-清しその夜……-




 灰色の曇天が目立ち、嫌な気配が空を覆っている。
 気が滅入りそうな曇り空のもとに、その五人はいた。
「さぁて、ちゃっちゃか潰しちまおうぜ!」
 不快感を与える空を難ともせず、赤い髪の男は豪快な声を響かせた。この男、エンにとっては曇り空など関係がないようである。そのおかげ、というわけでもないようだが、他の面々もやる気をなくすということはしていないらしい。次々に武器を召還し、剣を抜き放つ。
「うむ。今回の仕事は、ちと大暴れせねばならぬようじゃしの」
 その言葉を嬉しそうに言うのはファイマである。もともと強者との戦闘を好き好んでいる彼にとって、大多数の相手は嬉しい限りなのかもしれない。魔法戦士である彼の手には、大振りのバスターソードが握られている。
「つーか、俺様はこうした戦闘より暗闇でバッサリあっさりの方が得意なんだけどな」
 二対の魔風銀ナイフを召還しながら、暗殺者のミレドは面倒そうに言った。暗殺者にとって、野外戦よりも闇討ちのほうが得意であるから当然と言えよう。
「多くの魔物が相手……。まぁ、なんとかなるであろうな」
 白金剣を抜きながら、騎士のエードは溜め息をついた。他の仲間たちは自信というものがあるが、最近の彼はやや力不足を痛感しており、自信がなくなりかけているのだ。それでも戦おうというのだから、よほどルイナに尽くしたいらしい。彼は仲間のルイナに惚れており、しかし願いが叶ったことはない。
「よーし、行くぜ!」
 エンも武器を召還する。火龍の斧という、世界に二つしか存在しない『龍具』の一つだ。その炎を模した両刃の斧を見て、もう一人の仲間が意識を集中させる。
 己の精神力を具現化させ、武器とする。
「ルイナ、準備はいいか?」
「…………はい」
 エンの呼びかけに答えた青髪の女性の手には、既に龍を模した鞭が握られていた。もう一つの『龍具』である水龍の鞭だ。龍の口から鞭状の水が出るようになっており、その龍口からは液体であれば何でも出すことができる。
「……?」
 一瞬。
 ほんの一瞬だけ、エンは不自然なものを感じた。それが何であるか、思い当たるものが頭に閃く前に、彼の意識は他へと向けられることになる。
「来よったぞ!」
 ファイマの呼びかけによって、エンはルイナから視線を外し、前方を見る。
 黒い影の塊が、ゆっくりと前進してきているのが目に見えた。魔物一体一体の姿が見えるほどの位置に、それらは唐突に現れていた。
「情報通りだな」
 ミレドが腰を低くして戦闘態勢を作る。
「こっからだと、ビッグ・バンは使えそうにねぇな」
 エンは強大な爆発魔法ビッグ・バンを修得しているのだが、これほどまでに距離が近いと、味方や自分たちにまで被害が及ぶ可能性がある。それを回避するためには、近距離でもとことん叩き斬るのみだ。
「戦闘開始だ!」
 エンの号令に、他の四人、『炎水龍具』のメンバーが動き出した。


 ところで、現状に至るまでの状況を説明しておこう。
 なぜ彼らが魔物の大群と戦うことになったかは、数日前に溯る。
 ――数日前。
 いつも通り、『炎水龍具』のメンバーたちは、勇者ロベルの遺言のために四大精霊を探し求めていた。その途中で寄った町の酒場のことである。
「……おかしいな」
 そこまで高くない酒を注文したあと、ミレドは呟いた。
「おかしい?」
「おかしいなら笑おうじゃないか」
 エードが聞き返し、エンがしょうもないこと言う。
「エン……。解っていると思うけどな、俺様が言ったのはおもしろいって意味のおかしいじゃなくて、変だ、って意味のおかしいだからな?」
「う……解っているよ。改めて説明されると逆に虚しくなるな……」
「じゃあ言うなボケ!」
