スタートレックの多様性
スタートレック私論
スタートレックがTVドラマとして、どんな点がすぐれているかを考える時、最近、その多様性にあるのではないかという感を強くしている。
思うにスタートレックには3つの多様性があるように思う。
その1つは、「魅力の多様性」。
設定の魅力・・・惑星連邦(クリンゴン帝国、ボーグetc)、転送、ホロデッキ、ワームホールなど、スタートレックには、魅力的なSF的アイデアがいろいろ詰め込まれている。
脚本(ストーリー)の魅力・・・すぐれたSFドラマであり、かつ、すぐれた人間ドラマになっている。また、戦争・差別などの重いテーマを扱うこともあるが、全体として、希望に満ちた、明るい未来を描いている点は、他のSF作品とは一線を画している。
キャラクターの魅力・・・熱血漢のカーク、論理と感情の間でゆれるスポック、人間味あふれるアンドロイドのデイタ、クルーの親父的存在のピカードなど、魅力的なキャラクターが多く、トレッキーそれぞれにお気に入りのキャラクターがいることだろう。Q・ラクサナ=トロイ、旅人、サレックなど、ゲストキャラにも魅力的な人が多い。
キャストの魅力・・・力強い演技のW・シャトナー氏(カーク)、シェークスピア俳優のP・スチュワート氏(ピカード)、アンドロイドを個性たっぷりに演じるB・スパイナー氏(デイタ)など、かなりの役者揃いである。L・ニモイ氏(スポック)、J・フレイクス氏(ライカー)など、俳優だけでなく、監督業などもこなす、多才な人も多い。
SFXの魅力・・・TVドラマでありながら、映画にも劣らない、すばらしいSFXがふんだんに使われている。
デザインの魅力・・・エンタープライズを初めとする宇宙船の数々、多種多様な異星人のメイク、クルーのユニフォーム、コンソールパネルの独特のデザイン(いわゆるオクダグラム)、フェイザー・トリコーダー等の小道具の数々など、魅力的なデザインがいっぱい。
セリフの魅力・・・見るものの心を打つ名言、思わず笑ってしまう迷言など、粋なセリフが多いのも、スタートレックの魅力の1つ。(その分アクションが控えめではある。)
音楽の魅力・・・ジェリー・ゴールドスミス氏をはじめ、その音楽は、美しく、格調の高いものが多い。クラシックも効果的に使われている。哀愁ただようカターンの曲が好きだという人は多いのでは?(私もそうだ)
2つめは、「テーマの多様性」。スタートレックのエピソードでは、実に様々なテーマが採り上げられている。
たとえば、
戦争・・・「不実なる平和」(TNG)、「謎のカーデシア星人」(DS9)、「殺人兵器メトリオン」(VOY)
差別・・・「惑星セロンの対立」(TOS)、「惑星アーダナのジーナイト作戦」(TOS)、「クワークの母」(DS9)
宗教・・・「クリンゴン神カーレスの復活」(TNG)、「選ばれし者の困惑」(DS9)、「来世への旅」(VOY)
異文化理解・・・「錯綜した美学」(TNG)、「謎のタマリアン星人」(TNG)、「決別の儀式」(TNG)、「究極のパートナー」(TNG)、「ワームホールから来たエイリアン」(DS9)
機械文明批判・・・「ベータ・スリーの独裁者」(TOS)、「コンピュータ戦争」(TOS)
麻薬・・・「禁断の秘薬」(TNG)
労働問題・・・「ロムの反乱」(DS9)
環境問題・・・「危険なワープ・エネルギー」(TNG)、映画「ST4:故郷への長い道」
性・・・「両性具有ジェナイ星人」(TNG)、「繁殖期エロジウム」(VOY)
生命・・・「機械仕掛けの小さな命」(TNG)、「バライルの死」(DS9)、「星に死の満つる時」(DS9)
恋愛・・・「恋のセオリー」(TNG)、「ギャラクシー・ロマンス」(TNG)
家族愛・・・「悲しみの幻影」(TNG)、「宇宙孤児ジョノ」(TNG)、「戦士の休息」(TNG)、「心のダークサイド」(TNG)、「父と子」(DS9)
人生・・・「運命の分かれ道」(TNG)
生命の起源・・・「命のメッセージ」(TNG)
また、作風として
コミカルなもの・・・「新種クアドロトリティケール」(TOS)、「DEJA Q」(TNG)、「ドクター・ノア」(DS9)
ミステリー調のもの・・・「空白の一日」(TNG)、「謎の蒸発事件」(TNG)、「宇宙ステーション殺人事件」(DS9)
ホラーっぽいもの・・・「惑星アルギリスの殺人鬼」(TOS)、「愛の亡霊」(TNG)
などなど。
これだけバラエティに富んでいると、どこかに自分の興味・関心や好みに合ったものがあるだろう。カークの声の矢島正明氏がスーパーチャンネルに寄せたコメントでスタートレックについて「自分の問題意識を重ね合わせれば、何でも答えが出てくる」とおっしゃっているのは、このテーマの多様性のことだろう。
ちなみに、戦争や宗教については、DS9でしばしば扱われている。それと、恋愛についてはTOSでしばしば扱われている(?)。
3つめは、「キャラクターの多様性」。スタートレックには、様々な人物が登場する。
白人・・・カーク・ピカード・ライカーなど
黒人・・・ウフーラ・ラ=フォージ・シスコなど
ネイティブ・アメリカン・・・チャコティ
東洋系・・・スールー、キムなど
アラブ系?・・・ベシア
異星人・・・スポック、ウォーフ、クワークなど
その他・・・デイタ、ホロ・ドクターなど
これだけいろいろな人(でない者もいるが)が登場するだけでなく、お互いの異なる存在を尊重しようとする精神が、スタートレックには一貫してある。それは、ヴァルカン哲学のIDIC(無限の結合における無限の相違)にも象徴されており、映画「スタートレック/叛乱」でも扱われていた艦隊の規約(第1級優先事項、内政不干渉の原則)にも表れている。多様な存在、多様な文化を認めようという考え方が、スタートレックにはある。
付け加えて言えば、SFとはいえ、艦隊のキャプテン(主人公でもある)を黒人(シスコ)や女性(ジェインウェイ)が演じているということは、社会的に大きな意味があるように思う。
これらの様々な多様性(言い換えるなら、スタートレックのもつ懐の深さ)が、多くの人々を引き付けてやまない大きな理由の1つだろう。
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