(1)呼吸不全 |
私たちは、ほとんどは無意識のうちに、絶えず呼吸をしています。呼吸とは、文字通り、“すうこと”と“はくこと”とから成り立ちます。吸気は気管・気管支を経て肺の末梢(肺胞)に達します。ここで、体内でエネルギーを産生するのに必要な酸素を取り入れ、不要になった炭酸ガスを捨てるという“ガス交換”が行われます。これが気管支・気管を経て呼気となって排泄されているわけです。“ガス交換”が障害されると生命の維持が困難になってしまいます。この状態を呼吸不全といいます。
呼吸不全を、経過の長さから、急性呼吸不全と慢性呼吸不全に分類することができます。急性呼吸不全は、従来は肺に重篤な疾患を持たない方が重症肺炎に懸かったり外傷を受けたりして呼吸困難や意識障害を来たす場合です。適切な治療により回復することもありますが、病勢が上回る場合は、致命的になります。一命を取り留めても、慢性呼吸不全に移行することもあり得ます。 |
慢性呼吸不全は、呼吸不全の状態が1ヶ月以上に及ぶ場合です。慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺結核後遺症、間質性肺炎などが主な原因疾患です。主症状としては、ガス交換障害によるものとしての低酸素血症、高炭酸ガス血症と、これらが慢性化して心臓に負担をかけた結果としての肺性心があります。低酸素血症では、体内でのエネルギー産生不全により、食欲低下・嘔気・頻脈・血圧低下・判断力低下・意識障害が起こります。高炭酸ガス血症では、その中毒様作用により、頭痛・不眠・錯乱・皮膚紅潮・発汗過多、さらには傾眠・昏睡が起こります。肺性心では、頚静脈怒張・浮腫・呼吸困難・体重増加・不整脈などの心不全症状をきたします。 |
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(2)COPDの日常ケア |
COPDで慢性呼吸不全を呈した場合、それらを増悪させないように生活することが大切です。日常ケアについて少しご説明します。
まず、禁煙は必須です。
呼吸法としては、口すぼめ呼吸が推奨されます。
低酸素血症に対しては、在宅酸素療法が有用です。これは多くの方が実践していらっしゃいます。ここでは、酸素流量を必要以上に大きく設定しすぎると高炭酸ガス血症を誘発するので危険であるということを、再認識していただきたい。
次に、食事療法です。慢性呼吸不全の食事としては、高カロリー・高蛋白・塩分控えめが原則です。食欲増進のためには、口すぼめ呼吸や体操・散歩などが有用です。
最後に、感染予防です。これには、規則正しい生活や趣味の活用などで免疫力(抵抗力)を高めること、うがい・手洗い・清潔などで病原体の体内への侵入を抑えること、及び適切な予防接種を受けることが大切です。
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(3)COPDの運動療法 |
もとより呼吸がしんどい人にさらに運動をして体を鍛えろというのか?という風に解釈なさらないで下さい。ここでは、スポーツ選手が行うような過酷なトレーニングを想定してはいません。まず運動の意義について、次のような2つのサイクルが知られています。
しんどいと思って運動しない⇒生活動作が不活発になる⇒気分が晴れない⇒食欲不振となり外出も億劫になる⇒筋肉が萎縮して動きにくい⇒運動しない・・・。
散歩などの運動をしてみる⇒食欲が出てくる⇒息切れが改善し生活動作が楽になる⇒外出や趣味の時間がもてる⇒筋力が増強し動きやすくなる⇒運動できる・・・。
運動療法の実際について概説します。まず、コンディショニングです。運動に耐えうる体調の下準備と言えます。口すぼめ呼吸を主体とした呼吸訓練、呼吸補助筋のマッサージとストレッチ、胸郭圧迫・伸長による呼吸介助からなります。次に、持久力トレーニングです。
平地歩行や階段昇降・踏み台昇降、 トレッドミルなどを通して全身の大きな筋群を使用したリズムを保った運動を行います。最後に筋力トレーニングです。自重や弾性ゴムバンドなどを利用して四肢・体幹の筋力増強をめざします。これらに加えて、より実際に即した日常生活動作(ADL)を行えるためのADLトレーニングもあります。これらは、医師や理学療法士の指導の下に行われるものですが、習得されれば自宅でも訓練可能です。
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(4)おわりに |
今回は慢性呼吸不全と運動療法についてお話させていただきました。ところで、なぜこのようなお話を医師は行い、皆様はお聴きになるのでしょうか?私は、みんなが元気で長生きを求めているからだと思います。では、医師は、また医学は、長生きの秘訣を獲得しているのでしょうか?残念ながら答えは否です。皆様が、経験を生かして身をもって実践していただくことを期待いたしております。
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