-夜を駆けて-

※小説? なんか勢いだけのものになっていますのでご注意くださいm(_ _)m




 歌う勇者亭。
 それがこの場所の名前で、最強傭兵騎士団ヴァイスリッターの本拠地でもある。
「団長!」
 ドン、とカウンターの台を叩き、一人の少年が声を荒げる。
「どうしたシオン。スープでも飲みたいのか?」
 答えたのは狼の獣人。名前をヴォルグといい、ヴァイスリッターの団長を務めていると同時に、勇者亭のマスターだ。シオンと呼ばれた人なつっこい顔をした少年は、ヴォルグの質問に首を横に振る。
「違います。クリスマスですよ、クリスマス!」
 グ、と握り拳を作っての主張。
「はぁ? それがどうかしたのか」
「『どうかしたのか』じゃないでしょう。せっかくクリスマスの企画が僕たちシャイニングティアーズ側に回ってきたんですよ。のんびりスープを作っている暇なんかじゃないんです」
 ヴォルグ団長はその話を聞いてもあまり嬉しそうな顔をしなかった。
「あのなシオン……」
「今まで僕たちが表舞台に立ってから更新らしい更新がされていなかったんです。これを機に、どんな形式でもいいから更新を促しましょうよ!」
 言っていることがメチャクチャではあるが、それはクリスマス企画というもの。軽く流してほしい。
「とは言ってもだなぁ。具体的に何をすれば言いんだ?」
 スープの似込み具合を見ながら、ヴォルグ団長は嘆息する。
「そうですねぇ。手っ取り早く、サンタでも呼びますか?」
「どうやってだ!?」
 あまりにも当たり前にシオンが言ったのでヴォルグは思わずスープから目を離す。それくらいでどうこうなるものではないが、やはり心配で視線をスープに戻した。とはいえ、これからシオンが何を言い出すかも分からないので、一旦火を消してシオンの方を改めて向き直る。
「どうやって……って簡単じゃないですか」
「その簡単なことが、悪いが俺にはわからん」
「僕たちはシャイニング・シリーズですよ。フォース・ネオのゲストを使えるわけです」
 言われて、ヴォルグ団長は想像できるものがあった様子。さっと顔が青ざめる。……体毛は半分ほど青いが。
「お前……」
「そうです。サンタと言えば白髭のおじいさん。グラハムやマリエルがひくソリに乗った、ライノスを呼びましょう」
「あんな巨人族のサンタなんて誰も喜ばねぇだろうが! それにあいつの服は白と青系統だぞ」
「フレイアの衣装を着せれば良いかと思いますが。もしくはマオの」
「どっちも女キャラクターじゃないか! ライノスは男だぞ!! その案は却下だ」
「でも……」
「団長命令だ!」
 ここまで言われて、やっとシオンは黙った。しかし、そのしゅんとした顔を見続けているのも味が悪く、ヴォルグは舌打ちをして鼻先を掻きながら言った。
「誰もクリスマス企画を却下するなんて言ってないだろ。ピオスとマオが、なんかやっているみたいだからな」
 その言葉を聞いて、ぱぁとシオンの顔が明るくなる。無邪気な少年だが、実際はこんな子じゃないのよ本当に。