 エンとミレドが喧嘩しそうになるのはいつものことだ。以前、その喧嘩がエスカレートして、酒場を攻撃魔法でぶっ飛ばすということさえしたことがある。
「ミレドさん、話を戻しましょう。おかしいってどういうことですか?」
 金髪美形のエードが仲裁に止めた。
「ん、あぁ……」
「ワシら以外に冒険者がおらぬ、じゃろう?」
 ファイマがいつのまにか持っていたコーヒーカップを持ち上げて周囲をぐるりと見まわした。ミレドとファイマ、そしてルイナの三人はこの酒場に入ったときから気付いていたのだ。
「え?」
 エンがファイマと対照的に慌てて慌しく首を回すと、なるほど確かに冒険者と形容できるような人間が一人もいない。昼間から飲んだくれているだらしのない者が数人ほど転がっているだけだ。この町の酒場はここだけであり、酒場は冒険者の集まる場所という暗黙ルールさえ存在する。それなのに、他の冒険者がいないのだ。
「どういうことだ?」
 エンは自分からは何も考えず、すぐに仲間達に質問した。そのおかげで、少しは自分で考えろと言われたが、エンが考えたところで解るはずがないと仲間達は判断する。
「考えられる事は二つほどある。一つは偶然。もう一つは……」
「……他の冒険者があえてこの辺りに近寄らない、という可能性もあるのぉ」
 ミレドがいいかけたのを、ファイマが続けた。
「おやおや察しの良い冒険者がいたものですな」
 いきなり背後から声をかけられ、エンは慌てて振り返った。そこには、白髪でしわくちゃの老人が一人佇むのみ。間違えるはずなく、声をかけた主である。
「なんだ、じいさんは?」
「私はこの町の責任者ですじゃ。とはいえ、もうすぐ滅びる町かもしれませぬが……」
「? それってどういう……」
「エン! この馬鹿野郎っ!!」
 ミレドが大声でエンの言葉を遮った。その声に驚いたのはエンと、エードである。エンは普通にミレドが邪魔した事を驚いているのだが、エードは普通にミレドの凄味のある声に身を震わせていた。
「余計なことを聞いて、巻き込まれちまったらどーすんだよ」
「え、でもよ。町が滅びたら大変じゃないか」
「別に珍しいことじゃねぇだろ。一応、魔王は復活してんだ。魔物の軍勢に攻め込まれて、崩壊寸前の町が一つや二つはある。そんな時代に、もう少しで滅びそうな町にいちいち構ってられねぇよ」
 エンはそれでも納得できずに口を開きかけたが、それよりも早く、町の責任者である老人の言葉が全員の耳に届いた。
「これまた察しの良いもので。えぇはい、この町は魔物の軍勢に攻められておりますのじゃ。この町に滞在していた冒険者は倒されるか逃げ出すかで……。お願いですじゃ。町を救ってくだされ。払える限りの謝礼はさせてもらいますから」
 その言葉を聞いて、ミレドは額に手をやってあーあと溜め息をついた。自分の発言で老人の言葉を促してしまったようなものである。しかも、それを聞いてエンが断るはずがない。ルイナはそれに従うだろう。そうなると必然的に、ルイナに仕えているミレドも協力しなければならない。エードはルイナについていくだろうし、ファイマは強者との戦闘を好んでいる。どの冒険者も倒せなかったという魔物の軍勢相手だと血が騒ぐだろう。
「よーし任せろ! オレ達が何とかしてやるよ!」
 そういうわけで、エンたちは魔物退治の仕事を請け負ったのだ。


 老人の話によると、魔物の軍勢はいつも神出鬼没で、どこからともなく現れ、どこかえ消え去って行っていたらしい。しかし数回、戦闘を試みて失敗し、逃げ出してきた冒険者たちの話によると、一定範囲の場所から魔物が唐突に姿を現すらしい。一定範囲、とはいってもかなり広範囲で、その範囲の付近で待機していた。すると確かに唐突に魔物たちが現れた、ということである。
「戦闘開始だ!」
