平和と基本的人権を守ろう仲間たちの連絡会(略称 へいき連)

声・呟きNo146            webへいき連             2023年 6月 6日

<声・呟き>

支援者と要支援者の外国人を分断
-だれも望まない「監理措置制度」-

QRコード、斎藤法務相、不可能を言い間違	え較  6月21日の会期末を控え、入管法改正の参院での審議もいよいよ終盤に入った。ところが、5月30日、斎藤法務相 は今まで立法事実の重要な部分としてきた柳瀬難民審査参与員の「1年6か月で500件の対面審査」について「不可能と言 おうとしたものを『可能』と言い間違えた」と言いだした。
 そしてもう一つの新たな問題は、今年一月に入管および斎藤法務相が把握していた大阪入管での酔いどれ女医の問題で ある。どちらも改正案審議において、終盤である今、明らかになったことである。
QRコード、大阪入管で酔いどれ女医発覚の件
	 これについてはYouTube「哲学入門チャネル」で国会の質疑を切り取って放送したものがあるので、QRコードを右に紹 介するので視聴してください。
 ここでは入管改正のもう一つの大きな問題点である「管理措置制度」の導入について述べる。これはごく最近、仮放免 者の逃亡が増えた、という入管の主張を立法事実としている。それについて、人権派の橋弁護士の主張を紹介する。

    

(下記は入管法改正の主なポイントの表)
入管法改正の主なポイントの表

1.建前としての「全件収容」と実情としての仮放免者の増大

監理措置制度  在留資格がない外国人を全員入管の施設に収容する。これを「全件収容主義」と呼んでいる。だがこれは建前であって、 全件収容するほどの能力は入管にはない。そこで一定数の外国人を仮放免として社会に放置されることになる。在留資格 がないことを理由に就労を禁止し、居住する都道府県の外に移動する自由を制限する。医療保険などのセーフティーネッ トもないのである。だから私はこれを「放置」と言うのである。
 放置された仮放免者は家族やそれ以外の支援者が必要となる。この支援者に仮放免者を監督させるのが「管理措置制度 の導入」の目的である。

2.入管が提起した「監理措置制度」の必要性とは

 大橋(おおはし)毅(たけし)弁護士は「移民・難民の排除ではなく、共生を」というサイトで意見を発表している。 (下記のWebにて大橋氏の意見参照可能) https://www.openthegateforall.org/2023/05/blog-post_24.html
 それによると、入管が提起した必要性、これを立法事実というのだが、それによれば仮放免中の逃亡者が、令和4年だ けで599人から1400人と増加した(下図赤い□部分)というのだ。
 これが仮放免制度の欠陥によるものではないと大橋氏は批判している。
 大橋氏の指摘によれば、増加したのは出身国がベトナム、あるいはタイの外国人が多いという。在留資格を失うことを 「オーバーステイ」というが、多くの技能実習生(実態は労働者)が職場から姿を消す事態が続出した。彼らの多くが出 頭しない事態となった。つまりは技能実習制度の欠陥である。大橋氏は統計の数字を証拠に入管が提起した立法事実を否 定しているのである。
 また、大橋氏の主張通りであれば、オーバーステイ発覚時にはすでに逃亡しており、監理者を付けてから仮放免を認め るという建付けの「監理措置制度」は実態にそぐわないことも明らかだろう。なお、同じ時期での難民申請者で逃亡した ものはいないという事実も挙げている。
 大橋氏は監理措置制度が逃亡を防ぐ効果に疑問を呈する。家族以外の支援者は仮放免者と同居しないのだから、監視す ることが困難だからだ。また統計上、難民申請中の仮放免者の逃亡はない、と言っても過言ではない。私はそれと同意見 であり、また家族と同居している仮放免者も逃亡の恐れなどないのだから、管理措置制度が逃亡の防止になる根拠などな いのである。

ベトナム国籍者の動向

3.誰も望まない「監理措置制度」をどうやって実現しようというのだろう?

