平和と基本的人権を守ろう仲間たちの連絡会(略称 へいき連)

声・呟きNo147            webへいき連             2023年 6月 7日

<声・呟き>

柳瀬房子氏のスーパーぶりに論議集中
-立法事実に寄与した人物を隠す法務省の慌てぶり-

柳瀬房子氏の写真  つい最近まで維新の梅村議員の耳を塞ぎたくなる暴言が支配していた参議院の入管法改正案審議は、一転して柳瀬房子 氏という難民審査参与員に関する質問で紛糾している。紛糾というよりは柳瀬氏の過去の発言や、仕事ぶりに関してあま りに不合理なことが多すぎて立憲民主党の石川大我、社会民主党の福島みずほ議員もあきれ果てているというのが実情で ある。「嘘をつくならもっとうまくつけ」というのが法務省、入管側に対する感慨である。

1.「難民申請者の中に『難民』はいない」との柳瀬発言が立法事実?

QRコード  この柳瀬房子氏は今国会で初めて議員達の質疑に登場したのではなく、2021年の国会審議にも登場していた。なぜ なら、入管法改正案の立法事実(法改正必要性の根拠)となる資料を生み出した人だからである。それらについてYouTub e放送「じゅんちゃんの哲学入門」(5月25日晩)を視聴していただけばよくわかるので、右にQRコードを掲載する。

2.問われる「難民審査参与員制度」 その1 参与員は専門家か?

難民審査参与員とは  前項で紹介したYouTube放送は5月25日の質疑であったが、他日の質疑では複数の難民審査参与員が参考人で発言し た。そこでは2つの問題が焦点になった。一つ目は「難民審査参与員」(以下、「参与員」とする)は専門家なのか、と いうこと。二つ目は111人・任命されている参与員はどのような仕事をしているか、ということである(参与員につい ての説明は右参照のこと)。
 まず、参与員は専門家なのだろうか。5月23日の法務委員会では川村、阿部の両参与員経験者が呼ばれた。彼らの話 を総合すると、法務省は専門家を参与員にしている、との考えだが、任命された参与員自身は「難民認定手続に関する経 験や知見を持たないで任命された」との感想を持っている。この参与員経験者の発言を裏付けるのが「研修の必要性が入 管内部でも課題となっている」ということだ。そして23日の議論の中でも小尾参考人は「参与員だけでなく入管職員や 通訳者も含め、難民認定手続にあたる人は研修を受けるべきだ」と強調した。


3.問われる「難民審査参与員制度」 その2 一人で4000件を審査した?

柳瀬房子氏は「難民を助ける会」名誉会長である。柳瀬氏は2006年から参与員になっている。制度自体は200 5年からなので、最古参と言ってよい。この柳瀬氏は2021年の入管法改正案審議の時から「日本の難民認定率が低いのは、 その分母である難民申請者の中に難民がいないからだ」と発言していた。そして法務省は柳瀬氏の意見を「立法事実」と したというのである。なるほど、難民申請者の中に難民がいなければ、三度目の申請をしたら、強制送還してもよいこと になる。だが、今その柳瀬氏の言動から立法事実が崩壊しようとしているのだ。
 それは111名いる参与員の仕事の偏りである。柳瀬氏だけでその年度の総審査数のなんと20%を超える件数をこな したというのだ。それは日弁連調査の数字を大きく上回る数字である。また、参与員の中には全く審査を担当しなかった、 という人もいるのである。法務委員会での入管側の説明は内部事情というだけで、まったく透明性を欠いた不誠実なもの である。
 なによりも不誠実なのは、法案を国会に提出し審議を尽くしてもらう立場の入管庁、法務省がデータを開示せず、それ どころかデータなどないと開き直る点である。

4.参院法務委員会での攻防は「柳瀬氏の証人喚問」

現在、SNS上では「#柳瀬難民審査参与員の証人喚問を求めます」といハッシュタグであふれている。これはもち ろん野党が参院法務委員会で要求していることである。なお、柳瀬氏は国際NGO「難民を助ける会」の名誉会長を務め ているが、同会は会長名で「柳瀬氏は個人の資格で参与員をしている。また本会は難民認定作業に関する知見も経験もな い組織なので、難民認定に関する意見は差し控えている」との声明を出している。同会の仕事とは、紛争地などに作られ たテントでの活動、あるいは「紛争地での国内避難」という過酷な状況にある「まだ難民にもなっていない人々」を助け る、ということだと理解している。だから、この会での活動経験があるからと言って、難民認定の専門家とするのは全く 根拠がないと考える。

5.柳瀬房子氏の衝撃を上回る浅川晃広氏の登場

浅川晃広氏の写真 5月25日参院法務委員会にはもっと強烈な参考人が登場した。この人物はやはり参与員を務める浅川晃広氏である。こ の人は「ザ・在日特権」という差別的書籍の共著者でもある。彼はなんと、10年で3800件もの審査をしたとのこと である。そのほとんどについて「出身国情報」というものを見なかった、と言うのだ。「出身国情報」というのは極めて 重要なのは聞かなくてもわかるくらいだ。
 だがあえてその重要さについて一例をあげれば、日本では考えられない状況があるということだ。「夫が交通事故で死 んだ。その夫の親類から危害を加えられようとしたので国外に避難した」という事例である。これは日本では難民不認定 の例だが、同じような事情で、同じ国の出身者がヨーロッパのある国では難民認定されているのである。つまり日本では ありえないことでもその国の国情、習慣、宗教事情などで全く判断が異なるのである。もちろん当事者を出身国に返せば 「生命の危険がある」と判断したから難民認定されたのである。
 浅川参考人はその出身国情報を全く見もせず、難民不認定の結論を量産していたのである。

6.衆議院法務委員会での審議は「茶番」だったのか?

このように参院法務委員会では政府案の立法事実に重大な疑義が生じている。なぜ衆議院では目立った論議もなく原案通り可決されてしまったのだろうか。一説では参議院では専門知識を有する議員が多い、と言われている。しかし、それは理由にはならない。人権という極めて重要な案件に触れることが多い法務委員会で、衆議院の場合、そのことに与野党含めて全く鈍感であったと私は断じたい。現在、れいわ新選組の櫛渕議員の懲罰が可決されている。「与党も野党も茶番」というプラカードが理由とのことだ。だが私はあえて言いたい。こと法務委員会入管法改正案の審議に関しては、衆議院では与党も野党も「茶番」だった。もっとまじめにやれ、というのが私の感想である。

次回は仮放免者、収容者と支援者を分断する改悪案、「管理措置制度」について報告します。

2023年 5月27日 殿山梧楼