 エンの号令で、『炎水龍具』が動き出す。
 まず最初に踊り出たのは、炎のような塊。その塊が通過するたびに、魔物たちが一体一体倒れて行く。それを成しているのはエンであり、炎のようなものはエンの髪や『龍具』火龍の斧である。
「ワシらも続くぞ!」
 ファイマが走り、エードが走り、ミレドが走る。ルイナは接近戦よりも遠距離からの援護を得意としているので動かない。
 水龍の鞭は無制限に水を鞭状に放出し、その届く範囲も無制限。一番安全な場所から他の者を援護すべく、ルイナも水龍の鞭を振った。まず最初に、猪突猛進で背後のことにまで気を回していないエンに向って。案の定、彼は前の敵を倒すことに集中し、背後から迫っている魔物に気付いていないようだ。
 水龍の鞭が伸びて、その魔物を打ち払う――はずだった。
 魔物が迫り来る鞭の存在に気付き、身を躱した。いつものルイナならば、それを追って急な方向転換など容易いものであるのだが、しかし……。
「いてぇっ!」
 方向転換できず、鞭はそのままエンの背中を強かに打ちつけた。
「何をやっているのだ、ケン! ルイナさんの邪魔をするな」
「オレはエンだ! つーかオレのせいなのか?!」
 やや離れた位置からエードが名前を間違えたが、当然わざとである。
「ルイナさんが失敗するはずないだろう。貴様が悪いに決まっている!」
 目の前の魔物を斬り倒しながら、エードが勝手にきめつける。エンは納得がいかず、ルイナのほうを見て、少し考える。さきほど感じた違和感。エードが言った、『ルイナが失敗するはずがない』ということ。それはエンも無意識に認識していたことでもある。
 ――だから、気付かなかったのだ。
「よし、一旦、退却だ!!」
 エンが火龍の斧を消しながら、全員に呼び掛ける。
「はぁ?」
 ミレドが呆れて声を漏らした。苦戦するような相手ではないが、数が多い。だがそれでも退却するような事態ではないのだ。それなのに退却とは呆れて声もでないのだろう。いや、一言だけ声はでたが。
「いいから引くぞ!」
 問答無用とでもいうようにエンはさっさと魔物の大群とは逆方向に走り出した。ルイナがそれについていく。仕方がないので、他の三人も二人を追った。


 しばらく走ったその先に小さな古い小屋があった。中には誰もおらず、人が生活している様子はないようだ。エード、ファイマ、ミレドの三人は外で後を追ってきている魔物の警戒にあたり、エンとルイナは小屋の中にいた。
「……それで?」
「……?」
 隅に置いてあった椅子に座るなり、エンは口を開いた。ルイナは首を傾げたが、何を質問されたかわかっているはずである。
「ルイナ、お前珍しく悩んでいるんだろ?」
「それ、は……」
「誤魔化したって無駄だからな。オレがお前に隠し事しても意味がないように、お前が隠し事してんのはすぐにわかるんだ」
「…………」
 ルイナは答えない。
 それから数秒間、沈黙が続いた。その数秒間は長く、とても長く感じた。まるで一時間も経ったような、そんな数秒間後、口を開いたのはエンだった。
「何が、あったんだ?」
「…………………………」
 また、数秒間の沈黙が続いた。重い空気が辺りを漂う。
 やっとルイナが言葉を発したのは、さらに数十秒後だった。
「……夢を、見ま、した」
「夢?」
「……暗い、夢、です。周囲で、エンが、多くの人が、血だらけで、死んで、それをしたのは、私で……」
「……」
 エンは黙っていた。そうすることで、ルイナに続きを促す。
「私の心、には、半分ほど魔王の、子が入って、います。それが、目覚めた時、私が私でなくなる、のではと……」
「……!!」