監理措置制度の重大な欠陥は、監理者になる人が極めて少ないということだ。東京新聞(4月20日)はその点を 鋭く批判している。記事によればNPO法人「なんみんフォーラム」の調査では92%が管理措置制度を評価せず、90 %が監理者にはなれないと回答した(調査対象:弁護士、行政書士、支援者)。とくに弁護士、行政書士は業務で支援し ているので、入管への報告は「利益相反」になる可能性が高い、というわけだ。それでは次に管路措置制度導入の目的が、 外国人差別=排除ありきのシステムであることを述べたい。

4.「排除型社会」(ジョック・ヤング)に学ぶ「論座」稲葉剛氏の主張

2021年12月28日の朝日新聞「論座」に稲葉剛立教大学教授が入管を批判している。題して「入管庁はまだこんな 使い古された手口を使うのか~『排除ありき』の政策押し通す印象操作」。
 2021年と言えばコロナ禍の真最中である。ホームレス支援団体が外国人支援団体と連携することが多くなってきた 時期、入管庁が示した「現行入管法の問題点」という資料を発表した。稲葉氏はそれが「使い古された手口=印象操作」 と批判した。その年は入管庁が提出した「入管法改正案」が廃案となった年である。だから、稲葉氏は「法案再提 出」の布石だ、とも言う。

5.稲葉氏が言う「使い古された手口=印象操作」を彷彿とさせる30年前の出来事

1980年後半から90年代、当時、日本には30万人を超えるオーバーステイの外国人がいた。当初はオーバーステ イとか不法就労ということさえ問題視されなかった。バブル景気時期の当時は経済界からも外国人労働者は歓迎され、い わゆる「3K」の仕事を中心に彼らは重宝された。それがバブル崩壊に直面するやこれらの外国人は「治安問題」として 認識されるようになった。
 警察などの治安当局は勿論だが、恥ずべきことにこの頃もマスメディアがこれに加担していた。当時はイラン人が多か ったのであるが、彼らをマフィアなどと呼び、不法滞在、不良外人などの言葉が蔓延したのである。そして現在、渋谷の 宮下公園からホームレスを追い出した手口同様、代々木公園を「植栽工事中」ということで閉鎖し、外国人を締め出した のである。稲葉氏は「特定グループを『悪魔』に仕立て上げる「モラル・パニック」とこの頃の事象を定義した。。

6.日本は「排除型社会」を目指すのか? モラル・パニックの跋扈を許さないぞ

英国の社会学者ジョック・ヤングは「モラル・パニックを起し」、移民を「悪魔に仕立て上げる」プロセスにおい て「排除型社会」(洛北出版社)で次のように語る。
 「そのとき、移民たちが起こした犯罪がどんなものであれ、マスメディアでおおげさに問題視されていく。そして「不 法」という属性こそが、かれらが犯罪者であることを示す「最大の特徴」とみなされていく。そのために、ありとあらゆ る犯罪がかれらのせいにされるようになり、「かれらが不法な犯罪者になるのは当然だ、それはかれらが不法移民だから だ」というトートロジー(同義反復を用いた修辞技法〈レトリックともいう〉)がまかり通るようになる。」
 移民の先進国の英国から私たちはこのようなことを教訓として学び取る必要性があるのだ。 注:ここでいうトートロジーとは、メディアだからできることだが、間違った内容でも繰り返し書くことで、大衆はそれ が真実だと思い込まされることだ。そのことをヤングは「トートロジー」と言うのだろう。元々トートロジーとは修辞技 法(レトリック)のことで、それ自体は良いものでも悪いものでもない)

7.まとめ

法務省は「管理措置制度」導入の目的を仮放免中の逃亡者が増えたことを理由とした。また逃亡者が増えた原因を 「難民申請中は強制送還できないから、逃亡者が増えた」と虚偽の理由を捏造し、これを立法事実としている。これは 「難民申請3回目は強制送還」いった法律改正の立法事実ともなっている。
 柳瀬難民審査参与員のことは繰り返しになるので多くを述べないが、こういった立法事実による入管法改正案を審議す るのに、それらに関する統計的数字を隠すどころか、「統計を取っていない」と開き直るのである。 入管法改正もマイナ新法も、防衛予算拡大も同様であるが、今国会で成立を目指した悪法のすべては同じやり方である。 そして私が声を大にして言いたいのは、野党は毅然とした反対の声を上げていない、ということだ。とくに衆議院ではす べてが腰砕けであった。このことに断固抗議したい。
プラカードを持つ野党時代の自民党議員  私はれいわ新選組の支持者ではないが衆議院での櫛渕議員の懲罰は明らかに不当である。むしろ「闘う野党の再構築」 をプラカードに書いた櫛渕議員の行為を称賛したい。プラカード自体は自民党も野党時代に大いに活用していた弱小政党 いじめ、といっても過言ではない。このことも併せて抗議したい。

2023年 6月 4日 殿山梧楼