音楽歴

その5

ノルウェー
時代 3
新学期。今度はチェンバロ科の学生としてである。(器用貧乏、ここに極まれり)
日本から帰ってきてすぐに声楽の公開試験の伴奏でチェンバロを弾くことになっていた。練習はできていたが、本番当日の調律のことをすっかり忘れていて先生に怒られた。(チェンバリストは自分で調律するのである・・・カルチャーショック!先生は私が忘れるであろうことを見越して?代わりに調律して下さってました。。。)それ以来チェンバロの調律についてはちょっと神経を配るようになり、現在も演奏の機会があると先ず「調律」の打ち合わせをするようになった。

学校ではチェンバロのレッスン、バロック・アンサンブルの他、室内楽でピアノトリオとピアノ5重奏、相変わらず伴奏もいっぱい抱えていたのでけっこうてんてこ舞い。
この時期オケの仕事も(ありがたいことに)多く、合唱団の練習ピアノとカルチャーセンターでなんと日本語の講師もしていたので、どうやって練習していたのか今となっては記憶にない。たしか体はガタガタ(腰痛と腕の痛み)、あちこち飛び回りその合間をぬって練習室を予約し・・・という感じか?まあ忙しいうちが華、と頑張った。

室内楽ではやはりピアノはやめられない、と1年目はベートーベンのピアノトリオ「幽霊」、シューベルト:ピアノ5重奏「ます」となんと2曲も。大変だったが窓の外に降る雪を見ながら「ます」の2楽章など合わせていると、な〜んて幸せでしょう、とうっとりとした気分に浸っていたことを思い出す。他に現代曲でハーゲルップ・ブルのピアノ、ヴァイオリン、フルート、チェロのアンサンブルもどさくさに紛れて弾かされた。(休み明けに有無を言わさず楽譜が届いたのである!)

2年目は前の年に課題が多すぎたことを踏まえ、ブラームスのクラリネット・トリオ1曲に絞った。(すると何故か歌の伴奏が増えた。。。バランスよく出来ているようである)ブラームスは好きで好きでたまらないので、この曲も難しいけれど楽しくてしようがなかった。このトリオは試験の他にもグリーグ・ホールのホワイエや演奏旅行でローゼンダールの男爵の館でも演奏して、思い出に残る曲の一つである。

チェンバロでは何しろほぼ初心者なもので、バッハ、クープラン、スカルラッティ等まんべんなくレッスンを受けた。特にフランスものは好きなのだが独特のリズムとアーティキュレーションが体になかなか入らず、難儀した。バッハは日本であれだけ苦労し(大学の副科ピアノ試験でフーガがわからなくなり、輪廻転生、堂々巡り状態になった苦い経験がある)、聴くのは好きだが譜読みも暗譜も苦手で、そんな私がよりによってチェンバロ専攻とは、と自分でもあきれながら修行した。実はもっと明るく軽いヘンデルが好きで、レッスンにこそっと持っていったりしたが、先生いわく「バッハは何を差し置いても必修!」とのことで常に弾いていた。

チェンバロレッスン室は学校の建物の秘密の抜け道といおうか、裏側にひっそりとあってしかも狭く、暗かった。しかしそれがかえって独特の雰囲気を生み、なにか神聖な空間のようであった。練習も集中できた。あまりに集中していると人が入ってくるのに気が付かず、声をかけられると飛び上がるほどビックリした。(向こうも驚いたであろう。)

バロック・アンサンブルの授業はとても面白かった。通奏低音の勉強がしたかったので、どんどん来る課題に鍛えられた。リコーダー、ギター、声楽、弦、トランペット等いろいろな楽器の組み合わせも興味深く、指定の楽器はもちろんのこと、演奏効果を考えてその場で組み合わせを替えたり(この楽章はチェンバロ、次の楽章はオルガンで、など)即興演奏もあり、非常に勉強になった。

2年間で演奏した曲はテレマン:ヴァイオリン・リコーダーのためのトリオ・ソナタ、2本のリコーダーのためのトリオ・ソナタ、フルートとリコーダーのためのコンチェルト、教会カンタータ、トランペットのためのコンチェルト、バッハ:カンタータBWV106(初めてオルガンを弾いた)、ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ、ヘンデル:コンチェルト・グロッソ、ヴィヴァルディ:グローリア、コレルリ:コンチェルト・グロッソ、C・P・E・バッハ:2台のチェンバロのためのソナタ、他にもまだまだあったように思うけれど。。。(忘れた)

ソロでは1年目の試験はクープラン:第3組曲より6曲、バッハ:平均率第1巻よりト長調のプレリュードとフーガ、スカルラッティ:ソナタ4曲(作品番号記述なし)。仏・独・伊のラインナップですね。
2年目、最後の試験ではフィリップス:パッサメッツォ・パヴァーナ、ガリヤルダ・パッサメッツォ、バッハ:イギリス組曲第3番、スカルラッティ:ソナタ3曲(K.84 K.208 K.119)。こちらは英・独・伊。この時のプログラムはものすごく好きな曲ばかりで、やる気満々で取り組めた。

1年目はものすごく緊張したうえ腕を痛めていて(室内楽の試験の負担が大きかったので・・・)思うように弾けなかったが、2年目は自分としては会心の出来映え。いつも引っかかるところが何の苦もなくスラッと弾けて自分でビックリした。特に最後のスカルラッティは自然と音楽に引っぱられるようにスイスイ弾け、終わった後感極まって涙が出た。もちろんこれでノルウェー最後の演奏という感慨もあった。通算何回このホールで試験やコンサートに出たのであろうか・・・(試験は人の倍は受けてます ^^)スウェーデンから来た試験官にとても良い評価をもらい、私の7年の留学生活は終わったのである。(長かった・・・)

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