 すっかりと忘れていた。エンとルイナは魔王ジャルートの子、エルマートンの精神が半分ずつ融合しているのである。エンのそれが一度目覚めた時、エンはエンでなくなり、エルマートンがその肉体を支配した。ルイナが助けてくれたこともあり、エンの中にいたエルマートンは消滅したが、ルイナの精神の中にはまだエルマートンは存在しているはずだ。
 それが目覚めた時、周囲の人間を殺したところで不思議ではない。
「ルイナ……」
「私が生きて、いては、他の人に、迷惑をかける、かもしれ、ません。そうで、なくても、暗闇に引きずられ、そうになる。夜、目を瞑ると、夢の光景が、浮かんで……。………………恐いの、です」
 ルイナは目を閉じ、俯く。その肩は、細かく振えていた。
「……」
 エンは椅子から腰をあげて、ルイナの前に立った。そして溜め息を一つついて、自身の両腕をルイナの両肩に乗せる。
「なぁルイナ。ちょっと目を開けて見ろ」
 少しの間、何も聞こえなかったようにじっとしていたルイナは、やがて目を薄らと開ける。
「今、何が見えている?」
「……エンの、顔……」
「あぁそうだ。恐くなったらさ、目を開けろ。……そしたら、オレがいる」
「!」
「お前は独りじゃない。オレがずっといてやる。エードやミレド、ファイマだっているんだ。何を恐がる必要がある? もしもエルマートンに取り込まれても、お前がオレにやってくれたように、オレがお前を全力で助け出してやるよ。だから、心配すんな」
「……エ……ン…………」
 ルイナは全てをエンに委ねるように、寄りかかった。エンはそれを、力強く受け止める。
 その時、ルイナの頬に、一筋の、何かが伝い光っていた。


 小屋の外では、三人がほぼ同じ方向を向いて、いつでも戦闘が始められるようにしていた。もう、魔物の大群が見えているのだ。
「……エード、お主は小屋に入っておってもよかったのだぞ」
 ファイマがにまりと口の端を持ち上げてからかうが、エードは首を振った。
「悔しいですけど、ルイナさんを励ますのは私の役目ではないようです」
「ヘッ。わかってんじゃねぇか。まぁ俺様でもないのは確かだけどな」
 他の三人も気付いていたのだ。ルイナの様子がおかしいことに。そして、それを立ち直させる役目を担うのに、最も相応しい人物も。
「じゃが、間に合わなかったかのぉ」
 二人は未だに小屋から出てきていない。魔物の大群はもう、目と鼻の先とも言える。
「ま、仕方ねぇや。どーせなら、エンやルイナ様が出てくる前に、俺様たちで片を付けてやってやらぁ!」
 ミレドが二対の魔風銀ナイフを構えた瞬間。ぽつりと頬に冷たいもの当った。
「んぁ? ……雨?」
 疑問に思うまでもなく、小降りではあるものの雨が降り始めた。曇天ではあったので、こうなることを予想はしていた。
 気を取りなおして、魔物の大軍に集中する。しかしその集中は、後ろから聞こえてきた小屋の扉の軋む音で中断させられることになる。
「……」
 誰もが黙っていた。エンとルイナを除く三人は何を言えば良いのか、どうすればいいのかに迷っているのだ。
「よーし、戦闘再開だ。行くぞ、ルイナ!」
「はい」
 火龍の斧を手に、水龍の鞭を手に、二人は動き始めた。やや遅れて、他の三人も動き出す。戸惑っている場合ではない。まずは、目の前にある魔物の大軍を倒さねばならないのだから。

 雨は小降りから大振りになり、大雨にはなったものの、魔物たちが減る速度は遅くなるよりか激しく加速しているようにも思えた。特に、エンとルイナのコンビネーションが目覚しく、ほとんどの魔物は二人によって倒されていた。
「こいつで最後!」
 斧を一閃すると、その魔物は呆気なく昇天してしまった。
「さて、終わったかのぉ」
 久々に大暴れできたからか、ファイマはどことなく嬉しそうであり、残念そうであった。