 クリスマス当日。
 ヴァイスリッター全員とその他は、デネボラ高地の入り口に立っていた。デネボラ高地ってどこじゃいとか思う人がいると思うが、ここはメインシナリオ07.『残雪のぬくもり』にてシオンとマオが攻略した場所で、巨人族の住処でもある。
「ちょ、ちょっとぉ。なんでこんな所にいなきゃいけないわけ?」
 もっとも露出度の高いエルウィンが、がたがたと肩を震わせながら文句を言う。
「<さーて、皆さん集まりましたかにゃあ?>」
 マイクを通して、マオの言葉が響き渡った。見晴らしの良さそうな場所にテントの下、見れば、相手は温かそうなコートを何重にも着込んで、テント内にテーブルと椅子を置き座っているではないか。隣に同じく温かそうな恰好のピオスが座っている。
「<それじゃ今から、クリスマス企画。『最速は誰だ! 頂点目指して走れレース』を開催するにゃぁぁ!>」
「<実況はマオ。解説は私、ピオスです。皆さん、雪山に登ることを、訓練だと思ってくださいね>」
 なるほど。企画と称して、ヴァイスリッター全員の修練目的でもあるのだ。これはピオスの策だろう。
「<妨害や攻撃、なんでもあり。だけど双龍の指輪の使用は、指輪自身に任せるよ♪ 誰より強い意志があれば、きっと指輪のほうから皆の手元にくると思うから。ちなみにぃ、トップでゴールした人は超豪華賞品があるから、皆がんばってねぇ!>」
 超豪華賞品、という言葉にピクリと耳を動かした者が数人。その数人の名前はあえて伏せておく。
「だけど……なんでマオは参加しないの?」
 寒そうに手を擦り合わせているシオンが、当然ともいえる質問をぶつけた。それに対して、マオはふふんと笑う。
「<猫はコタツで丸くなるもの。だからアタシは、温かく皆を見守るの♪>」
 個人的に質問にしたはずのものに対してもわざわざマイク越しというのがマオらしい。
「ちゃっかり良い役を選んだってわけね」
 恨めしそうにエルウィンが睨むが、すぐに前を向いた。エルフ王女の誇りか、やるからには勝ちたいのだろう。
「<それでは、いきなり始めるよ! 全員、位置についてぇぇ!>
 白いラインが引いてある。一直線に、全員が並んだ。
「<レーススタートは……あ、シオン君指輪貸して。……これで良し、っと>」
 マオがリンクスキル発動させ、『爆裂人形』を配置する。
「<人形の爆発がスタートの合図だよ♪>」
 緊張が高まる。

 ――ドォォン!

 そこまで大きくない爆発。雪山ということで力を抑えたのだ。それでも、全員の耳にその爆音は届いた。一斉にスタートする。
「<各選手、一斉にスタート! 速く走るために全員がラッシュを使用するが、まず最初にトップに踊り出たのはぁぁ!>」
 マイクを片手にマオが実況を開始。
 集団で走り始めた中を、最初に集団を抜けて前に出たのは、狼だ。いや、狼の獣人だ。
「<我等が団長、年の功! ヴォルグダンチョーだぁ! オートスキル『ファストムーブ』と特殊スキル『クイックステップ』を活用して先頭を突っ走る! なんだか大人げない!!>」
 ヴォルグ団長のオートスキル『ファストムーブ』は移動速度があがるもので、クイックステップはラッシュ時の速度が速く、なおかつ敵を避けながらという特殊効果がある。一番速いのは当然といえる。
「ホントに大人げないわよ団長!」
