 大野:うっ。 桜庭:そうなったら佐川さん、続けらんねーかも。 大野:うっ。 桜庭:引越の手伝いなら、今までも頼まれたことあったな〜[しらじら] 桜庭:どー思う?[笑顔で] 大野:〜〜[汗] 大野:ほ、本気か? 桜庭:んー[笑顔] 大野:……[かなり青くなりながら] 大野:ち、力になろうと思うのか…? 桜庭:お、話がわかるじゃねーか連。 大野、ぐっと詰まり 大野:そりゃあ俺だって、あんな状態の佐川さんを見過ごすのは心苦しいと思ってる…。 桜庭:あの人今、変わろうとして努力してるみたいなんだよなぁ。でも一人じゃあの家族に阻まれるかも。 大野:……[ぐぐっと詰まっている] 大野:[そして桜庭をちらっと見て]あくまで個人的に…だよな? 桜庭:そーそ。 大野:もしも、引っ越したいなーと言われたら手伝う感じだな? 桜庭:そうでーす。 [回想終了] 桜庭:ちなみにトラックの手配をしてくれたのは連だ。個人的に。 十文字:大野さんっ[ぶわっ] 桜庭:にして、さすが後先考えない男だなぁ十文字。おかげで佐川さんは大慌てで部屋探だし[にやにや] 十文字:うううっ[赤くなり] 桜庭:でもま、佐川さんから取る金を「家賃」だって言ってたし、だったら住まなきゃ解決だって俺も思ったしよ。 佐川:うん、ほんとこんなこと、自分じゃ到底考えもしなかったもん。 佐川:、まぁそれでも桜庭君が、 桜庭:旅行の日の決行が望ましいと思うんで、お早い返事お待ちしてます[笑顔] 佐川:えええ…っ[目が点] 佐川:って追い立ててくれなきゃ、踏ん切りがつかなかったかもだけど。 十文字:桜庭さん…[半笑い] 佐川:[十文字を見て]勇気をくれてありがとう十文字君…。 十文字:そそっ、そんなことっ[じわわっ] 桜庭:ハイハイお礼は成功したらな〜。 十文字:あのっ、それを聞いて軍手とエプロンはわかりましたが、アロハシャツとグラサンって…? 桜庭:備え。 桜庭:[そのまま十文字を無視して進める]よし、そしたらこの二日の予定を確認するぞ。 十文字:(全然わかんないーっ) 桜庭:まず、今からすみやかに引っ越し作業を完遂する。持って行きたいものは箱詰めか、付せんを貼ってもらってるから、俺と十文字でトラックに積み込む。 桜庭:佐川さんは、盗難にあったってことで銀行のキャッシュカードを緊急停止して下さい。 佐川:はい。 十文字:おぉっ。 桜庭:次に九時になったら佐川さんは一旦携帯会社に行き、携帯を全員分解約する。 十文字:本人がいなくてもできるんですか? 佐川:契約に行くのを面倒がって、四台とも僕のだから…。 十文字:なんつー人たちだ〜[しくしく] 桜庭:それも今日でおさらばだ。しまっていくぞ! 二人:おー! そこにチャイムの連打の音が響く 誰か:ちょっとー!![ピンポンピンポンドンドンドンドン] 三人:――!? 誰か:聖人君いるのーー!? 佐川:はっ、はいっ。 十文字:げっ、ご近所っ。 玄関に対応に行く佐川。そこには佐川のことをチクったおばさん(近所1)と、駅で会ったおばさん(近所2)がいる 近所1:何なのこのトラック!?どうしたの?何するの? 佐川:え、と、えー…[動揺している] 十文字:ひぃぃ、桜庭さん、どうしたらっ[同じくあたふた] そこでバッとジャケットを脱ぎ捨てる桜庭。その下はアロハシャツ 桜庭:奥さん、関係者っすか〜? 玄関口に現れる、アロハシャツにグラサンの桜庭 近所2:やだなにっ。 桜庭:差し押さえっすよ〜。このお兄さん、お金返してくれなくてぇ〜。 桜庭:[中の十文字に向かって]おら、どんどん運び出せっ。 十文字:(このためのアロハー!?) 近所1:ちょっと、家の人は知ってるのっ?今日から北海道でしょ!? 近所2:やだ私カニ頼んでるのにお金ないのー!?電話電話…。 十文字:(なにこの人たち!?)[箱をひとつ運び出そうとしながらも固まる十文字] 桜庭が佐川の方を向き、真剣な顔で 桜庭:今すぐカードを止めろっ[ビシッ] 佐川:は、はいっ[わたわたと銀行に電話し始める] 近所2:[電話片手に]ねぇ聖人君!ちょっとってばー!! 