まどろみ
心地よい空間。
なんともなしに身体の力を全て抜き去って、
肌を撫でるようなくすぐったくも、気持ちいい空気に身を、全てを任せた。
目を閉じているのか、開いているのか分からない。
どこにいるのかも分からない。ただわかるのは、
自分がここに「居る」ということだけ。
ここで「生きている」ということだけ。
そして、
多分それが分かるのは感じられるのは、
いつも「あの人」が側に「居る」から。
隣りで「生きていて」くれるから。
その全てを感じながら、水の中を泳ぐ魚のように、
悠然とその空間を漂う。
と、
どこかで空間が歪み、波紋のように広がって何かが侵入してきた。
それは、そっと頬を撫でる。
優しく、あやすように、
そして慣れた手つきで這わせた。
そこで、ふと意識は覚醒する。
うつ伏せの身体を起こして、
見上げれば一人の青年が微笑んでいた。
「起こしてしまった?」
穏やかな声に、
千尋は首を横に振る。
「ううん。なんか、自然と目が覚めちゃった」
青年、ハクがそっと手を引いたのをみて、
先ほど感じた頬を撫でる感覚は、
彼が撫でていたからだと気付いた。
「ハクの手のひらって、気持ちいい……」
そのまま、膝の上に投げ出された、ハクの手のひらに頬をすり寄せる様に、
また瞳を閉じる。
彼の手のひらはまるで女の人のように繊細で、きめ細やかで、
その肌触りもとてもいい。
けれど、それでも彼の手は男の人のもので、
しっかりとして千尋の頬を受け止めていた。
「冷たいのに、あたたかくて……ほっとする。なんだか不思議な感じがして……」
甘えるようにこすり付け、
感じたままを口にしていく。
やがてそれは、先ほどのまどろみを呼び覚まさせていった。
「側に……いてくれるよね?一緒に生きていってくれるよね??
ずうっと、……ずうっと………」
奪われる意識。けれどそれは新たな意識への覚醒であって、
再び、あの心地よい空間へと誘うものであった。
「うん……私は、いつでもそなたの側にいよう。隣りで、
共に生きていこう。ずっと、死ぬまで……否」
言葉を切り、空いている手で少女の髪を撫でる。
「死んでからも、ずっと……」
妖艶に微笑み身を屈めて、
髪を掻き分けて現れたその耳元へ、言葉をそっと落とした。
けれど、千尋はすでにもう一つの世界へと意識を飛ばしており、
彼女へとその言葉が届くことはなかった。
「私は、はなさないから、ね?」
両の手で少女の命を抱えている感覚。
あたたかく、そして生々しい命の鼓動。
それを感じながら、彼女の後を追うように、
竜の青年もまどろみへと足を入れる。
深いまどろみは、お互いの命を近づける。
お互いの存在を感じ、そして同じ時間を共有する唯一の場所―――。
【2002/08/11】
すっごい短編です(^^;)
設定がよくわかりませんねぇ〜あははは(笑い事かっ)
最近リン姐さんを登場させたいな〜と思ってるんですけどね、
なかなか思い浮かばなくて(--;)
しばらく練らせてください。
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