 エルウィンの非難に、ふん、とヴォルグ団長が鼻を鳴らす。
「うるせぇ! 勇者亭の経営状態がそろそろヤバイんだ! 超豪華賞品とやらを手に入れて、売り払って経営資金の足しにするんだよ!」
「<あーっと! ますます大人げない! もはや金にしか執着してないぃぃ!>」
 マオの実況も気にせず、ヴォルグ団長はさらにラッシュ。
「<ヴァイスリッターの数が減ったり、国からの資金援助は雀の涙。それに加えて、シオンやエルウィンを初めとした皆さんは、誰一人宿代その他を払っていませんからねぇ。団長も、必死なのでしょう>」
 ピオスの適切な解説に、全員が後ろめたい気になる。事実、ルーンガイストとの戦争で勇者亭がヴァイスリッターの本拠地に戻ったことにより、宿代など払ったことはなかったのだ。
「それでも納得いかないわ!」
「<おっとここでエルウィンが弓矢を取り出した!>」
「ハッ!」
 一度に連続の矢が降り注いだ。
「<シングルスキルの『連射』だぁ!>」
 しかし虚しいかな、矢はヴォルグ団長にはあたらず、その先の道に刺さり、その時の衝撃で少し崩れただけだ。
「<おや、これは……>」
 ピオスが興味深げに笑った。
 ヴォルグ団長は、そのやや崩れた足場にかかったとき、足を滑らせたのだ。そのまま転落して、一気に最下位。いや、それどころか気を失ったようだ。ヴォルグ団長、ダウン。
「<あぁ! やっぱりこの険しい足場はオジサンのヴォルグダンチョーには無理だったぁぁ!>」
 メインシナリオ07.『残雪のぬくもり』開始前の会話参照。
「<これで移動速度が『高』のキャラクターであるヴォルグ団長はダウン。残りは『中』と『下』のみ! 各々のスキルが試されますね>」
 実際に移動速度が『高』なのはマオとヴォルグのみ。さすがは獣人とその血を引く者。
「<次にトップに踊り出たのはエルウィン! ヴォルグダンチョーを殺り、ついにトップに踊り出た!>」
「甘いわね」
 エルウィンがトップに立ったのも束の間、後ろから氷を纏った魔女が現れた。
「<なんと、ここで特殊スキル『スノーヴェール』を発動させながら、ブランネージュがエルウィンに迫る!>」
 『スノーヴェール』はラッシュ中に触れた相手を凍結させる効果を持っている。ラッシュ中に効果があるのはマオとヴォルグとブランネージュと、あとはカイネルだけだ。――エルウィンが凍結を恐れて逃げ走るものの、すぐにブランネージュは追いついた。エルウィンが凍結効果に陥る。
「<おかしいですね。ブランネージュがこんなに早くラッシュだけでトップに出るとは……>」
 見れば、他の選手を全員凍結させたわけでもないようだ。その実力のみで先頭にきたらしいが、彼女の移動速度は『低』のはずだ。
「<って、あぁ! あのマント! ブランネージュのマント! いつものとは違う! 『イリュージョンマント』だぁぁ!>」
 防御力がゼロになる代わりに、回避率45%上昇と移動速度20%上昇の効果を持つユニーク装備である。彼女のマントは、まさにそれであった。
「このぉ!」
 凍結で移動速度がさがったものの、急いでエルウィンは弓を用意した。今度は足場を狙わず、正確にブランネージュを狙う。
「ハッ!」
 シングルスキル『連射』。矢の雨が、前を走るブランネージュに降り注ぐ。