「……いや待て……。なんだ、アレは? ……! エン、下がれ!!」
 ミレドの叫びに、エンはふと背後を見た。そこには人一人入りそうな箱が牙を剥いてエンの頭に飛びつこうとしている姿があり、今から回避行動を行なっても間に合わないことを悟った。しかし、エンは不思議と恐怖は感じられなかった。今からどうなるかがわかっていたから。
 その箱がエンの頭を喰らう前に、横から伸びてきた蛇のようなものが箱にぶつかり、箱は弾き飛ばされてしまった。この大雨をも弾いていた蛇のようなものは無論、ルイナの水龍の鞭だ。
「こやつ……魔界の禁断箱(パンドラボックス)?!」
「パンドラボックス? 魔界に住まうと言われている魔物ではないですか」
 ファイマの呟きに、エードが大きく反応する。
 ミミック系最強の魔物。黒く薄気味悪い装飾が高貴にも不気味にも見える。
「こいつが今回の魔物増加事件の元凶か?」
「そのようじゃの。心してかかれ、迂闊に飛び込むと危険じゃ」
「でも、倒さなきゃな。行くぜ!」
 パンドラボックスが不意打ちから立ち直り、牙を剥く。まず斬りかかったのはエードである。雨の水に濡れて、一種の美しさを見せている白金剣を振り下ろす。しかしその剣がパンドラボックスの身体に触れる前に、箱から桃色の煙が噴き出した。
「この、匂い……は……?」
 その煙が何か理解するまえに、エードはその場に倒れ込んだ。死んだのではなく、眠っている。パンドラボックスから吹き出た煙は、どうやら敵を眠らせる作用があるようだ。本来ならその甘い息は、雨に混じって奇妙な匂いをもたらしたのだが、それはエードのみが知ることであった。
「ちっ、エードの馬鹿野郎がっ!」
 一撃も与えずに眠り込んでしまったエードに悪態をついて、ミレドが二対の魔風銀ナイフを交差させる。
裁きの十字架(ジャッジ・クルス)!」
 パンドラボックスが甘い息を放った態勢から立ち直る前に、ミレドの一撃がまともにはいった。だが、手に返ってきたのは、物を斬る感覚ではなく、鈍い痛み。かなりの防御力を有しているようで、力の低いミレドでは大したダメージにはならないのだ。
「皆、下がれ! ――破壊の使者たる精霊たちよ 洸輪の渦に纏いて、全てを揺るがす衝撃となれ 具現せよ、覇王の爆滅! 大地よ唸れ――イオナズン!!」
 ギリギリまで圧縮したイオナズンが、パンドラボックスを中心に弾ける。眠っているエードや近くにいたミレドが多少のダメージを受けたが、パンドラボックスのダメージのほうが大きい。どうやら、イオ系の魔法に対する抵抗が低いのだろう。
「とどめだ!」
 エンが走り、火龍の斧を振り上げ跳躍する。イオナズンの爆発により盛り上がった岩場を足場に、更に跳躍。
「『超重撃』のぉぉー!!」
 パンドラボックスが、それの危険性に気付いたのか回避しようとする。『超重撃』は威力だけなら何者に負けないが、命中率が低い。避けられたら終わりではあるのだが、エンはそのことを心配はしていなかった。ルイナが、いるから。
 ルイナの水龍の鞭が、パンドラボックスを絡み捕らえたのだ。これでもう、パンドラボックスはすぐに動くことはできない。
「――フレアード・スラッシュ!!」
 カツーーーン。
 乾いた音と共に、パンドラボックスは二つに割れた――。


 ――町から謝礼として幾分かの資金を提供してもらい、エンたち『炎水龍具』はまた旅に出た。旅立つ時、あれだけ憂鬱な気分になりそうだった雨や曇天とは打って変わって素晴らしい天候で、これからの旅を祝福しているようであった。もし、あの曇空がルイナの心の表れだったとしたら、今ではもう、とても晴れやかなものである。


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