星渡り
「わぁ〜きれい〜〜〜」
夜空を覆う星とその欠片たちの素晴らしさに、
千尋はあんぐりと口を開けて見上げたまま感嘆の声を上げた。
すると、後ろからくすくすと耳に心地よい忍び笑うような声が響き、
とっさに振り向く。
そこには穏やかな笑みを浮かべている美しい青年がいた。薄暗い室内で腰をおろし、
はしゃぐ少女を眩しそうに見つめている。
「なんで笑うの?」
ぷぅっと可愛らしく頬を膨らませて、肩越しに青年を見た。
「あまりにもはしゃぐから。
星などいつでも見れるだろうに」
「それはそうだけど……七夕に見えるからすごいんだよ!」
さらっと言ってしまう青年に、
千尋は少しだけむっとして、ぷいっと再び空へと視線を戻す。
「七夕?」
衣ずれの音がし、すぐ横で声を聞く。
体温も感じて、少しだけ気恥ずかしそうに、
千尋は視線を投げかけた。
「あ、ハクは知らないんだっけ……」
縁側に設えられた手すりを掴み、千尋は空を見上げる。
ハクは「うん」と頷き、その手すりに腰をかけて、
少女の横顔をじっと見つめた。
「七夕っていうのはね、
彦星と織姫が年に一度会える日なんだよ」
空の彼方、天の川と呼ばれる星の大河の両脇、
一際強く輝く二つの星に二人の姿を重ねるように、
夢見心地な瞳で見上げる。
「ふうん…そんな話があるのか」
千尋の説明を聞き終わると、
どこか感心したように言葉を紡ぐハク。
「これだけ星が綺麗に見える夜だもの、
きっと彦星と織姫は無事に会えるよっ!」
まるで我が事の様に、
嬉しそうに顔を綻ばす少女。
その無邪気さ、純真さに、
ハクは瞳を細めて柔らかく微笑みかけた。
「一年に一度の逢瀬……か……」
つと、視線を少女から空へと向けて、
どこか切ない瞳に星空を映す。
(束の間の逢瀬……まるで………)
「ハク?」
思考が暗闇へと落ちようとした時、
千尋が気遣わしげに覗き込んできた。
はたと我に返り、
心配させまいと淡く微笑み、
少女の頬を優しく撫でる。
「なんでもないよ」
「本当に?」
頬を撫でさするその心地よさにうっとりしながらも、
暗いものを落とすハクの表情に、
重ねて問いかけた。
「本当に」
「………」
しゅんとどこか泣きそうな様子で顔を伏せてしまった少女に、
もう一度、今度は強く微笑み口を開く。
「千尋、もし私とそなたが、
彦星と織姫の立場であったら、
そなたはどうする?」
「え?」
弾かれたように上げられたその顔。そこに輝く瞳には
戸惑いの色がある。
一瞬、何を問われたのか分からないように目を瞬かせ、
青年の質問の一字一句を思い出して、徐々に理解していく。
そして、答えを探すように俯き加減となった。
その様子が、手に取るようにわかり、
ハクは再び微笑んだ。
「きっと、私、天の川を泳いで渡っちゃう」
千尋は青年を見上げ、何の迷いも無くそう言い放つ。
「泳いで?」
「うん。だって、一年に一度しか会えないなんて、淋しいもの」
「でも天の川は激流だというよ?それでも?」
「それでも」
少女の言葉は、
心も真実だと訴える。
曇りない答えに、胸が満たされていくのがよく分かった。
そして、ただただ、
少女が、千尋が愛しいという思いだけが泉のように湧き溢れ、
そう言ってくれる存在が確かにいるということを確かめる為、
そっと手を伸ばして小さな体を抱き寄せる。
「ハクと会う為なら、
私はなんでもするよ」
彼の腕の中へと全てを預け、
千尋は目を閉じた。
そのぬくもりを、
魂の近さを感じて、
ハクは抱きしめる手により一層力を篭める。
その存在を腕に閉じ込め、
二度と離さないかのような力強さと熱さ。
ただただ、どうしようもなく少女が愛しい。
「ハクは?ハクは、もし彦星だったらどうする?」
「私?……私もそなたと同じだ」
どんなことをしても、
誰を利用してでも川を渡ろう。
一年に一度ではなく、
会いたい時に会いにいくのだ。
誰よりも愛しく、
二人としていない存在に。
会いたいと思う気持ちは、きっと、どんな障害も平坦な道に変えてしまう。
険しい山も、深淵な川も、
あって無きが如し……。そして………。
(二人に別つ運命を与えた天帝に報いを………)
【2002/07/07】
す、すみませんっ意味が不明(--;)
眠くて意識が飛んでました………
ああああああ………
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