近所2が中に入ろうとするのをガードしている桜庭 近所1:ちょっとー!佐川さんち差し押さえだってー![近所中に大声で] 十文字:ややっ、やめて下さいっ。 近所1:あらこれいらないの?貰ってあげるわよ?[十文字の持っている荷物に手を伸ばす] 十文字:いるやつですっ[半泣き] バタバタ攻防していると、玄関口にカードを止め終わった佐川が出てくる 佐川:と、止めました…っ。 近所2:聖人君っ、お母さんが代わってって! 携帯を差し出してくる近所2と佐川の間に割って入る桜庭 桜庭:[佐川に向け]中にいて下さい。 すぐそこでは十文字が絡まれている 近所1:ねぇ借金ってどのくらい?何に使ったの? 十文字:え、さ、さぁ!? 近所1:あっ、最近見かけてたあの駅に女がいたんじゃない!?それとも弁護士?大人しそうな顔して影では結構なことしてたのねー! 十文字:……っ[ムッ…] 近所1:会社はやっぱりクビでしょ?いいとこ勤めててもこれじゃあ駄目よー。 十文字:〜〜っ[…ッカァァ〜] 近所1:知ってること教えなさいってば〜![十文字を掴んでガクガク] 自分を掴んでいる近所1の手をガッと掴み返す十文字 十文字:…もし。例えそうだとしても…っ[キッと強い眼で] 近所1:え? 十文字:あなた達には関係ないじゃないですかーーっ!! 佐川:!! びっくりして固まる近所1&2 十文字:(ひぃぃ…言っちゃったー!)[心臓バクバク] 佐川:十文字君……。 佐川の目の前には、母の声がぎゃんぎゃん漏れている近所2の携帯が差し出されたまま 佐川:……っ[意を決したような顔になる] そして近所2の携帯を手に取り 佐川:…もしもし。 母;あっ、聖人!ちょっとあんた一体…っ、 佐川:ぼ、僕はっ…。 佐川:僕は二度とこの家には戻らない…っ 母:は!?何言ってんの!? 佐川息を吸い込み 佐川:僕は自分の人生を生きるんだーーっ!![叫] そのまま携帯を切る佐川。表にいる桜庭と十文字に向かって 佐川:もう、何もいりません――。 佐川を見て感動している十文字 桜庭:なら行くぞ[トラックの扉の前にいる] 十文字:おーっ[箱をひとつだけ抱えつつ涙] 【act14】 数日後、ZONEの受け付け 佐川母:ちょっとー!!聖人知らない!? 十文字:(来ちゃったーっっ)[受付にいる] 母:連絡が取れないのよっ。 父:とりあえず電話貸せ! 妹:酷いんだよー、お兄ちゃんの会社に行ってみたらねー、お金持ち逃げしたんだってー[泣きながら] 十文字:(ナ、ナイス会社……)(ぐ) 母:それにあの子他でも借金してたらしいのよ!?信じられる!? 妹:旅行から帰ったら、テレビもレンジもみんな借金のかたに取られててね!? 十文字:え?(きょと) 更にやいやいと詰め寄って来る三人に、グッと腹に力を入れる十文字 十文字:ひ、酷い息子さんですねー。うちでも入会されたはいいものの、全額未払いのままなんですよー。今お手持ちございますか?[必死の笑顔] ぎゃっとなる親子三人 母:わ、私たちは無関係なんだからね! 父:聖人が来たら連絡よこすように伝えろよ! そのまま逃げ帰っていく三人に、は〜っと長い息を吐いて脱力する十文字 桜庭:やるじゃねぇか。 いつの間にか桜庭がその現場を見ていた 十文字:桜庭さんっ[半泣き] 十文字:穏便に!でも二度と来ないように!ですよね!![えぐえぐ] 桜庭:よくやった。 十文字:(よっしゃあ〜〜!!)[喜びを噛みしめる] 十文字:ところであの、テレビとかレンジがなくなったって…。 桜庭:俺達ではねぇな。 十文字:[恐るべしご近所!!][ぶるぶる] 十文字:「そうして嵐は去り、真の平和が訪れた――」 後日、受付に立っている十文字 そこに佐川がやって来る。にこやかに手を上げ、挨拶を交わす。 そこに他の会員のおばちゃん達も、口々に何か言いながら(手に手にまんじゅうなどを持ちながら)押し寄せてくる。 ひぃっとなる十文字 十文字:「あー…、平和だなー…」[汗] |
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