 カイン!

 乾いた音を立てて、矢が当たる直前にバラバラと落ちた。矢を落したのは、両目の色が異なる、目元に傷のあるサムライ。ブランネージュの兄にして、ルーンベールの第一王子でもあるカイネルだ。
「<カイネル登場! 妹の危機を救ったぁ!>」
 イリュージョンマントを装備しているので、回避率はそうとうあがっているから手助けは無用だったと思うのだが、それでも動いてしまうというのが素晴らしきかな兄妹愛。
「あ、ありがとう。カイネル兄さん」
「アイラ。このレースから手を引け。賞品なら、俺が取ってきてやる!」
 と言いつつ猛然とダッシュ。呆気に取られていたブランネージュは、それをみすみす見逃してしまった。
「<なんと! 妹のためとか言いつつ、自分が一番になりたいだけみたいだぁ!>」
 見れば、なるほど確かに、全速力で走るカイネルの姿だ。
「聖騎士の名にかけて、レースの一着を取ってくれる!!」
「<ここでケンタウロス登場! ケイロンだぁ!>」
 カイネルに対して怒涛の如く迫るのは、ケンタウロスの勇者、ケイロンだ。どうやら、伝説の四勇者であるにも関わらず、闇の仮面に騙されたりシオンに負かされたりなどして、プライドに傷がついているようだ。主君であるカイネルを吹き飛ばしかねない勢いである。
「スパーク!」
 ドォォン、とケイロンに雷が落ちる。放ったのは、シオンではない。同じシングルスキルを持つ、クピードである。
「馬鹿なぁぁ」
 敗北台詞を吐きつつ、聖騎士ケイロン、ダウン。何しに来たんだアンタ。
「ハハハ。あばよケイロン」
 同じ四勇者の一人、クピードが嘲笑う。なんだか黒い笑みだ。
「頂上で待っているのはゼノヴィアらしいからな。俺様が会いにいってやるぜ!」
「<本編の会話からゼノヴィアさんに対して仲間以上の感情があるような気がする言動のクピード! よく見れば、彼の右手に双竜の指輪が! あまりにゼノヴィアさんを想う気持ちか、指輪はクピードを選んでいるぅ!>」
「<ということは、彼はリンクスキルを使い放題。クピードの『スローメディ』や守護召喚獣は、このようなレースの時には有利ですよ>」
 スローメディは相手を鈍足効果に落しいれる。いくら足が速くても、その異常状態になってしまっては形無しだ。見れば、エルウィンやブランネージュも鈍足効果で素早さを失われていた。
 現在トップのカイネルにクピードが迫る。
「させるか!」
 吸命刀を取り出し、構える。彼の最高ランクの武器だ。
「甘いぜ。お前の相手は、こいつだ!」
 クピードの背後から、一つの影が踊り出る。黒い鎧に、赤い瞳。『陰』状態のシオンである。
「なにぃ!?」
 カイネルの刀が一閃するが、シオンがそれを受け止める。オープニングアニメーションの如く、斬りかかりあい、互角の勝負を見せた。
「シオン! テメェ、賞品が要らねぇのか!」
「ふん! オレはなぁ、出番さえありゃそれでいいのよ。行くぜカイネル!」
「お前そういうキャラじゃないだろ……。だがまぁ、一騎討ちということか。良いだろう、正々堂々、勝負だ!」
 レースのことなど忘れて一騎打ちを始めるシオンとカイネル。グラビティスラッシュが、サンダーブレードが、スパークが、サウザンドスラストが、双月波が、残月一閃が飛び交う。
「<本当に一騎討ちを始めてしまいましたねぇ>」
「<それでクピードが悠々と頂上を目指す! ここで頂上側を見てみよぉ! 頂上側の、メイプル〜〜!>」
 マオが頂上に呼び掛ける。
「<はいはぁぁ〜い♪>」
 やや反響しているが、メイプルの声が帰ってきた。
「<こちら頂上のメイプルでぇす。さてさてゼノヴィアさん、今の所トップはかつての仲間、クピードらしいですけど、その辺どうですか〜?>」
 メイプルがよいしょよいしょと小さい身体でマイクをゼノヴィアのもとに運ぶ。
「<そうねぇ。クピードなんかより、こういう時は息子のシオンに一番になってほしいわ>」
 マイクを通してなので、もちろんクピードにもこの声は聞こえたはずだ。
「<おぉっと、ここでゼノヴィアさん息子びいき発言!>」
 ゼノヴィアの声を確認したマオが叫ぶ。
「<しかもクピード、『なんか』と言われてしまった! あ、棒立ち状態に陥りました>」
「ぜ、ゼノヴィア……」
 クピードが悲しみを表すべく、あもむろにぽろんと竪琴を鳴らす。哀愁漂う旋律が流れた。
「<悲哀の調でしょうかね。しかし、あのまま立っていると危険ですよ>」
 ピオスの言葉を理解するより早く、クピードに大岩が激突した。
 そういえばこのマップ、岩が落ちてくるのだった。
「<竪琴で戦うクピード! 音の攻撃もただの岩には効かなかったぁぁ!>」
 そのままクピードはダウン。もともと戦意喪失していたので再起不能だろう。
「<次のトップは? 誰? シオン君とカイネルは戦っている最中だし……って、あぁぁぁ!>」
 マオの絶叫。
「<な、なんと! 後続にいたはずのエルウィンとブランネージュ、シオン君とカイネルの戦いのとばっちりをうけてHPゼロ! 戦闘不能状態になっているぅ! シオン君、ソウルリターンも使わずに一騎討ちに集中! これでは誰もゴールできない!!>」
「<いえ、見てください>」
「<ふぇ?>」
 ピオスに言われて、マオは見た。ズシンズシリと軽い地響きと共に、山頂を目指す影があったのだ。その肩には、巫女服の女性が乗っている。
「<あれは! トカゲか? リザードマンか? クロコダイルか? いいや違う! あれは竜鱗の守護者、ラザラス!! その肩に乗っているのは神魔封じの聖女、リュウナだぁぁ!>」
 落ちてくる岩を、竜人ラザラスは自慢の斧で叩き壊し、安全に進んでいる。移動速度こそ遅いものの、何の妨害もなく悠々とトップを走って――歩いているようにしか見えないが――いた。
「<なるほど。リュウナ様のオートスキル『浄化』で鈍足効果をいち早く抜けたか、もしくは遅すぎて最初から範囲外だったか……。その後は、『ヒーリングオーラ』や『祝福』、『キュア』などのスキルを使うことで、ラザラスを更に強化しているわけですね>」
 普通にゴールを目指しているのは二人だけ。残りはダウン、もしくは一騎討ちの真っ最中である。
 なんの緊迫感も無しに、ラザラスとリュウナが同時にゴール。
「<ゴオオォォオオオォーーーール!!!>」
 せめてこれだけは派手にやろうというのか、マオがこれでどうだと言わんばかりに大声を出した。雪崩にならなきゃいいのだが……。

