「この二人は私の客人です。何故このような乱暴を働いているのか、言い訳ができるのなら聞きましょうか。もっとも、そちらの方は私が存じ上げぬ方のようですが、この夜分に何用でしょうか?」  銀星が毅然と言い放ち、次いでばたばたと急いた足音が聞こえてくる。 「銀星様! 蔵が荒らされておりました!」 「何を盗られ、何が壊れたか調べなさい。後で確認します。これで少なくとも厠の前でたまたま喧嘩になったなどという見え透いた言い訳は聞き届けることはできなくなりましたが、お二方とも、よろしいですね」  女と見まごうばかりと評判の少年は、今は家を背負って立つ一人の男の顔になっていた。痛む身体を起こしながら、こがねは息をつく。ほうきを床に捨て、青葉が駆け寄ってきた。大丈夫か、との問いに頷いて答える。 「私が見たの……ここだったんだ……」  安堵が体中に染み渡る。男達は逃げ場を塞がれ観念したように佇んでいた。 「こがね……?」  青葉の声が遠くに聞こえる。  極度の緊張からようやく解放されたこがねは、せっかく起きあがったというのに再び床にころりと転がっていた。  遠くで何だか騒いでいる声が聞こえたけれども、それすらも子守歌である。  その日、こがねは久しぶりに気分の良い夢を見た。こがねと青葉が星雲堂で働く夢だ。星雲堂名物彩花団子、買ってさっそく一本食べて美味しいと笑う子供。売り子をしているこがねも嬉しくなる。奥では青葉が帳簿をつけていて――  それは、とても幸せな夢だった。  かくして、こがねの幸せな夢は現実となる。  数日後、銀星はこがね達の住む長屋を家族分の彩花団子をお土産に尋ねてきた。  気が緩んだこがねが卒倒したおかげで大騒ぎになってしまったのだが、実のところ二人は危ない橋を渡ったにもかかわらず大した怪我をしていない。こがねが額と腕と足に擦り傷を、青葉がところどころにあざを作った程度である。 「茶議会に携わる貴族には、中級であっても黒羽織が献上されるのですけど、その条件のひとつとして跡継ぎが健在なこともあるのですよ」  こがねは気絶してしまったので、結局謎のままだった犯人達の目的を、銀星は何でもないことのようにさらっと語る。  この彩華国の国政を取り仕切る茶議会の参加権利は、一つは上級貴族であること、もう一つは上級貴族から様々な選定によって認められた中級貴族であることだ。星雲堂も家格は中級ながら、黒宮にも品を卸す和菓子の老舗として、黒羽織を賜っている。  議会は茶会の形式で行われるがために、国の長である黒氏、信仰の要である白氏、国の有力者である上級貴族をもてなす和菓子卸はそれなりに厚遇される立場である。 「菓子卸や幡屋は職人仕事を認められて議会へ呼ばれているわけですから、跡継ぎのいない当代限りの家は資格を失います。あの男達は恐らく他の中級貴族で菓子卸を営む家から金を掴まされたのでしょう。愚かなことです」  銀星が語る間、末妹が物欲しげな顔つきでだんごの包みを見つめていた。視線に気が付いた銀星が包みを開き、どうぞ、と串を一本差し出す。 「ありがとう、きぞくのおねえちゃん!」 「こ、こら、お兄ちゃんだってば!」  こがねは妹を叱りつけるが、妹も銀星も気にした様子はなく「ありがとう」「どういたしまして」と微笑ましい会話を交わす。 「それで本題なのですが、よろしいでしょうか?」  銀星はこがねでも青葉でもなく、両親の方へと向き直る。用件は先日の件へのお礼だと聞いていた彼らは、戸惑いながら顔を見合わせた。 「もしこがねさんと青葉さんを今後どこかへ奉公に出すおつもりでしたら、ぜひうちで預からせてくださいませんでしょうか?」