萩生寺の本堂と佛眼
古くから「目は口ほどにものをいい」また、「目は心の窓」などという諺がありますが、目は顔の中で、最も表現豊かな部分だといっていいでしょう。
それだけに、「目を見れば相手の心が解る」といった言葉にも真実味はあると思われます。人相学でも目に関する説明が多いように、女性のお化粧でもファッション性が豊かで、難しいのが目の化粧だと言われてます。画家が動物の絵を描くとき、最後の仕上げに目を描くのも意味のあることです。この様に目は、目を見る側からも、目を見られる側からも重要な部分です。
私たちは、目を心の動きとは別に表現しようとしても出来るものではありません。そこで、心の目を心眼といいます。佛具の中に、木魚(もくぎょ)というものがあります。木魚を叩きながらお経を読むのですが、「魚の目のように何時も心の目を開いていなさい」という戒めの意味で何時もも眼を開いている魚の目が模様化されているのです。
密教で、あらゆる佛の母といわれる佛眼尊(佛眼佛母)は、五眼の徳をもった佛智(佛さまの智恵)を象徴しているといわれています。五眼というのは、肉眼、天眼、慧眼、法眼、佛眼のことです。五眼について「大智度論」というお経の中に「肉眼は近くを見て遠くを見ず、前を見て後ろを見ず、上を見て下を見ない。天眼は、前後、上下、遠近は見るが物の実相(真実)を見ない、慧眼は、真実を見抜き智恵を得ているがその智恵が自分一人の内にとどまっている。法眼は、自分や人々のそれぞれの立場において何をすれば良いかを見ている。佛眼は、万物の普遍性に通じている。」と説かれています。難しい事のように聞こえますが、こせこせとした物事にとらわれることなく、物事の真実を見極めていく眼力を段階をおって説いているのです。しかし、肉眼だけでも、天眼や佛眼だけでも物事の真実は見ることは出来ません。五眼をもってはじめて、物の真実を見極めることが出来るのです。本堂の佛眼は、ネパールにあるボードナートの寺院やチベットの寺院に描かれた眼をヒントにデザインしたものです。佛眼には、注意深く万物を見透うす眼力を表現し、鼻には、人間の探究心を象徴する疑問符を表現しています。
私達が生まれ育った、宇宙の中の一惑星、地球、そこにはエネルギー問題を始めとして、地球の環境汚染、食物問題、民族間問題など、数多くの難問がかぶさり、私達を囲む人間社会は又数多くの喜怒哀楽を現しています。私達人間社会は、与えられたより大きな宇宙の中にのみ存在し、常に未知の世界に向かって進んで行くとき、そこには確かな目でものを見、判断していく眼力が必要です。
全ての人が、自らの眼を肉眼としてだけではなく、佛眼にまで高めていって欲しいという願いから、本堂の佛眼は描かれています。
両面大師(お御影と秘鍵大師)
真言宗の宗祖さまである弘法大師さまは、承和2年3月21日寅の刻の高野山の中院現在の龍光院で入定されました。
お弟子さんたちが、お大師さま入定の後のお姿についてお尋ねになったとき、お大師さまは左手に念珠を右手に五鈷お持ちになって加持するお姿を示されました。襖の陰から真如親王さまがこのお姿をお写しになったものが、高野山の加藍にある御影堂におまつりされています。
お大師さまが入定された後のお姿は、お御影として一般的に知られているものです。
右手に錫杖つき左手に鉄鉢をお持ちになった托鉢姿の修行大師もよく見かけるお姿です。
この他に、秘鍵大師と呼ばれるお大師さまのお姿があります。剣をお持ちになったお姿です。お大師さまが「般若心経」を解説された「般若心経秘鍵」のなかで、「文殊の利剣は諸戯を断つ 覚母の梵文は調御の師なり チクマンの真言を種子と為す 諸経を含蔵せる陀羅尼なり」と述べられています。文殊の利剣とは、文殊菩薩さまがお持ちのなっている剣のことで、諸戯というのは為にならない言論や判断のことです。チクは般若菩薩さまのこと、マンとは文殊菩薩さまのことです。陀羅尼は、教えのエッセンスをこめた呪文のことです。
お大師さまは般若心経秘鍵のなかで般若心経はあらゆるお経のエッセンスを含んだもので、全てのものごとを正しく理解し悟りに到る為の最も重要な要素である、般若と知恵の教えであることを説いておられるのです。
秘鍵大師のお姿は、お大師さまが文殊の利剣をお持ちになったお姿です。利剣は利生(りしょう)のことで、お大師さまが文殊菩薩の三昧耶に入り、文殊菩薩となって衆生を利益する誓願の象徴的なあらわれなのです。
両面大師は、日本で萩生寺だけにある珍しいお大師さまのお姿です。平成5年に発願し建立されました。
日本に一つの地下霊場
地下霊場には、インド四大佛跡であるルンビニー・ブッダガヤー・サルナート・クシナガラのお砂、中国西安の青龍寺のお砂、日本の西国三十三観音霊場と四国八十八ヶ所霊場のお砂と木彫のご本尊さまが安置されています。
ルンビニーは、お釈迦さまがお生まれになった聖地です。ブッダガヤーは、お釈迦さまが苦行の末お悟りを得たところです。サルナートは、初転法輪ともいわれるところで、お釈迦さまがはじめてお説法をされたところです。また、クシナガラは、お釈迦さまが涅槃に入られた聖地です。
中国西安の青龍寺は、弘法大師空海が恵果阿闇梨から密教を授けられたところです。西国三十三観音霊場は、大和長谷寺の徳道上人によって奈良時代718年に開創されました。西国三十三観音霊場の開創から遅れること約百年後に四国八十八ヶ所霊場が確立されたといわれています。
萩生寺の地下霊場は、萩生寺住職がアジアの佛跡を遊学したときに集めたお砂や、西国三十三観音霊場、四国八十八ヶ所霊場を参拝して収集したものです。
皆様に地下霊場を参拝しながら踏んでいただき、遠方まで出かけられない方々に、インド・中国・日本の佛跡や、霊場を参拝したに等しい功徳を戴いてもらおうとつくられた地下霊場です。
地下霊場は、本堂の周囲約百米の地下回廊に設けられています。機会があれば是非ご参拝下さい。