「二人とも、よくぞここまで来ましたね」
 ゼノヴィアが微笑み――内心は「ちぇ、シオンじゃないのか」と思っているとかは秘密だ――ながら、一つの宝玉を差し出した。小物装備として使う宝珠ではないらしい。
「これは『願いの宝玉』。願いなさい、さすればその願いは現実のものとなるでしょう」
 リュウナの両手にすっぽりおさまるような大きさの宝玉だ。
「……ラザラス。お願いをしてみてはいかがですか?」
「……俺、いい。リュウナが願いたい事、願う」
「いいえ。私はあなたに乗っていただけですもの。これを使うべきは、あなたですよ」
「リュウナいたから、俺、一番になれた。だから、リュウナが願う」
「……これは命令です」
「…………。……わかった」
 願いの権利を譲りあう口論が少し続いたあと、結局、渋々とラザラスが宝玉を受け取った。
「願い、どんなものでもいいのか?」
 困ったような顔をゼノヴィアに向ける。彼女はゆっくりと頷いた。
「……じゃあ、願う。『リュウナや皆と、楽しいクリスマス、過ごす』。これが俺の願い」
 ぽう、と宝玉に光が宿った。


「結局、なんだったのかねぇ」
 ヴォルグ団長が、自分で作った料理をつまみながら嘆息する。
 歌う勇者亭はクリスマス用に装飾され、パーティーが開かれていた。外では雪が降っている。
「ラザラスはダンチョーと違って純粋だからねぇ。おかげで楽しいクリスマスを過ごせるにゃ〜♪」
 手当たり次第においしそうな料理をひょいひょいと口に運びながら、マオは笑顔で答えた。ラザラスが宝玉に願ったせいか、その夜は皆が不思議と楽しい気分になったのだ。理由などない、ただ楽しくて嬉しくてしょうがないのだ。シオンは、まぁ出番ができたということだけで歓喜に打ち震えているようだが。
「楽しいことは楽しいが、これならわざわざレースなんぞしなくてもよかったんじゃ……」
「甘いですよ団長!」
 いつの間にかシオンが会話に入っていた。ちなみに彼とカイネルの勝負は決着がつかず、お流れとなってしまっとか。
「甘いって何が?」
「いいですか! 今回の話の大部分はレースだったんです。レースしなくちゃおもしろくないでしょう!」
「……はぁ?」
「それに! 今回の企画に乗じて、ばんばん僕たちを売り出して行きましょう。正月や豆まきバレンタインや雛祭りや端午の節句や卒業入学式シーズンや体育の日! 企画小説もりだくさんで行きましょう!!」
 シオンの性格がおかしいのはもう気にしない。
「勘弁してくれ」
 げんなりとした表情で言ったヴォルグ団長。宝玉の力のせいか、それでも楽しいと思っている自分はきっと負けなんだな、と心の中で長い溜め息を吐いた。聖夜と名のつく夜はまだまだ長そうだった――。

-fin-


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